第二十六話 GAME START(2)
「ニオさまだ……」
「え、やば、いきなり?」
「PVで観たよりちっさいのな、まじかわ」
「スクリーンショットってどうやったら撮れるの?」
「一緒に記念撮影とか、いきなり声をかけていいもん?」
プレイヤーたちは、ログインをして来るや否やこちらの存在に気づき、遠巻きにしながらもすぐその場にいる者同士で話しはじめた。
ここは町の北門だからまだ人数はそう多くないものの、それでも十数名程度が無事にログインできているようだ。
と、とりあえず、この状況で無言で立ち去るわけにもいかない。
「皆、よく来てくれた。余がこの地の領主、“ニオ ニム キルルシュテン”だ。我がユグドウェルの臣民と共に、来訪を心より歓迎する」
そう告げた瞬間、その場のほぼ全員がなぜか跪いた。
「え、どういう……」
「PVの影響でしょうね。ユグドウェルをスタート地点に指定したプレイヤーの大半はニオさまが目当てですから、そういうロールプレイです」
「そうなんだ……。むず痒いというか、変な感じ……」
「慣れてください。これでこそ、ユグドウェルの皇姫たるやです」
「がんばる……」
そのためにも、まずはこの状況を収めないと……。
「楽にせよ。この≪星霊樹の世界≫の開拓はまだはじまったばかり。皆の果敢なる冒険が、ユグドウェルの繁栄に繋がることを期待する。楽しむがよい」
「ははーっ!」
「ニオ姫さまのおおせのままに!」
「いまさら興奮してきたーっ!」
「くぅー、配信しとけばよかった!」
「ヒャッハーッ! 暴れまわるぜぇっ!」
若干一名、世紀末風なプレイヤーがいる……。
揉みくちゃにされる覚悟はしていたけど、システムに組み込まれたハラスメント対策もあるため、遠巻きにされるだけなのはよかった。
とはいえ、これからもさらにプレイヤーは増える一方だろうから、もっとも人の流入が増えるだろう探索者ギルドの様子を見に行かなければ……。
ムーシカの負担を軽減するため、いちおう事前に増員はしておいたけど、落ち着くまでは人手が圧倒的に足りないかもしれない……。
「アエカ、イースラ、ギルドに向かう。ムーシカが心配だ」
「ニオさま、懸念のとおりギルドはすでに大混乱の様相ですが、アイリーンを送り込んだので間もなく沈静化する見通しです」
「え……」
「さすがに現状の発展度で、希望プレイヤー全員をユグドウェルに転送させると、町の許容量をオーバーしますね……」
「そんなにいるのか……?」
「はい、周辺の都市国家に振り分ける対策を取っています。プレイヤーの承諾を必要としますが、これで当面を凌ぐしかないかと……」
「これでも、町の規模は最初期から三倍に広げたのだが……」
「当初の見通しでは問題なかったのですが、事前PVのせいですね」
「ああ……。だいたい寿崎さんの無茶ぶりのせい……」
「私が裁量権を行使し止めるべきでした……」
「アエカのせいではない。取り急ぎ、ギルドの様子は見に行く」
「はい」
俺はアエカとイースラを連れ立って町へと入っていく。
北門から南門へは、中央に水路が通る広めの大通りを築いたので、ちょっとした現実の大都市なみの人々が行き交っているものの、さすがに進路を妨げられるほどにはまだ混雑していなかった。
プレイヤーには相変わらず遠巻きにされ、聞こえる声はやはりこちらを見つけてのことが多いけど、さすがに全員の相手はしていられない。
そうして、少し居心地悪く進んで噴水広場に到着する。
「ここも探索者だらけだ……」
「広めに土地を確保しておいて正解でしたね」
「あたしもよくランチしてる、好きな場所」
「それはなによりだが、しばらくは落ち着けそうにないな……」
「問題ない。そのときはニオさまの所に避難する」
「ああ、そうしてくれ」
都市計画は、噴水広場を中心に外へと広げるよう発展させる見通しだ。
広場はちょっとした運動場ほどの広さで、水路がそのまま噴水を取り囲む構造になっていて、さらに噴水の中央には星霊樹のイミテーションを配し、あれ自体がプレイヤーのセーブポイントにもなっている。
つまりは、ここがプレイヤーたちのリスポーン地点。
当然、パーティの待ち合わせや憩いの場としても利用できるため、ユグドウェル第一の名所が、この“キルルシュテン噴水広場”だ。
そして、よりいっそう人が増えたことからこちらへの注目の度合いも高まるけど、男のまま女装していたほうがまだましってくらい恥ずかしい……。
最近は、システムアシストに頼らない女の子の動きに慣れてきたせいもあって、人の視線が男心に直接突き刺さってくるんだ……。
人知れず恥辱の限りを尽くされているようなものだよ、本当に……。
「あっ」
「ニオさま!?」
そんな人の視線が集中する中で、石畳に足を取られて盛大にこけた。
「う、ぐぅ……」
もろに額を打ち、擬音にするなら“ビターンッ!”だっただろう……。
「こ、こけた……」
「ニオさまが、こけた……」
「やだ、涙目になってる。かわいい」
「ドジッ娘ニオたんキターッ! 待ってた!」
「デュフッ、やはりニオたんはこうでありませんと」
「バッチリ録画したので共有しますぞ、同志」
「さすがですな。仕事が早くて助かりますぞ、デュフフッ」
いーーやーーーーっ! ニオの黒歴史確定ーーーーーーっ!!
「大丈夫ですか? あ、額が赤くなってしまっていますね……」
「うぐぐぅ……」
「こちらへ。噴水で冷やしましょう、かわいいお顔が台無しです」
「うぐぐぐぅ……。逃げたい……」
アエカは心配して処置もしてくれるようだけど、とりあえず逃げたい。
この場から、何事もなかったかのように立ち去ってしまいたい。
「ニオたんはドジっ娘として稀に見る逸材ですな」
「ほんそれ。たまに出てくるイケメンもいい」
「ドジっ子ニオたんを眺めながら食べる夜食はうまいっ」
「ニオたんを介抱するアエカさまとの関係もてぇてぇなあ……」
「はぁはぁ……スケッチがはかどるぅ……」
≪World Reincarnation≫、正式リリースから間もなく――。
早速、“輝竜種の姫”の尊厳――儚く散る――。




