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第六十話 強いられし者

 ――ユグドウェル城塞、中庭。



「すごかったな」

「脚本でもあるのかと思った」

「なんだかんだバーローもやるなあ」

「ニオさまを助けたのはまじGJ」

「ほんと増援のタイミングが神懸ってた」

「ニオさまといえば、急に倒れたのはビビったわ」

「あれって結局なんだったの?」

「謎ですね。攻撃は受けていなかったかと」

「アエカさまの治癒?の光も謎だよな」

「考察班と検証班に期待」

「今回もニオさまが最高だった!」

「そうそう、ドジっ子とのギャップが最高なのよ」

「アーカイブをを五十周くらいしてくるわ」

「際どいシーンの切り抜き頼む」



 俺たちがいるのは城館のテラス。


 不測の事態はあったものの、本来なら第二層でも取り逃がすはずの“骸渡りのトリストロイ”を討伐し、ひとりも欠けずに地上へと戻ることができた。


 眼下のプレイヤーたちのざわめきはこの場だけでなく、配信コメント欄でもさまざまな憶測が飛び交っているけど、特にアエカの言動がシナリオにはないもののため、いくら考えようとも答えは出ないだろう。


 封印されしアルコーン、“ニトグア”がどうなったのかはわからない。


 その存在が何を意味するのかは、これからの現地探索と、知っている本人に問いただすことでなんらかの確証を得るつもりだ。


 なんにしても心身ともにへとへと……。



「アエカ、さすがにもう下ろしてもよいぞ」


「いえ、まだ力が入らないご様子。事が終われば、私が責任を持って部屋までお連れするので、ご安心ください」


「うぐっ……!?」



 いまは、アエカにお姫さま抱っこをされている状態。


 トリストロイ戦のあと、完全に動けなくなってしまったから仕方ないとはいえ、多くのプレイヤーの前でこの状態はどうにも気恥ずかしい。


 でもたしかに、脱力したままの体はまだ言うことを聞いてくれない。



「やあやあプレイヤーのみんな、大変長らくお待たせしました! 毎度お馴染みの~、WoRプロデューサー寿崎だよ!」



 そうして、お姫さま抱っこから解放される理由を考えているうちに、ログインエフェクトからひとりの男性が姿を現した。


 彼こそが、≪World Reincarnation≫プロジェクトを取りまとめる、エグゼクティブプロデューサーの“寿崎(すざき) 一真(いっしん)”。


 その姿は現実の彼そのままで、これまでも公式情報番組などでも顔を見せてきたため、プレイヤーたちにとってはお馴染みの存在だ。

 当然、俺にとってもよく知る人なので、真横にログインしてきた彼にどう反応していいかもわからず、アエカに抱えられたまま固まってしまった。


 考えてみてほしい。現実で面識のある大の男同士が、一方だけ女の子の姿で相まみえるとなると、心中がどんなものとなるのか。


 行動を許されるのなら、ただただ隠れたい。



「ちょいと調整に時間を取られてしまって、ほんっとごめん。協議の結果、第二層はもちろん、第一層のボス戦に挑戦したすべてのパーティを同着一位とすることにしたので、多少の遅れは許してもらえるかな~?」


「「「――っ!?!!? 許す!!」」」



 当然、そんな俺の内心には触れられることなく、寿崎さんはプレイヤーたちの前で話を進めていく。


 今回の不測の事態は、特に運営や開発の落ち度があったわけではなく、もともとの自然発生する動的な環境を生み出す仕様によるもの。

 それでも彼のことだから、それすらも抜け目なく利用してプレイヤーのハートを掴みにいった、というのが事の次第に違いない。



「ボスへの挑戦を諦めて、がっくりと肩を落としてるみんなも安心して。参加賞のシードクリスタル配布も二個に増やしたので、これで自分なりのビルドを固めてもらって、またのイベントに向けて力を蓄えてほしい!」


「「「寿崎いいいいいいっ!! 太っ腹ああああああああああっ!!」」」


「たしかに最近お腹の肉はちょっと増えたけど!?」


「「「www」」」



 ウィットなジョークも交えて掴みは上々だ。



「それじゃあ時間も押してるし、褒章はプレイヤーを代表して“華麗なるヴァローレン”氏に受け取ってもらおうかな。授与はもちろん彼女(・・)から」



 寿崎さんの視線は俺を見るけど、その表情はどことなくいやらしい。


 いや、性的にという意味ではなく何かを企んでいるときの表情だから、たしかにニオが主催ではあるけど、流されるのは危険かもしれない。


 テラスに出ているのは、俺とアエカのほかに“華麗☆なる”からはヴァローレンと銀華、“皇国大隊”からはモヒカンの人とありますの人。この中から代表に選ばれたヴァローレンが、ここでも華麗な身のこなしで前へと歩み出た。



「ニオ姫さま、消耗は重々承知のうえで頼めますかな?」



 俺の中身が“勇波(いさなみ) 秀真(ほつま)”だと知っていてなお、寿崎さんはニオに対して(・・・・・・)はうやうやしく頭を下げ、だけどやはりその表情はいやらしく笑っている。



「……も、問題ない。 アエカ、下ろしてくれ」



 さすがに今回は、アエカもすんなりと言うことを聞いてくれた。

 お姫さま抱っこからは解放されるも、不調な体は不安定に揺れる。


 早く終わらせて休みたい……。


 そんなわけで特に段取りはないけど、俺の前にやって来たヴァローレンは跪き、頭を垂れて褒章を授与される姿勢を取った。



「ヴァローレン、此度(こたび)のダンジョン攻略、“骸渡りのトリストロイ”戦においての見事な活躍、“ニオ ニム キルルシュテン”の名においてここに認める。褒章を糧とし、今後もユグドウェルの発展に尽くすことを期待する。ご苦労であった」



 ふらつく体でもなんとか立ったまま、寿崎さんから渡された両手で持てる大きさの宝箱を、さらにヴァローレンへと差し出す。


 すると彼は掲げた両手で受け取り、さらに深々と頭を下げた。


 キャラメイクだけはイケメンだからこそ、黙っていれば絵になる……。

 いやでも言動が大仰なだけで、その芯はイケメンなのかも……?



「面を上げるがよい、楽にせよ」


「仰せのままに」



 ヴァローレンは頭を上げて立ち上がり、静かに銀華のもとへと戻った。

 TPOをわきまえている辺りも、彼に対する評価を改めなければいけない。


 さらにふらつく体は、アエカが背後から支えてくれる。



「あらら、ニオ姫さまは大丈夫ですかな?」


「問題ない。余に代わり、イベントの終了を告げるがよい」



 いちおう上司の前でこの口調は、あとで何を言われるやら……。

 とりあえず進行はぶん投げたから、早く終わりにしてほしい……。



「了解しました。では終了を……とその前に、ニオ姫さまこそが今回のイベントMVPだと思うけど、みんなもそう思うよね~?」



 ん……? 突然この人は何を言い出したんだ……?



「そう思います!」

「ニオさまがいなかったらあれは無理だろ」

「全俺が感動してむせび泣いた!」

「そんなんニオさま以外におらんやん」

「小さな体でがんばるニオさま、最高だよ!」

「つまりは……せーのっ――」


「「「ニオさましか勝たーーーーーーーーんっ!!!」」」


「なっ、ななっ……」



 きゅ、急に持ち上げられて瞬時に顔が熱くなった。


 い、いったい寿崎さんは何が目的でこんな……。



「というわけでみんなの了承が得られたので、ニオ姫さまにはこれをもって公開となる、特別デザインの課金衣装を進呈~! みんな拍手~!」


「「「パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!」」」



 ん? ん? んん? んんん?



「皆の者~、刮目して見よ~!」


「ちょっ、待っ、寿ざっ……」



 寿崎さんの俺を指し示す動作とともに、体を光が包み込んだ。

 止めようとするのも間に合わず、光はすぐに収まっていく。



「「「お……」」」


「「「おおお……」」」


「「「おおおおおおおおおおおおっ!?」」」


「え? え? え? なに?」



 突然の沸き立つプレイヤーたちは何事か。


 その理由は、自分の姿を見下ろしてようやく理解した。



「な、なな、ななにゃっ……」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


「いやああああああああああああああああああああああああっ!!!」



 俺は咄嗟に体を抱えてその場にうずくまる。


 さ、最後の最後に、こんな辱めを受けるだなんて……。




 強制的に着せられたのは、伝説の“スクール水着(旧スク水)”だった……。




 うぐぅ……。

これにて第二章本編の終了となります。


続きまして、第三章は国づくりをメインとするストラテジーパートとなりますが、その前に一話だけ現実世界でのお話を挟みます。

ですが、それに伴い該当話だけ一人称視点から三人称視点へと切り替わりますので、よろしくお願いいたします。


それでは、引き続きお楽しみいただけたら幸いです。

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