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第三十四話 おじさま、交流する。(4)

「というても、余も大した情報があるわけではない。そなたらは、すでに地下水道のボス……“骸渡りのトリストロイ”に対峙したのか?」


「はい。一度目はこのバカが先走って速攻でやられちゃいましたが、二度目と三度目はそれなりに戦えたと思います」


「んんっ? んぐぬっ、んぐんぐーぬぐーっ!」


「静かにしてくださーい!」



 銀華がヴァローレンを指しながら答え、当の本人は不服そうだけど、それもまたすぐに拳骨を叩きこまれておとなしくなる。



「ぁの、その時の……ニオさまが討伐に成功した時のPVを観ました。もう何度も何度も、かっこよくて、すごくて、私の憧れです……」



 ノフィトリカがやはり小さい声ながら必死に伝えてくれる。

 その様はまるで恋する乙女かのようで、告白をされている気分だ。


 いや、あのPVを何度もというのは……。あの時は、アエカを傷つけられてぶち切れていたから、面と向かって伝えられると恥ずかしい……。


 でも、少女の憧憬は壊せない……ボロを出さないようにしないと……。



「そうか……。ならばわかるだろうが、あれは余のスキルがあったからこそなしえたこと。強いて知らせるのなら、“火”属性が有効というくらいだな」



 それも外身の巨大ネズミを吹き飛ばし、本体のジャイアントスライムにまでダメージを与えるほどの、レベルデザインを無視した大火力が。


 ボスに挑戦をする攻略組なら、すでに既知の情報でもあるだろう。



「ノフィトリカといったな、見たところ魔法使いビルド(杖持ち)のようだが、火系の属性攻撃スキルは使えぬのか?」


「あぅ……。私が最初にもらったスキルは、水系なので……」


「水……」



 眉をひそめる俺を見て、ノフィトリカは申しわけなさそうに身を縮めたけど、べつに彼女に対して思うところがあったわけではない。



「そう不安になるでない。少しばかり気になることがあっただけだ」



 俺は背後で控えるアエカに顔を向け、彼女の耳に口を寄せた。



「なあ、水系のスキルって水生成と水流操作が主だけど、水のような(・・・・・)スライムに対して直接干渉できたりは……」


「できますね」


「やはりそう簡単には……できるのぉっ!?」


「あぅんっ!? ……ニ、ニオさま、耳元での大声は……その、ご褒美なんですが……感じてしまうので、人前ではご遠慮いただけると……」


「かっ、感じっ……。ごめん……」


「いえ、大丈夫です」



 視線を戻すと、銀華とノフィトリカは恥ずかしそうにしていて、ヴァローレンはなぜか正座をしながらの真剣な表情、味玉は……特に変わらない。


 まあ……はたから見れば、唐突にニオが従者を身悶えさせたように見えただろうから、とんでもない誤解をさせてしまったようだ……。


 ボロを出さないようにと思ったばかりで……。



「いや……すまん。少しばかり確認しただけなんだが……。大声を出して驚かせてしまったようだ……」


「はわわぁっ! こちらこそ、一瞬そういう……あれがあるのかなと……変なふうに見てしまいました! ごめんなさい!」



 銀華は謝罪をし、ノフィトリカもコクコクと頷いたあとで頭を下げた。


 “あれ”とは……何を指しているんだろう……。


 なんにしても、言動には注意しないと……。ただでさえ、すでに“ドジっ娘”属性が噂されているので、これ以上の失態を犯すわけにはいかない……。


 ま、まあ、あとは彼らが“骸渡りのトリストロイ”にどう対峙しているのかを聞き、いま思いついた策を伝えればいいだろう。

 ここで恩を売っておくことで、俺自身が第二層以降に挑戦するときの支援や、さらなるフィードバックにも期待ができるし、彼らとは悪くない縁だ。


 いいね、俺も近いうちにパーティプレイをしてみたい。



「ふがっ! ふがんふっ、ふがふがっんぐっ、ふがー---っ!!」



 約一名の相手はあまりしたくないけど……。





 ***





 パーティ≪華麗☆なる≫との情報交換が終わり、俺とアエカは和牛さんとも挨拶を交わしてその場を離れた。


 いまは、大通りをさらに南下して探索者ギルドに向かっているところ。



「スキルで干渉できることによく気づかれましたね。さすがはニオさまです」


「事前に、スライムの対処法を教えてもらっていたおかげだよ」


「それでも、私は『さすがはおじさまです』と言います」


「うっ……」



 先ほどの意趣返しか、アエカは屈んで俺の耳元で囁いた。

 そのこそばゆさに声を出しそうになるも、こらえて息を飲み込む。



「ふふっ、お返しです」



 やっぱりなあ……。



「ですが、いい情報をもらえましたね」


「ああ、あれね……。第二層以降で、“骸渡りのトリストロイ”と再戦した時に確実に役立つ情報だった」


「問題は、次にどのような骸を渡るか(・・・・・)ですね」


「そうだな……」



 “骸渡り”とは、核となるジャイアントスライムが身にまとう骸を入れ替える(・・・・・)ことを指していて、これはそのたびにランダムとなるので予想ができない。


 次にどんな姿となるのか、遭遇するまでは運営だろうと知らないんだ。


 なんにしても、≪華麗☆なる≫と情報交換ができたおかげで、核となるジャイアントスライムに対しては有効な情報を聞くことができた。

 第二層への挑戦はパーティを集めてからになるけど、いずれは地下水道ダンジョンを奴から解放するための“(くさび)”としたいところ。


 縁を繋いでくれた和牛さんにも、そのうちしっかりとお礼をしたい。



「ところで、先ほどからどなたをお探しですか?」


「あ、いや、パーティっていいなとちょっと思って……。いずれ募るのなら、この一週間で話題になっている()をと……」


「話題の彼というと……あの大柄な竜人種(ドラゴニュート)の、ベルクさんですね」


「そう、不落さん! いや、ベルクさん!」



 実はこの一週間の間、彼はどこのパーティにも所属はしないものの、助っ人として非常に安定感のある盾役(タンカー)として不動の地位を築いていた。


 すでについた二つ名が“難攻不落のベルク”、いわゆる“不落さん(・・・・)


 ゲームがはじまって間もない、装備も満足に揃わない現状で、盾役(タンカー)として一度も瓦解せずにパーティを牽引するというのはすごいこと。


 おそらくは、噴水広場でのニオのおおせを実直に体現しているのだろうけど、早くもそんな彼に報いたいと思ってしまった俺は、一度パーティを組んでみようと先ほどからその姿を探していた次第だ。


 名声、実力ともに文句もなく、俺はまるで恋に焦がれる正真正銘の少女かのように、巨漢の竜人を雑踏の中に探した。

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