第五十一話 ひとときのハニートラップ。
「あまり身構えるまでもなかったな」
「ニオさまがお強いからですよ。本来はああはいきません」
「然り。それがしは手も足も出ず、属性対策の重要性を見知った次第」
『ほんそれ。いまは杖持ちしか属性攻撃できないしな』
『初見だとスライムすら相手にできないもん』
『属性付与の種石はレア中のレアだっけ』
『どこも初心者用ダンジョンじゃまず出ないって話』
『となると、第二層以降に期待か』
ゴーストは、ツキウミの魔法で動きを止めたあと、俺が再び跳躍して属性を付与した特大剣でとどめを刺した。
こうして、属性攻撃、付与の重要性が配信視聴者にも伝わり、コメント欄ではいたって真面目に関連話が賑わっている。
「ニオさま、こちらを」
そんな中でアエカに渡されたのは、ゴーストが落としたアイテム。
六角柱の結晶で、レアリティを現す発光は“青”。つまりは“レア”ランク。
「うむ、任せるがよい。スキル≪鑑定≫」
この状況ではあまりにも都合がいいけど、プレイヤーの期待を煽るための仕込みだと言われれば、納得せざるをえない。
とはいえドロップしたからには、第二層に通えということなんだろう。
「変態ども、見よ」
俺は鑑定したアイテムを、詳細を表示したままカメラへと向けた。
『ええ、それって……』
『まじで第二層で出るんだ』
『やべ、通わないと』
『うちのパーティ、杖持ちがいないんだが』
『物理一辺倒のパーティだと、そもそも掘れねえ』
『ビルドを改めるしかないか……』
シードクリスタル、≪属性付与:火≫。
絶妙なタイミングでドロップしたから運営の仕込みを疑うけど、盛り上がるコメント欄を見れば誘導には成功したということになる。
今日明日で第二層へ通えるようになるわけではないとはいえ、目的ができれば時間を忘れて没頭してしまうのが、ゲーマーという人種だ。
「ひと足先にすまぬな。だが、こうしてゴーストが落とすことは判明した。そなたらも自らを鍛え、余のあとを疾くと追ってくるがよい」
『それは、ニオさまのお尻を追っかけてもいいと……?』
『え、捕まらない? ニオさま自らの許可なら問題ない?』
『それなら、二十四時間つきまとっちゃうけどぉっ!?』
『ふむ、興味深い提案ですね。おそばで拝見させていただきましょう』
『やったー! 同人誌を描くのにもっと観察したかったんだー!』
「ばっ、馬鹿者っ、そういう意味ではない! この変態どもがぁっ!』
『『『罵倒助かる!!』』』
もうダメだ、こいつら早くなんとかしないと……。
それはそうと、あらためて“シードクリスタル”について確認をしよう。
“シードクリスタル”――星霊樹が生み出した種子のことで、その母なる大樹の“大いなる力”を引き出すことができる重要アイテムだ。
これを、探索者はレリックに組み込むことで“スキル”として使用することができ、またシードクリスタル同士を掛け合わせることで強化もできる。
そして、いま話題となっていた“物理”か“属性”かという件については、物理攻撃スキルは大抵の場合、ベルクの≪強打≫のような文字通り“技”のことで、属性攻撃スキルはツキウミの≪風剣≫、“魔法”のことを指す。
例外として、≪属性付与≫を組み込めば物理攻撃スキルも属性を帯びるようになるけど、当然その分の余計な原理は消耗する。
どちらにしても活用するためのビルド、何よりもリソース管理が大事。
ビルドの詳細については、またあらためて落ち着いた時にでも。
「とにかくだ、この≪属性付与:火≫はベルクが使うがよい」
「な、なんと!? それがしでよろしいのですか!?」
「そなたのレリックは盾であろう。役割をこなしてもらうためにも、まずはゴーストの攻撃を受けられるようにならねば。皆も異論はないな?」
「はい、最適な判断です。さすがはニオさまですね」
「ボクはもうスロットがいっぱいだからぁ、それがいいと思いますぅ」
「ん。あたしはレリック使えないし」
「ということだ」
「誠にかなじけなく……それがし、全身全霊で皆をお守りする所存!」
というわけで、≪属性付与:火≫はベルクが装備することとなった。
これで彼はゴーストの攻撃を受けられるようになり、俺の安全も高まる。
万が一にも憑依されたら、またなんかやらかされそうだし……。
事が起きる前で本当によかった……。
『それにしても、もうティッシュが空なんですけど!』
『おいおい、センシティブな発言はアイちゃんに消されるぞ』
『違うよ!? 鼻血が止まらないってだけ!』
『ああ、あれ……。わかる……』
『たしかに、俺も目覚めてしまいそう……』
『僕はもう目覚めましたが何か?』
『特にニオさまはふわふわだっていうし、うらやましい』
『公式グッズで、ニオさまふわふわ再現抱き枕の制作を希望』
『気持ちはわかるけど、実際ツキウミくんの中身って……』
『『『だがそれがいい!!』』』
うぅ、この変態どもがぁっ!!(声には出さない)
話が逸れていたから油断をしていたものの、コメントはついに俺の、いや俺たちのいまの状態に言及をはじめた。
そうなのである、約束は約束だから仕方ないのである。
要するにツキウミと約束?をした、「終わったらまたギュッてしてもらえますかぁ?」を実践している状態だから、現状は威厳も何もなかったりするんだ。
「ツ、ツキウミ、そろそろ……」
「やですぅ。ニオさま、ほんとにふわふわなんだもん」
「そ、そういうことでなく……いまはほら、配信中だから……」
「ボクは気にしませんぅ。ヒワちゃんにぃ、おいしいものは絶対に手を離すなって言われてるのでぇ、もう少しこのままでいますぅ」
ぐあーーーーっ!? あいつぅっ!!
「アエカもなんとか言ってくれ、このままでは進行に……」
「たしかに、このままでは奥へと進むにもままなりませんね。ツキウミさん、もう少し頬を寄せて、脚ももっと絡ませるようにしてもらえませんか?」
「おい、おまえは何を言っているのだ?」
「何をと、最適な絡みと画角で動画に収めるまでは、奥へと進むにもままならないという話ではないですか! ニオさまこそ何をおっしゃっているのですか!?」
「余ぉっ!?」
ここまでくると、もうあれなんじゃないかな……。
アエカも懐柔された、ヒワによるハニートラップだ……。




