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第四十五話 イベントのはじまり。(2)

 ――古ユグドウェル地下水道第二層、“邪教神殿跡”。


 場所は“監獄区画”の奥深く、崩落した縦穴を下りた先に存在する。


 この世界において何をもって“邪教”とするのか、それはメインストーリーとも深く関わっていて、いわく――。



 ――大いなる樹の頂にひとりの女がいた。


 ――女は創世の蔓を紡ぎ、ひと繋ぎの世界を創る。


 ――されど混沌の神々は世界の存在を許さず、崩界の雷を降らす。


 ――女は天を封じ、地には魔人が生まれ、果てには澱みし闇泥。


 ――彼の者は調律者にして創世の女神、神理を超えし者。



 ――やがて、異界より訪れし者あり。



 これが、多くを語られることない≪星霊樹の世界(アルス・パウリナ)≫のはじまり。


 その名すら明かされていない“創世の女神”も気になるところだけど、このうちの“混沌の神々”こそがこの世界を滅ぼす邪神とされ、要するに“邪教”とは“混沌の神々”を崇拝する狂信者たちの組織だ。


 そんな邪教の神殿が、古王国時代には国の直下にあったとか、よほど息苦しい世の中だったんだろうなと……裏設定を想像してしまう。


 ……設定の内に収まっていればいいけど。



「邪教神殿跡と言うからに、おどろおどろしい様を想像していたものの、実際の様は幻想的でさえありますな! ニオ姫さま!」



 実際に邪教神殿を目にしたベルクが感嘆の声を上げる。



「そうだな、邪神といえども信じる者にとっては神にほかならず、伝承のみを紐解けば“雷の化身”とされ信仰に値するのではないか」



 監獄区画の縦穴を下ってたどり着いた場所には、天井を支える巨大な柱が所々に並び立つ広大な空間が存在していた。

 ここでは青く発光する粒子と鉱石が明かりとなり、空間全体を淡く照らしているため、そんな幻想的な光景に訪れた者はまず感動を覚えるだろう。


 そして、立ち並んだ巨柱の先に存在するのが“邪教神殿”。



「きれいだけどぉ、怖くもありますねぇ……」



 身を縮こませたツキウミの言うとおり、神殿からは妙な気配が漂っていて、ほかのプレイヤーも何かを感じてか全員が足を止めている。


 結局、ここにいるプレイヤーの数は俺たちを含めても三十人ほどで、第二層までついてきたのはこの六パーティですべてだ。


 先頭にいるのは案の定というかあの人、“華麗なるヴァローレン”。


 ニオよりも目立っているけど、あまり目立ちたくない中の人()的には、格好の視線誘導代わりに活躍をしてくれるのかもと期待が芽生えている。


 いや、でも、ニオを演じるのなら、うしろで縮こまってもいられない……。



「どうした皆の者、妙な気配に臆したか? あの程度はしょせん過去の遺物、巣食うは土地神にすらなれぬ地を這うまがいもの。我こそはと思う勇者よ、いまこそ己が研鑽の成果を皆の前で誇示する時ぞ!」


「ははっ、臆したとはとんでもないっ! なればこの“華麗なるヴァローレン”っ、ニオ姫さまの行く道を切り開く剣となりましょうぞっ!」



 真っ先に反応を返したのはやっぱりこいつかぁ……。



「麗しき御身は我が剣によって守られっ、いずれは『ああっ、ヴァローレンっ』とっ、想いを寄せられるもいたしかたなしっ! だがこのヴァローレンっ、多くの女性に言い寄られようとっ、すべてが偽りなきまごうことなき純っ愛っ! だから安心してはくれまいかっ、不義とはもっとも縁遠いこの華麗なるっ、私をっ!」



 想いを寄せるわけがないし、むしろ不安の種が増える増える……。



「いや、言い寄られたことなんてないだろ、バーローが」

「バーローだしな。むしろこの前は引っ叩かれてたのを見た」

「それも、ニオさまはどう考えても無理だろ。無謀のバーローか」



 え、ヴァローレンってバーローって呼ばれているの……?



「もっ、もうー! ほんといつもうちのリーダーがごめんなさい! ほんとほんと、こんな時くらいおとなしくしていてくださいー!!」


「ほんげーーーーーーっ!?」



 あ、銀華さんに戦斧の側面でぶっとばされた。



「よし、いつものお約束も終わりましたであります! 仕切り直しといきまして、ニオ姫さまに続くであります! 小隊長殿!」


「うむ! クラン“ニオ姫さまがための皇国大隊”第一先遣分隊、全隊進め!」



 え、なに……それ……。


 よく見かける“あります”の人が取り仕切り、“小隊長”と呼ばれたモヒカンの人が号令をかけると、彼らのパーティが行進をはじめた。


 それも、六人全員が真っ黒な軍服もどきを着て規則正しく行進していくのはいいとしても、全員の装備が“弓”だけしかないんだけど……?

 いずれは“銃”に強化をするのなら、派生元となる“弓”を選ぶのはわかるけど……現状で全員が……というのは、モンスターを相手に辛いはず……。


 そ、それにしても“皇国大隊”か……当然、俺は許可を出していない。



「ふふっ、ニオさまは人気者ですね。妬けてしまいます」


「よしてくれ……。スキル効果ってことはわかっているだろう……?」


「ニオさまにもともとの魅力があるからこそですよ」


「う……。そうだといいが……」



 アエカは目を細めながら、俺を見下ろしてそんなことを言う。

 隣ではイースラが頷いているので、彼女が好意的なのはわかる。



「まあいい、出遅れる前に我らも行く。皆の者、我々はともに進む協力関係ではあるが、競い合う隣人でもある。遠慮せずに先鋒を務めよ!」


「おおっ!」

「よっしゃ、やってやろうぜ!」

「ヒャッハーッ! みなぎってきたーっ!」

「あ~ん、ニオさまのお尻を追っかけていたい~」

「メェ~~~~~~ッ!!」



 ん、羊がいる……? いや、たしか“羊人種(パーン)”だっけ……。


 何はともあれ、プレイヤーたちは邪教神殿へと勇ましく駆けていく。

 第一層からは難易度を上げ、いまだ満足に探索もできない場所へと。


 どんな冒険が待ち受けているのか、期待から胸は高鳴るばかりだけど、あられもない姿を晒すことだけは避けなければならない……。


 負けられない戦いがここにはある……いろいろな意味で……。

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