第四十四話 イベントのはじまり。(1)
「皆の者、よくぞ来てくれた! 余が“ニオ ニム キルルシュテン”、そなたらに“古ユグドウェル地下水道”攻略がための助力を願う! 探索者たちよ、いまこそ鍛え上げたその力で、己が名を星霊樹の袂まで轟かせてみせよ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
――ユグドウェル城塞、中庭。
いまこの場には多くのプレイヤーが集い、イベントのはじまりを告げるニオの口上に、勇ましい雄叫びと振り上げるレリックで応えてくれていた。
そんな中で、俺は城館のテラスから全員を見下ろしている。
中庭の様子は、多くのプレイヤーによって花壇以外の場所すべてが埋まってしまい、中に入れない分は城塞を取り囲んで配信を観ているそうだ。
そう、少女となったいまの俺の姿は、動画サイトで行われているリアルタイム配信で世界中の人に観られている……。
配信の同時接続者数はいましがた十万人に達し、正直な気持ちを言えば、いますぐにでもここから逃げ出したいほど……。
そんな状態だから腋と背はすでに変な汗で濡れ、緊張と興奮と、なにより恥ずかしさによって視界がぐるぐると回ってしまっていた。
「では、此度の探索派遣の概要について、彼女に説明をしてもらう」
俺が目配せをすると、プレイヤーたちの視線も一斉に隣へと向く。
それでもまったく物怖じせず、しゃなりと一歩を踏み出したのは、アエカ。
「ニオさまのお側付きを務めさせていただいている、アエカと申します」
彼女はまずカーテシーで頭を下げてから、しとやかに言葉を紡いだ。
そんな美女の楚々とした様に、プレイヤーたちは惚けている様子。
むしろ、ニオよりも姫……いや、女皇に相応しいのでは……。
「今回、探索者の皆さまにおかれましては、古ユグドウェル地下水道、それも第二層“邪教神殿跡”の攻略に従事していただきます」
アエカが告げるイベントの概要は公式サイトでも告知されていたもので、ここと同じく、ほかの二国の領主も同じように進めていることだろう。
“共催”とはなっているけど、内部ではまだ国交どころか所在地すら把握されていない、その各国の領主というのが――
ウォルダーナ森星王国王女、“エスティリア レ ルメディア アーカナ”。
グランデストニア連邦共和国統括議長、“グレン ルド ロスヴァニア”。
俺と同じく、ふたりとも≪World Reincarnation≫のメインストーリーに登場する、中身入りのキャラクターだ。
いちおう誰が入っているかは聞いているけど、親交のあるふたりだからニオの姿では会いたくない……。絶対にからかわれる……。
まあ、その件やストーリーについてはとりあえず置いておいて……。
「報酬の獲得は、第一層、もしくは第二層ボス“骸渡りのトリストロイ”の討伐成功を条件とし、参加するだけでもニオさまから粗品が与えられます」
正確には運営からだけど、そういうことになっている。
「そして、早期攻略に成功した上位五組のパーティにおかれましては、さらなる豪華報酬をお贈りすることを、ニオさまの名のもとに約束いたしましょう」
この豪華報酬は、主催者であるはずの俺までもらっていいとの話。
つまりこのイベントは、領主パーティも含めた強豪がしのぎを削り合う“報酬争奪戦”の体をなしているものの、モンスタードロップや宝箱の中身がいいものになるなど、実力差に関係なく皆にメリットのあるものともなっている。
参加賞の“好きなレリックひとつ”というのも、イベントUIの“参加”にチェックを入れるだけでもいいと、時間が合わないプレイヤーにもやさしい対応だ。
「ニオさま、よろしいですね?」
「ああ、余の名のもとに約束しよう!」
「うおおっ! 絶対に入賞してみせるぜー!」
「キャーッ! 私はアエカさまからご褒美がほしーっ!」
「さっすがニオさまーっ! 太っ腹ーっ!」
「腹といえば、ニオさまのお腹はぷにぷにやわらかそーっ!」
「え、まじで? なんで知ってんの?」
「動画サイトで、『ニオ お腹』なんかで検索してみーっ!」
「おおっ! サンクス兄貴、検索してみるーっ!」
「やだ、ニオさまが真っ赤になって震えてる! かわいーっ!」
「いいもの見れた! これでもう後顧の憂いはなーーーーいっ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
ぷるぷるぷるぷるぷるぷる……。
あれだ、この前のホーンラビットと冥獣の時の……。
スカートがまくれ上がって、お腹が皆の目に晒されて……。
アエカが整えてくれる前に……激写されたやつが……ネットに……。
「うっ、うぐっ……。いきなりっ、こんな辱めをっ……」
「はぁ、はぁ、涙ぐむニオさま、最高ですーーーーーーっ!!」
「ぐぇえっ!? 抱きつくなーーーーーーーーっ!!」
「「「うぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」
晴れやかな天気のもと、皆のテンションははじまりからクライマックス。
「ええいっ、開始だ開始っ! 皆の者、ダンジョンへと向かえーーーーっ!!」
「「「ヒャッハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」
そんなわけで、さらなる醜態を全世界へと晒す前に無理やりはじめた。
テンションが上がったプレイヤーたちは暴徒となり、城塞の裏手から地下水道ダンジョンへとなだれ込んでいく。
こうなってしまえば、数の暴力があの“骸渡りのトリストロイ”だろうと圧し潰して、文字通り水道へと流してしまうだろう。
協力をするもよし、邪魔をするもよし、内部ではどんなドラマが繰り広げられるのか、すべては公式の配信を通して人々に見守られている。
「よし、我らも行くか」
テラスから戻ると、室内ではイースラ、ベルク、ツキウミが待っていた。
「ん、ニオさまについてく」
「不足なし! 参りましょうぞ、ニオ姫さま!」
「うぅぅ、女の子の姿で配信に乗るなんて。ううぅぅ……」
その気持ち、すごくよくわかる……。
「ニオさま、楽しんでくださいね」
「ああ、アエカもな」
そうだな……。
この先には波乱が待ち受けているのかもしれない。(はしたない意味で)
それでも、新たな仲間たちと共に今回のイベントを楽しもう。
何が起きようと、それこそが運命なのだから……。




