第三十九話 丁寧に舐め……洗われました。
――ユグドウェル城塞、浴室。
「ごっしごっしなっのだぁ~ごっしなっのだぁ~♪ ニッオさっまっきっれいにっごっしごっしなっのだぁ~ごっしなっのだぁ~♪」
ムーシカがご機嫌よく歌いながら背中を洗ってくれている。
……んん? ……なんでこの状況なのかな?
場所はユグドウェル城塞の浴室と、プレイヤーの視線に晒されることはないものの、ここにはなぜかムーシカとイースラまでいるんだ。
石造りの浴室はそう広くなく、六畳間程度の空間にニオの背を流すムーシカと、湯船に浸かって縁で頬杖をつくイースラがいるという状況。
“冥獣ニェニェヤクトリェ”戦でねっちょねちょのぐっちょぐちょとなった俺は、その姿のまま町を縦断することにはなったけど、城塞に帰ってきて早々に汚れを落とすため浴室に向かった、というのが事の成り行き。
ここまでは何もおかしくない。
アエカは非常に残念がったものの、星霊樹の根に空いた穴の件を報告しないといけないため、ガン泣きしながらログアウトしていった。
ここまでも、まあ特におかしくない。
それで、服を脱いで浴室に入ったところで、裸のムーシカにうしろから抱きつかれ、彼女までねっちょねちょのぐっちょぐちょになったのが少し前。
……んんん? ……なんでふたりはここにいるのかな?
「気持ちいい……。温泉さいこう……」
「それはなによりだが、ふたりはなぜここにいる……?」
「わうぅっ、ニオさまを洗ってあげるようにって言われたのだぁっ!」
「だ、誰に……」
「アイリーンなのだぁっ!」
「あいつぅっ!? そんな気は回さなくていい……!」
いや、アエカの指示を受け、美少女同士がキャッキャウフフと入浴している様子を録画するための罠だったりするかもしれない……!
くっ、俺はいつだって強いられているんだ……!
「わうぅ?」
「どうかしたのか?」
「わぅ、このぬるぬるぜんぜん落ちないのだぁ」
「たしかに、まったく流れ落ちないな……」
最近、貿易で石鹸を手に入れたけど、現代の物ほど洗浄力はないのか、それともこの粘液がしつこいのか、肌にまとわりついて一向に落ちない。
とうに、イースラだけ体を洗い終わってしまっているくらいに……。
普段は、ニオの体にあまり触ってはいけないとカラスの行水だから、彼女の肌をこれほど丁寧に拭ったのもはじめてだ。
スキル≪柔軟性向上≫のおかげで以前にも増して全身が柔らかく、粘液越しでも弾力のある肌を実感するのは、精神衛生上よろしくない。
このままでは、心の中の息子(?)が大きくなってしまいそうでまずい。
「わぅわぅごっしごっし落っちないっのだぁ~♪ ぬっるぬっるニッオさっまっ、ぬっるぬっるべっとべっとっぜんっぜんっ落っちないっのだぁ~♪」
ムーシカはのんきに歌いながら背を洗い続けてくれる。
もとから粘液まみれの俺は当然、俺に抱きついたことで彼女も粘液まみれになってしまったので、いまはふたりとも湯着を着用せずに真っ裸。
見下ろせば真っ裸、振り向けば真っ裸と、理性はもう消し飛ぶ寸前。
「と、ところでイースラ、その首枷をいつまで着けているつもりだ? 入浴する時まで着けているのは……いかような理由があって……」
肩越しに見たイースラは、こちらを見て頬杖から顔を上げる。
「あたしは、ニオさまのしもべだから」
「んんっ!?」
そうして、唐突に思いもよらなかったことを告げた。
いつも目蓋が下がって眠そうな彼女の目は真剣そのもの。
冗談を言っている様子もなく、当の首枷を大切そうに触れている。
「よ、余は、そなたをしもべにした覚えはないのだが……」
「でも、あの時、もう死んでも構わないと思った時、ニオさまが着けてくれたこの首枷が、あたしの生きる意味となった」
「それは、イースラを助けるためであって、しもべにするためでは……」
「ん、だから自分で決めた。あたしは、ニオさまのために一生を尽くすと」
「……」
これは、よくよく考えると間違いないんだろうけど……スキル≪皇姫への敬愛≫が、NPCにも必要以上に作用してしまっている結果だ……。
そのせいで、命を助けられたということが彼女の中で大きく膨れ上がった感情となり、ニオの存在そのものを、自らを縛る首枷としてしまった……。
そうとしか考えられない……。
「わかった……。イースラ、そなたは余の直属の狩人となれ。普段の生業から斥候まで、パーティの一員として付き従ってもらう。よいな?」
その瞬間、常に眠そうな彼女の目があからさまに輝いた。
「ん! やる! あたしはニオさまの狩人!」
「ただ、首枷は必要ない。囚人ではないのだからな」
「やだ!」
「んんっ!?」
「はじめてニオさまからもらった物、大切!」
「だとしても、人目とか……気になったりは……」
「しない! これは、譲れない!」
「そ、そうかあ……」
この娘、かなり強情だな……。
「仕方ない……。ならば……ひゃんっ!?」
イースラと話していると、突然ムーシカが背に抱きついてきた。
柔らかい……。いろいろと、むにゅんと、柔らかい……。
「ムッ、ムーシカ!? いきなりどうした!?」
「わうぅぅぅっ! イースラばかりっ、ムーシカも何か欲しいのだっ!」
あれえっ!? ひょっとして、イースラにやきもちを焼いた!?
「わ、わかったから、少しばかり離れてくれないか? 欲しいものは……」
「わうぅっ! じゃあっ、ニオさまが欲しいのだぁっ!」
「オレ!? じゃない、余っ!?」
「わうぅぅっ! ニオさまがいいのだぁっ! ぺろぺろぺろぺろ」
「ふあぅっ!? 舐めるのはっ、粘液がっ、汚いっ、あっ、やんっ!」
ムーシカが、俺の背に抱きついたまま首筋を舐めはじめた。
俺は意識しない変な声を上げ、舐められるたびに敏感な刺激が走る。
ま、まずい、本当にまずい……心の中の息子(?)がーーーーーーっ!!
「わうぅ? このぬるぬる、舐めたほうが落ちるのだぁっ!」
「なっ、なんだってっ!? ひゃあんっ!? 舐め……ないでっ……」
あ、く……ニオの体は、感度がよすぎ……る……!?
「ニオさまの全身は、ムーシカが舐めてきれいにするのだぁっ!」
「あぅんっ! そこは、そこはっ、らめええええええええええええええっ!!」
アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!




