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第五十三話 二度あることは三度もいやだ。

 セーフティエリアに入ったことで、原理の回復は五割増しとなる。


 もっとも、ニオは休憩を必要とするほど消耗しないため、腹ごしらえもして手持ち無沙汰になった俺は、崩れた壁から下方(・・)を覗き込んでいた。


 邪教神殿の円構造の内、十字構造の外となる空間は、まさかの底が青白く発光している地面が見えない崖となっていたんだ。

 落ちたら即死は確実。だけど、あの青白い発光こそがこの世界を成り立たせている力の源“第五元素(エーテル)”だというから、神秘的な光景ではある。


 さらにはこの下に何か(・・)が封じられているらしいけど、確認はできない。



「ニオさま、そんなに乗り出しては落ちてしまいますよ」


「子どもじゃあるまいし、さすがに……いっ!?」


「ニオさまっ!?」



 そんなまさかの絶妙なタイミングで、手をついていた足場が崩れた。


 本当に落下しかけた俺を、直前にそばに来てくれていたアエカが脚を掴んで支えるも、宙ぶらりんとなった俺はまたしてもパンツ丸出しだ。



「ベ、ベルクさん! 引き上げるのを手伝ってください!」


「おっ、おおっ!? ニオ姫さまーーーーっ!!」



 かくして、俺はまたしても無様を晒し、それでも配信を止めていたことだけは救いだったものの、こうして自らのハプニング体質を自覚した……。


 ……。


 …………。


 ………………。



「はぁ、はぁ……。死ぬかと……」


「もう! こんなところで落ちてしまえば笑い話では済みませんよ!」


「ま、まさか足場が崩れるとは……」


「見るからに崩れているんですから、気をつけてください!」


「ご、ごめんなさい……」



 無事に引き上げられたものの、お冠のアエカにひどく叱られる。



「御身に代えはないのですから、アエカ殿のお叱りもごもっとも。されど、ニオ姫さまも反省をなさっているご様子、いまは無事を喜ぼうではありませぬか」


「ふぅ……。そうですね、今度ばかりは本当に反省した様子ですから、このくらいで私も引きます。本当に、気をつけてくださいね」


「ああ、助けてくれてありがと……」


「はい」



 アエカはそう言うと、俺を優しく抱きしめてくれた。

 その哀しげな表情からは、嘘偽りのない親愛を感じる。


 ニオとなってから、異常にハプニングに巻き込まれるのはなぜか……。


 俺だって、彼女に心配をかけたいわけではない……。



「ん、何かあった?」



 そうしてアエカのぬくもりに身を委ねていると、しばらくして周辺偵察に出ていたイースラが帰ってきた。


 彼女はすぐこちらの様子に気づいたようだ。



「ニオさまが外に落ちかけたんですよぉ」



 ツキウミさん、少しは濁してほしかったんだけど……。



「それは一大事。ニオさま、大丈夫?」


「このとおり、大事ない……」


「気をつけて。ニオさまがいなくなるのは、いや」


「ああ、反省していたところだ……。それで、どうだった?」


「だいたい千三百メートル先、下り階段を下りた所に扉があった」


「十字構造物内で確認できたはじめての扉か……」


「これは、ボス部屋と判ずるべきでしょうか」


「うむ、そう考えておくべきだ。なんにせよ確認に赴かねばならぬ」



 万が一を考え、ひとりの時は扉や宝箱を開けないように指示しておいたため、イースラは言いつけを守って内部まで確認しなかったんだ。



「そういえば、宝箱の類はまったく見なかったな……?」


「ここは通路で構成されていますからね。あるとすれば、その大部分が配されているのは円構造部ではないでしょうか?」


「それは惜しいことをしたな……」


「イベントを終え、再び探索に参りましょうぞ」


「そうしよう」



 これ、RPGをプレイしている時によくある現象だ。

 なぜか宝箱を無視してボス直行ルートに進んでしまうという。


 今回はイベントということで、逆に謎現象が上手く作用したのか……。



「とりあえず焚火の後始末をし、すぐに出る」


「はい」


「御意!」


「わかりましたぁ」


「わかった」



 当然、各パーティの動向は知ることができない。


 果たして、いま現在の全体の進行状況はどうなっているのか。


 少なくとも、三十分を取った休憩時間にほかのパーティが現れることはなく、とはいえ別の場所を進んでいるとは考えられるため、ここからは油断なく最低限のロスでボスを目指したい。


 皆の原理もほぼ回復し、よほどのハプニングがなければ優勝を狙えるとは思うけど、それこそが油断になるから気をつけないと……。


 なんにしても、出発準備はすぐに整った。



「ニオさま、いつでも再配信できます」


「ええ……まだやるの……?」


「そんなに嫌な顔をしないでください。そういう趣旨のイベントですから、終わるまでは顔役を務めていただかないと困ります」


「うぅ、わかった……」


「かわいらしいお顔で、カメラに向かってくださいね」


「無理を言うな」



 そんなわけで、セーフティエリアを出る前に再び配信がはじまる。



「変態ども、待たせたな」


『待ってました!』

『かわいいお声で助かるぅっ!』

『もう元通りとか、泣き顔もかわいかったよ』

『わい、もうニオさまの罵倒なしでは生きていけない』

『イベントが終わったあとも配信してほしいな』

『すっかり俺らの呼び方が変態どもで定着してらw』

『だが悪くない。なぜなら生まれついての変態紳士だから』



 だから嫌だったんだ……!



「ま、まずは状況を説明する。我がパーティはセーフティエリアにおいて消耗した原理を回復し、偵察に出たイースラが怪しい扉を発見したところだ」


『ほう?』

『ボス扉かな?』

『これは期待』

『またパンツ期待』

『↑www』

『↑wwwww』


「さすがのニオさまもぉ、三度目はないと思いますぅ」



 おいツキウミぃっ!?



『三度目……?』

『一度しか見ていないが……?』

『ツキウミくん、二度目について詳しく』


「えとぉ、さっきぃ……もがぁっ!?」



 ニオ は ツキウミ の口を塞いだ!



「変態ども、いまの話は聞かなかったことにせよ。よいな?」


『声ひっくw』

『まじで何があったんよw』

『侮蔑するかのような視線もいいですね……』


「よいな!?」


『『『イエスユアハイネス!』』』



 こいつら、変なところで協調性が高いな……。


 なんにしても構うのは最低限に、まずは扉を目指そう。

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