第二十八話 GAME START(4)
「こんなに人が多いの、はじめて……」
大通りを南下し、探索者ギルドが見えたところでイースラがつぶやいた。
見ると、ギルドの建物に入る者と噴水広場の方向へと進む者の二通りに分かれているらしく、何人もの職員が対応に追われている。
その様子は満員電車に乗り込もうとする人々のようで、それをどうやら目的別に区別して誘導し、少しでも混雑を緩和しようとしているみたいだ。
閑古鳥が鳴いていた頃から比べれば、良くも悪くも賑わってはいるけど、対応する職員たちは相応に大変そうだ……。
「あ、来たのよ~。ご覧のとおり、探索や戦闘が目的の探索者は地下水道ダンジョンに誘導して、クエストの斡旋が必要な人を絞ってるのよ。あそこはIDにもなってるので、当面の混雑緩和にもなるのよ~」
探索者ギルドに近づくと、桜色の髪の職員に話しかけられた。
“ID”とは“インスタンスダンジョン”の略称で、入口で区切られたパーティ専用のフィールドで冒険ができるよくある仕様だ。
もちろん、そのまま侵入すれば区切られない共有ダンジョンになるけど、いまはこれを一時的な混雑対策のために活用しているというわけ。
共有の地下水道ダンジョンは、一層のボスを俺がすでに倒してしまっているため、何度も追体験をしたいのならID化を選択すればいい。
それにしても、この桜色の髪の職員はたぶん……。
「ご苦労さま、アイリーン。引き続きここはお願いします」
アエカが彼女を“アイリーン”と呼んだので、この娘が例のサーバーを統括管理する人工知能ということだ。
その容姿は、桜色の髪を下ろしている以外はアエカにそっくりなメイドさんだから、本人たちが双子だと言えば誰も疑わないだろう。
そもそも、オペレーティングシステムを構築したのがアエカだから、彼女にとっては娘のような存在なのかもしれない。
「あいあい、お任せなのよ。ところで、そちらがニオしゃまなのよ。私は“アイリーン”、アエカしゃんがいないときはこのアイリーンがサポートをするので、どんと構えてくださいなのよ~」
アイリーンはこちらに向かい、見事なカーテシーでお辞儀をする。
「え、あ、ああ、よろしくおね……頼む。アイリーン」
突然こちらに振られたので敬語が出そうだったものの、この場にも周囲にプレイヤーがいるので一瞬も気は抜けない。
「うへへぇ、ニオしゃまはほんとかわいらしいのよ~。アエカしゃんが溺愛する理由もよ~くわかるので、アイリーンもおこぼれに与かるのよ~」
なっ……!? まさかこいつ、アエカと同じ属性かっ……!?
アエカがふたりになるとか、それだけは本当に勘弁してほしい……!
嫌な予感がしつつも、とりあえず当初の目的を果たすために話を逸らす。
「そ、それはそうと、ムーシカは目を回していないか?」
「ああ~、それなのよ~。ハラスメント対策で許可のない異性は触れないけど、まさかの女性プレイヤーに『きゃー、かわいいー、この娘お持ち帰りするー』って揉みくちゃにされたから、いまは休憩室でお休みさせてるのよ~」
「え……。大丈夫なのか……?」
「大丈夫なのよ。目を回したくらいですぐにその場を収めたから、やらかしたプレイヤーたちにも注意をしておしまいなのよ」
「それならいいのだが……」
「ニオさま、ムーシカの様子を見に行きたい」
「ああ、イースラに任せる。今日はギルドで警備に当たるように」
「了解。行ってくる」
イースラはそそくさと探索者ギルドに入っていく。
俺もムーシカが心配だけど、目を回したのなら、大人数で押しかけないでそっと休ませておいたほうがいいだろう。
「ほかに問題は起きていないか?」
「問題といえば……」
「……?」
「早速、一般家庭に押し入って、窃盗、強姦、殺人なんかを犯そうとするアウトロープレイヤーも出てきてるけど、このアイリーンの目からは絶対に逃れられないから、全員ひっ捕らえてお仕置き部屋にぽいっなのよ~」
「ええぇ……」
「人が集まれば一定割合と、困ったものですね……」
アイリーンはなんとも軽く報告し、俺とアエカは複雑な表情を返した。
≪World Reincarnation≫はアウトロープレイも可能だけど、町中では領主が指定した法を遵守する衛兵の権限が強く、システム的にもアイリーンが監視をしていると隙はない。
そんなわけで、今後アウトロープレイヤーは町から出るかダンジョンに入るか、法の支配が行き届かない領域を活動場所とするだろう。
一見すると“悪”だけど、彼らの行動そのものが“襲撃イベント”ともなるわけだから、ルールの内なら必要なロールプレイとは認められている。
「まあ、何がダメなのかはよく言い聞かせて、アイリーンに任せる」
「あいあい、お任せされたのよ~」
とりあえず、北から南へと町を縦断してきてプレイヤーの様子は把握した。
探索者ギルドの誘導で地下水道ダンジョンに向かう者と、町の中でチュートリアルを受けている者が依然として多く、いまはまだシステムに慣れようといろいろ試している段階で、ほぼ全員が町の中にいるようだ。
とりあえず、俺に課せられた役割は“人前で動く”ことなので、それなら狩りでもしてデモンストレーションということにしようか。
「アエカ、狩りに出よう。昨日、町長がホーンラビットの角を欲しがっていたからな、話を聞いてしまった以上は余が自ら終わらせる」
「はい。狩場が混雑する前に終わらせてしまう、ということですね」
「アイリーン、ギルドのことは引き続きそなたに任せる」
「あいあい、いってらっしゃいませなのよ~」
そんなわけで、俺たちは探索者ギルドからすぐの南門へと進む。
当然、周りにも聞こえるように話したため、プレイヤーの一団もついてくる。
これまでは、モンスターや野生動物にまで舐められてばかりだったから、今回ばかりは本当に“輝竜種の姫”の威厳を皆に知らしめたい。
……これがフラグだって?
なら見せてやろう、真の“ニオさま”を……!




