第四十一話 パーティ結成(2)
「すまん、また大声を出した……」
「わぅ、びっくりしたのだぁ……」
“情報屋のヒワ”――そういえば、彼女はレリックを実体化していなかったし、ずいぶんと軽装だったために敏捷型前衛だと思い込んでいた。
それよりも、ムーシカが言っていることの意味は……。
「ムーシカ、ヒワであってヒワでないことの理由を説明してもらえるか?」
「わうぅ……。ヒワなのだ、でもヒワじゃなくて、ヒワなのだ」
韻を踏んだだけで言っていることは変わらず、さっぱりわからない。
彼女をこういう性格に設定したのは俺だけど、まさかそのせいで自分自身を困惑させることになるとは……。
本人に、ヒワに直接会って訊くしかないか……。
「ニオ姫さま、ヒワ殿ならそれがしがフレンド登録をしておりますゆえ、この城塞に呼び出すことも可能。いかがいたす?」
「なん……だと……!」
“渡りに船”とはまさにこのこと。
「ベルク、頼めるか。余が回復役を探しておると、一筆したためてくれ」
「御意!」
ベルクはコミュニケーションウィンドウを開き、すぐにメールのやり取りをはじめるも、それからしばらくして彼宛ての着信があった。
こちらに向けられたUIには、当のヒワ本人が映っている。
『ニオさまぁ、ヒワをお探しですかぁ?』
「ああ、ムーシカに回復役の心当たりを聞いたら、そなたの名を挙げてな」
『あ、なるほどぉ。それでヒワだと思ったんですねぇ』
「結論から訊きたい。どうなのだ?」
『あはぁ、違いますよぉ』
「違うのか……」
ヒワは相変わらず、ウィンドウ越しでも意地悪げに笑っている。
『でもぉ、違うとも言いきれないんですよねぇ』
「それは、どういう……」
『いますぐそっちに行くのでぇ、城塞に入る許可をもらえますかぁ?』
「ああ、よろしく頼む」
『できればぁ、永久権でお願いしますぅ』
「足元を見るな……。まあよい」
『やったぁ♪ もちろん悪いことはしませんからぁ、大丈夫ですよぉ♪』
「“情報屋”を名乗るのであれば、利があることを期待するぞ」
『もちろんですぅ。でわでわぁ、すぐに行きまねぇ』
会話が終わり、ヒワとのボイスチャットが切れる。
苦手というわけではないけど、彼女と話しているとどうも悪寒が……。
なんか、見透かされているというか、虐げられている感じがするんだ……。
怖い怖い……彼女には、あまり借りを作らないようにしないと……。
***
「え……」
チャットで会話をしてからニ十分ほどで彼女はやって来た。
だけど、ロジェスタに連れられ執務室にやってきた彼女は、ふたりいた。
瓜二つの、まるで見分けがつかない、ふたりのヒワ。
いや、同じなのは顔だけで、服装や印象はまったくの正反対。
短い上着に、へそ出しショートパンツ軽戦士風のほうこそがヒワで、もうひとりは、腰辺りまでの水色のローブにミニスカートを合わせ、頭にはベレー帽、手には杖を持ってどこかおしとやかな印象を受ける。
その表情はいまにも泣き出しそうで、隣で意地悪そうにニヤニヤ笑うヒワと比べると、性格まで真逆のようだ。
「双子……?」
「わうぅぅっ!?」
「なんとっ!」
ムーシカも見てはいたけど、知らなかったということか……。
「お招きありがとうございますぅ。早速、紹介しますねぇ。この子は“ツキちゃん”、ヒワとは見てのとおりの双子でぇ、彼女がお探しの回復役ですよぉ」
「そうだったのか……。余が……んん?」
こちらも自己紹介をしようとしたところで、その“ツキちゃん”が、慌てたようにヒワの手を取って振り回しはじめた。
「ひぅ、ヒワちゃんっ! 彼女じゃないよぉ、ボクは男だよぉ!」
んんん……?
「えー、でもツキちゃん、いまはれっきとした女の子の体だよねぇ。なんなら剥いてたしかめちゃうけどぉ、ニオさまの前で嘘はいけないなぁ」
んんんん……?
「うぅーっ! で、でも、現実では男だもんっ! キャラメイクの時に、たぶんヒワちゃんと混線して女の子になっちゃったんだもんっ!」
「えー、そんなことあるのぉ? くふふ♪」
んんんんんん……?
ま、まさか……。
「ツキとやら……。そなたは、ひょっとすると、現実では男性だが、キャラメイクの際に、なぜか女性アバターとして出力されたと……?」
「はっ、はいぃ……。現実では、ヒワちゃんは女の子だけど、ボクはほんとに男で、なんでこうなったのかわからないんですぅっ!」
「なんという……ことだ……」
お、俺だけじゃなかったんだ……。
☆ 親 ☆ 近 ☆ 感 ☆
いや、彼は不具合なんだろうけど、俺以外にも“女性アバターに入ってしまった男”がいるという事実が、妙な充足感を芽生えさせてしまっていた。
彼の言うとおり、まずヒワが女性としてサーバーに登録されていたのなら、同じ家から接続した彼を同一人物と誤認し、ゲーム内に女性として出力してしまったなどの不具合の理由が考えられる。
彼、“ツキ”は恥ずかしそうに手や杖で身を隠そうとしているけど、その様子は俺自身も通った道……。
わかる……その羞恥心、わかるぞぉっ……!
「ツキよ、余はその気持ちを察する。大変な思いをしたな……」
「――っ!? ニオ……さまぁ……わかってくれるのですかぁ……!」
「ああ、すぐにでもアバターを作り直したいくらいであろう……。だがそれもすべて失敗し、やむをえず少女の姿に甘んじているとみえる……」
「ニオさまぁ……うああぁっ! そうなんですっ、そうなんですぅっ!」
くっ、やはりか……。この世はなんて不条理なんだ……!
「あれあれぇ、ニオさまぁ、なんでツキちゃんの気持ちがわかるんですかぁ? ひょっとしてぇ、ニオさまもぉ、なんてことがあるんでしょうかぁ? くふふ♪」
げぇっ!? まだやっべー曲者がいた!!
この情報屋を自称する娘に、弱みを握られるわけにはいかない……。
静観しているベルクやイースラの手前もある……。ムーシカはきょろきょろしているだけだけど……どうにかして誤魔化さなくては……!




