第五十話 邪教神殿跡ダンジョン(5)
ゴースト――生気のない老若男女がローブをまとった姿で、一般的に想像する“幽霊”と大差ない非実体のモンスターだ。
その青く発光する霧状体は一見すると幻想的にも思える。ただ、その一人ひとり違う表情はすべてが苦悶の感情を映し、生きている者をひとり残らず呪い殺さんと哀叫の声を上げ襲いかかってきていた。
「せぇいっ!」
「キィアアァァアァァァァアアァァァァァァッ!?」
「ニオ姫さま!」
「ベルク、待たせた! 体に異常は!?」
「≪衰弱≫の状態異常に侵され、このベルク一生の不覚!」
ツキウミを落ち着かせる間も、スキル≪挑発≫を使用しゴーストを引きつけていたベルクに、俺は駆け寄りがてら特大剣の斬撃で加勢した。
初撃は芯こそ捉え損ねたけど、ローブの一部を斬り裂いただけでもゴーストには効果的なようで、金切り声を上げあとずさっている。
状態異常を受けたというベルクは、正直なところ、その竜の相貌では変化が大してわからない。
≪衰弱≫は、要するに≪風邪≫デバフと似たようなもので、全ステータス減少に実際の行動阻害と、このまま継戦させるのは気が引ける。
ツキウミの≪治癒≫も回復できるのは体力だけで、なけなしの供給から確保できた状態異常回復薬も三本しかないと、それなら……。
「余を見よ!」
「御意!」
それまで、ゴーストから決して視線を外さなかったベルクが俺を見る。
「ニオ姫さまを視界に収めると不思議と感ずるこの高揚感、まさか……」
「ああ、余のユニークスキル、≪皇姫への敬愛≫によるものだ。まだ話してはいなかったが、余を見た者に≪英雄≫効果、士気向上を与える」
「なんと……!」
「状態異常を治すわけではないが、『病は気から』と言うのであれば、ほんの少しでも≪衰弱≫を相殺するのではないか?」
「然り! 多少なりとも、動きが楽になり申した!」
「よし、アエカ!」
「はい! スキル≪親愛の加護≫!」
「おおおっ!? 絶好調となりましたぞ!」
俺たちは三体のゴーストを牽制しながらバフスキルをかける。
アエカの防御系バフスキル≪親愛の加護≫は、ベルクにこそ有効なスキルだけど、俺の指示がないと他者にはかけないのが彼女らしい弱点だ。
「≪衰弱≫が治ったわけではない。≪挑発≫はもうよい、余と並べ」
「おおせのままに!」
「イースラも攪乱はもうよい、ツキウミの護衛を!」
「ん!」
イースラはベルクからも離れ、ゴーストの背後へ回り込むよう攪乱に徹していたため、呼び戻してツキウミのそばにつける。
そうして体勢を立て直し、後衛三人を守る形で俺とベルクが横に並んだ。
「さて、きさまらは、どうやら我が剣が怖いとみえるな」
三体のゴーストは、少し前までベルクにまとわりついていたというのに、いまは離れた空中を漂うばかりで、その視線は俺の特大剣を追っている。
世界で唯一の“光焔”属性を持つ、専用レリック――≪星宿の炉皇≫。
いわゆる、神魔・不死特攻となるニオだけの専用属性特大剣だから、それを感じてか逃げはせずとも接近も躊躇してしまっているようだ。
「カカッ! 彼奴らの様子、よほど恐ろしいのでありますな! これよりニオ姫さまの独壇場、それがしが貫き通し花道を進ぜましょうぞ!」
独壇場……たしかにそうだ。
つまりニオにこの≪星宿の炉皇≫がある以上、運営は最初から俺にこのイベントを優勝させようとしている……とも邪推ができる。
何を企んでいるのか……。ゲームを盛り上げる運営、開発としては当然のことだけど、はじまった時から何かいやな予感がして仕方ない……。
いや、ただの憶測に不安を感じる必要はないか……。
「あまり無理をするでない、先はまだ長いのだからな」
「ご心配、痛み入る! されど騎士に二言はなく、このベルク、ニオ姫さまをお守りするがための槍盾にして、一気呵成に推して参る!」
ベルクはそう告げると、間髪入れずにランスを押し出して突進をはじめた。
「え、ええいっ、余も続く! 支援を頼むぞ!」
「はい!」
「あわわ、がんばりますぅ!」
「ん、任せて」
「「「キィヤアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!」」」
にわかに動きを慌ただしくするゴーストたち。
ベルクを先頭に、その背を俺が追い、俺の背後には左右それぞれアエカとイースラが並びツキウミは最後尾の、矢尻のような隊形で突き進む。
彼我の距離は十メートルとないけど、システムアシストによる思考加速が時間の流れを緩やかにし、体感は五十メートルにも百メートルにも感じる。
その間も背後から聞こえるのは、あまりにも小さなぶつぶつとした呟き。
それはほかでもない、ツキウミが属性攻撃スキルの発動呪文を唱えているのだろうけど、これは該当シードクリスタルが低レベルであるほど呪文が長くなると、現状では正面切っての戦闘に適さないものだ。
早いところ強化をしてあげたいけど、そんなことを考えている間にも……。
「おおっ! ≪強打≫!!」
ベルクの物理攻撃スキル≪強打≫。盾による強撃がいままさに襲いかからんとするゴーストの一体を弾き、いや消し飛ばした。
だけど当然、通常物理攻撃ではゴーストに対して効果はない。
一時的に霧と四散するゴースト。再び霧状体は集い、だけど間髪入れずにベルクの背を蹴って跳躍した俺が属性特大剣を振り下ろす。
「ギィヤアアアアァァァァアアァァァァァァァァァァァァッ!!」
断末魔の悲鳴を上げる一体を無視し、さらなる二体の追撃。
「させません!」
「ん!」
その瞬間、落下軌道の俺の側面を弾丸と矢が通り抜け、残る二体のゴーストにもそれぞれ穴を開けた。
ただ、ベルクの時と違って行動を止められず、ゴーストは小さな穴の開いた体を意にも介さず、俺とベルクを霧状体で包み込もうとする。
だけど、その一瞬の間隙で間に合う。
「いまだ!」
「風の刃よぉ、切り裂けぇっ! ≪風剣≫!!」




