第四十話 パーティ結成(1)
シクシク……全身を隅から隅まで舐められた……。
おかしいな……俺のほうが腕力はあるはずだけど……。
まあ、過ぎてしまったことは仕方ない……。
ムーシカの貢献?のおかげで、粘液をなんとか落とした俺たちは揃って城館の廊下を歩いている。
内部の修復は八割方終わっていて、まだ家具類が揃っていないけど、目に見える範囲で崩れている箇所は見当たらない。
石造りの廊下は、踏み歩けばコツコツと小気味よい靴音を鳴らし、進むとともに反響音が向かう先には執務室がある。
執務室の両開きの扉は新しく設えた物。なんとなく嬉しく思いながら真新しい扉を開くと、室内には直立不動のベルクがいた。
「ベルク、待たせたな」
「御身のもとで待つのであれば重畳。喜悦に身を震わす時間でありました」
その割に、ベルクの表情は曇っているように見える。
ほぼ竜の顔貌だから、変化を見抜けるほどではないけど。
「大袈裟な。楽にしてよいぞ」
「はっ!」
といっても、連れてきた時も同じことを伝えたので、俺が入浴している時間も直立不動で待っていたんだ。
執務室にはニオ用の執務机と、来客を迎えるためのソファーが用意してあるとはいえ、巨漢の彼が座れる大きさでないのはたしか。
「して、そちらのご婦人方は……。おひとりは、たしかギルドの……」
「ああ、紹介しよう。探索者ギルドの受付嬢ムーシカと、余の直属の狩人イースラだ。余と変わらずに気を向けてやってくれ」
「御意! ムーシカ殿、イースラ殿、それがしはベルクと申す竜が騎士を志す者! お二方には、今後ともよろしくお頼み申し上げる!」
「わうぅっ! おっきい人、よろしくなのだぁっ!」
「ん、よろしく」
ベルクは、ムーシカとイースラに対しても跪いて対応している。
ここまでだと律義さもお見事だけど、俺的にはもっとフランクでいい。
「さて、ここまで来てもらった件だが……」
「お咎めであるなら、このベルク、心して……」
「いや、そなたを余の騎士にと、先ほどの話についてだ」
「――っ!?」
ああ、表情を曇らせていたのは失敗したと思っていたせいか。
「冥獣の討伐を成し遂げた暁に……とは言ったが、余はそなたの活躍を耳にし、それ以前から引き立てようと考えておったのだ」
「なっ、なんとっ! しかし、それがしはまだまだ未熟……」
「未熟なのは余も同じ。率直に告げると、余はそなたのような義理堅く実直な騎士を欲する。なれば、余のパーティの盾役を担ってはくれぬか」
「なっ、なんとっ、もったいないお言葉……!」
「まだ日が浅く時期尚早とも思えるが、余は、ひとり鍛え上げた完璧な騎士よりも、共に競い合い、時に剣を交えることができる戦友が欲しいのだ」
「なんという寛大さ……。それがし、幾度となく感服つかまつる……!」
「して、返答は? 余のそばにとは、そなたの望みでもあった」
「それがしは……それがしは……」
結構回りくどいけど、これもお互いにロールプレイなんだ。たぶん。
「して?」
俺はずずいと彼に寄り、最後のひと押しの言葉を発する。
あくまで“それで”であって、べつに何かを“して”ほしいわけではない。
ニオのかわいらしい声で言われると、意図しなくとも破壊力は抜群だけど。
「無論、ニオ姫さまの主命とあらば断るはずもなく! それがしは、どこであろうと、たとえ星霊樹の頂であろうと、御身のもとに馳せ参じる所存!」
その言葉を聞き、俺はニオの柄になく満面で笑ってしまった。
「よき。ではベルクよ、そなたもこれより余のパーティの一員だ」
「はっ! 不肖ベルク、ニオ姫さまと共にあらんことを誓い申し上げる!」
ベルクは跪いた姿勢のまま、さらに深々と頭を垂れた。
前衛は俺とベルク、後衛はアエカとイースラ。これで、地下水道ダンジョン下層への挑戦に一歩近づいたけど、やはり一番の問題は回復役。
回復系のユニークスキルを持つNPCなんて、プレイヤーの中から探すよりもさらに希少で難易度が上がるし。
自身が一般プレイヤーなら募集を出すのもありだけど、ニオが大々的にとなると、一種のイベントになってしまうと思うんだ……。
「あ、頭を上げ、もっと楽にしてよいぞ」
「はっ!」
「ところで、そなたのような無所属の回復役を知らぬか?」
「ぬぅ……。回復役となると、それがしもひとりしか存じ上げず、それもすでに固定パーティを組んでいる身の上……。お役に立てず申し訳ない……!」
「そうか……。いや、気にするな」
「察するに、あとは回復役をお探しと見受けられた」
「うむ。余とそなた、アエカとイースラ、あとは回復役さえ見つかれば、地下水道ダンジョン下層へと挑むことができる」
「なんと! 早くも下層への挑戦をお考えとは!」
「“骸渡りのトリストロイ”とは、いずれ余が決着をつけねばならん」
「その高き志にそれがしも共を許されるとは……恐悦至極!」
ベルクは反応が大袈裟だけど、そのうち慣れてくれるかな……。
それよりも困った。このまま回復役が見つからないのであれば、それはスタートで足踏みをしているも同義だ。
俺は延々とプレイできることがアドバンテージだから、ニオの立場的にもほかのプレイヤーに先んじられるわけにはいかない。
とはいえ、出会いも時の運。
自分から機会を作れなくもないけど、できれば立場上の波風を立てずに、どうにか探し出すことはできないだろうか……。
ベルクのように、覚悟を決めてガッと来てくれるとありがたいけど……。
「ふむ……。ムーシカは、ギルド職員として心当たりはないか?」
「わうぅ? あるのだぁ!」
「そうだな、そう簡単に……あるのぉっ!?」
「わうぅっ!?」
「す、すまん、大声を出した……。それで、誰だ?」
「さっきおともだちになった、ヒワなのだぁ」
「え、あの人、回復役なの……」
「違うのだぁ」
「どういうことぉっ!?!!?」
「わうぅぅっ!?」




