第三十三話 おじさま、交流する。(3)
「やあやあっ、待たせてしまったねっ。この華麗なる私がっ、麗しき女性たちに囲まれ遅れる結果となってしまったことをっ、ここに謝罪しようっ!」
「……」
しばらくすると、たぶん和牛さんの言っていた連中がやって来た。
その中の、先頭にいるイケメンが和牛さんに対して謝罪を口にしたので、なんとなく関わってはいけない気がしてとりあえず押し黙る。
パーティは総勢四名。金髪碧眼の王子さま風イケメンを、ほかの戦斧と弓、杖を持った三人が背後で見守っている感じだ。
「朝っぱらから相変わらずだな。別に待っちゃいない、気にするな」
和牛さんは慣れているようで、いちいち大仰な身振り手振りのイケメンを体よくあしらうように答えた。
「さすがは我がソウルメイトッ! その心の広さはお見事だがっ、私とてこの大宇宙の広さに比類する心の持ち主っ! 決して劣りはしないというものさっ!」
なんだこいつ……。
「それもこれもっ、私のこの華麗なる美貌がっ、罪もなき女性たちを魅了してしまうのがいけないっ! どうかっ、私こそを罰してくれないかっ!」
話に脈絡がないけど、たしかにアバターカスタマイズは上手い。
和牛さんと知り合いなのは、イケメンもロールプレイ勢だからだと思う。
「おい、いまは妙な演技はいらん。話を進めてもいいか」
さすが無遠慮にものを言う和牛さん、ざっくりとイケメンを制した。
「おっと、私の悪い癖が出てしまったね。あまり時間を取らせても悪い、私のことは放置で構わないから、天翔ける天馬のごとく疾くと進めてくれないかっ!」
和牛さんはこちらに視線を送り、その表情は「すまん」だ。
イケメンの言動はいちいちうるさいけど、悪い奴ではないんだろう……。
「おまえさんをむやみやたらと野に放てるか、さっさと補助武器を貸せ。ワシが調整してる間にアドバイスをと姫さまを引き留めてるんだ、失礼のないように相手してもらえ、ヴァローレン」
この時になって、連中はようやく俺の存在に気づいた。
ここまでじりじりとあとずさっていたから、このまま人混みに紛れて立ち去りたかったけど、ぐりんと頭ごとこちらを見た全員の視線に捕らわれる。
「なっ、なななんとっ! まさかのニオ姫さまであられるかっ! 私こそがっ、“華麗なるヴァローレン”っ! あなたさまの麗しき威光はっ、どのような冥き領域においても光り輝きっ、ひと目でこの眼に永遠の喜びを焼きつけるほどっ!」
「うっ……!?」
“華麗なるヴァローレン”と名乗ったイケメンは、ズザザーッと膝立ちでスライディングしてきて、その勢いのまま俺の手の甲にキスをする。
俺は若干、いやだいぶ引いてしまったものの、無下にすることもできない。
だけど、その時だった――。
「おぶふっ!?」
ツカツカと歩み寄ってきた戦斧持ちのプレイヤーが、悦に浸っているイケメンの頭に拳骨を叩きこんだのは……。
「はわわっ、ニオ姫さま、こいつの無礼をお許しください!」
彼女は「はわわっ」と慌てた様子だけど、身長が高く、筋骨隆々の褐色肌に軽装を身に纏う女戦士の様で、中身と外見がまるで一致していない。
頭部には銀色の狼耳が生え、ボリュームのある尻尾がわさわさと揺れているので、大型の肉食獣にでも懐かれたような、妙な気分だ。
残りのふたりもすぐに跪き、周辺のプレイヤーの注目まで集めてしまったものの、遠巻きにする表情は「またあいつか……」といった様子。
まあ、目立つだろうな……このイケメンが特に……。
「構わない、面を上げよ。余のことはもう知っておるな、余が“ニオ ニム キルルシュテン”、この地、ユグドウェルの領主だ」
「「「は、ははーっ!」」」
頭を上げさせたのに、また下げてしまった……。
***
……ひどい。
たぶん話が進まないからだろうけど、イケメンに猿ぐつわを噛ませたあと、人の目を避けるためすぐそばの路地に入った。
いや、ひどくないか。猿ぐつわを噛まされた状態でも、動きだけで会話に入ってこようとするので、それだけでもかなりのうるささだ。
「はわぁ、ほんとにごめんなさい。私がパーティ≪華麗☆なる≫の、いちおうサブリーダーを務めてます、“銀華”です」
まず、先ほどから謝ってばかりいる、“獣人種”の女戦士が名乗った。
中身はかわいらしい印象だけど、外見はやはり勇ましい美人に見える。
とりあえず、そのパーティ名だけはどうにかしたほうがいいね……。
「ぁの、ぁの……お会いできて光栄です……。私は“ノフィトリカ”……PVで観たニオさまに憧れて……いつかお役に立ちたいとぶつぶつ……」
声ちっちゃっ!?
ニオ並に小柄で、それに反してやたらと大きな杖型のレリックを全身で抱え込む、魔法使い風の少女が次に名乗った。
目深にかぶった白いローブからは竜角が見えるので、たぶん“竜人種”。
「俺は、“味玉”……です」
あじ……たま……煮卵のことかな……。
最後に名乗ったのは弓手で、外見はいたって普通の少年。
目の下の隈が特徴的なアバターカスタマイズ以外には、これといって特徴のない本当に平凡な少年の姿をしている、“魔人種”。
いや、むしろ名前が特徴的というか……味玉が好きなのかな……。
なんだか、イケメン以外はなんとも気の弱そうなメンバーが揃っているけど、話を聞いた時に想像した“攻略組”像とは結びつかない……。
まあでも、まだ戦士の装備が皮鎧ばかりの中で、当のイケメンは鉄製の鎧を身に着けていることから、ダンジョンにはかなり潜っているようだ。
「んーんーっ、んがっ! ふがんがっ、ふががっ! ふんがーっ!」
何か言いたげなのがひとりいるけど、先入観で判断するのはよくない。
気が弱く見えても、このうるさいイケメンとパーティを組めるくらいだから、人を立てるのが上手く、パーティとしての連携もこなれているんだろう。
彼らが無事に第一層を攻略できるよう、といっても俺もボスの情報は大してないんだけど……今後の攻略のためにも情報交換といこうか。
「んがーっ! んがんがふがっ! ふんがふんがんがー---っ!」
「ヴァローレンと言ったか。少しの間おとなしくしておけば、名を覚えるぞ」
「んがっ!」
どうやら現金でもある様子……。




