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第十六話 古ユグドウェル地下水道ダンジョン(3)

 俺とアエカは、通路を塞いだ二匹のジャイアントラットに対峙している。


 ただ、天井があまり高くないことから特大剣を縦に振れず、薙いだところで大振りすれば壁に打ちつけてしまうだろう。


 だから、まずは俺がジャイアントラットの突進を特大剣の腹でいなし、気勢を削いで脇へ通したところでアエカが銃剣で鼻面を斬る。そうして、相手が怯んだ隙に側面を取った俺がナイフによる急所攻撃でとどめを刺す。


 この間にも、アエカがもう一匹を牽制して前へと進み出ているから、あとも同様のコンビネーションで対応するだけ。



「グッジョブ、アエカ」


「おじさまこそ、ナイスコンビネーションです」



 すぐに霧散するジャイアントラットは、それぞれがアイテムを落とした。


 ――大ネズミの皮×2 を手に入れた。


 これはあまり使いたいと思える素材ではないから、町で売ろう。


 ちなみに、≪World Reincarnation≫では回復薬が店売りになく、入手するためには≪調薬≫スキルで自ら作る必要がある。

 現状では、最初から持っている応急キット頼りになるけど、これでは本当に応急処置程度と、重傷を負ってしまえばリスポーン(再開処理)の危機。


 そもそもが生命力(HP)ゲージすらないし、怪我をするわけにはいかない。



「だいぶ奥まで来たけど、遭遇するのはジャイアントラットくらいだな」


「矢を見つけた以外は足跡もありませんし、どうなっているのでしょう?」



 ダンジョンといっても、もとは人の手で整備された地下水路。

 あまり入り組んだ構造ではなく、配管に入らなければ迷うこともない。


 にもかかわらず、上流へ向かってもう一時間は歩いているけど、あれから最初の矢以外の痕跡を俺たちは何ひとつ見つけられていないんだ。


 焦りが芽生える。通った場所は自動マッピングされるから帰り道の心配はないとはいえ、代わり映えしない景観がいやに不安をかき立ててやまない。



「そうだな、水路の中を進んでいるとか?」


「どうして、そんなわざわざ痕跡を消すような……」


「イースラは狩人だから」


「あっ……」


「それにこのゲーム、モンスターが血痕すら残さずに霧散するから、よほどの大立ち回りをしないと地形に痕跡が残らない」


「ではどうすれば……。≪生命探知≫でくまなく探すには広すぎます」


「同じ景観が続くと不安になるけど、逆に痕跡がなければ水路沿いを進んでいると考えるべきだから、壁にぶつかるまでは進んでみようか」


「はい。こんなとき、おじさまは頼りになります」


「外見はこんな姿で頼りないけど……」


「ふふっ、それでもです」



 俺はわざと大仰な身振り手振りで少女の姿を強調し、焦燥を振り払った。


 実際、矢を目印として使うのは自分の存在を後続に知らせるために便利だけど、限りがある消耗品である以上はあまり残していけないだろう。

 とすると、最初以外は現地調達できるもので代用するはずで、ここにいたるまで何も見つけられないとなると、やはり最初の目印に従うしかないんだ。


 そうして、行ける所まではまっすぐに進む。


 壁にぶつかったら、その時にまた新たな行動方針を決める。



「あれ、ずいぶんと広い所に出たな」


「支流への分岐点のようですね」



 長いこと歩き、俺たちはアエカの言う“支流への分岐点”にたどり着いた。


 だいぶ広くなった空間からはいくつかの水路が枝分かれしていて、対面の壁際には高所から流れ落ちる三本の滝がある。

 それゆえに天井も高くなり、足場の半分が水路とはいえ、これまで通ってきた狭い通路と比べれば特大剣だろうと振り回せるくらいの広さだ。



「パッと見は誰もいなさそうだけど……」



 二列の柱が立ち並んでいるので、その陰にいないとも限らない。



「おじさま、上です!」


「えっ?」



 アエカの声に振り向いてしまったことで反応が遅れた。

 遅れて上を向いたときには、そいつ(・・・)が目の前だった。



「ぬわー-----ー-っ!?」


「おじさまー--ーっ!?」



 咄嗟に上体を逸らしたものの、俺は水っぽい何かに覆いかぶさられる。

 引きはがそうとしても、その感触は水飴のようでとても掴めない。


 見た目も本当に水飴のような、ぬるぬるとした……。



「くっ、こいつ……なんだ……!?」


「スライムです! 顔を逸らして、気道を塞がれたら窒息します!」


「なっ、こいつが……! くそっ、離れろ……!」



 白く濁った体色の不定形物体――スライム。


 顔を逸らして見ると、すでに肩口から胸元までが覆われてしまっている。

 どう見てもただの液体。にもかかわらず自らの意思をもって動き、このまま排除できなければ包み込まれて消化されてしまうのかもしれない。


 数多あるゲームではそれなりに実体があったけど、こいつは触れようとすれば指が飲み込まれ、掴めないという意味ではゴーストに近しい存在だ。


 ほぼ非実体の、水のような(・・・・・)相手をどうやって倒せば……。



「ひゃうっ!? んあっ、こいつ服の中に……!?」



 ま、また体が勝手に変な声を……。



「スライムはありとあらゆる()隙間(・・)に入り込もうとします!」



 慌てて駆け寄るアエカは、これまたまずいことを告げる。



「うっそだろ!? そそそれって……」


「このままでは、おじさまの純潔がスライムなんかに……!」


「ええええっ!? そういうのありなのかっ!?」


「それだけでなく、最悪は体内に侵入されて生ける苗床と……!」


「助けてー-----------っ!!」


「おじさまの≪星宿の炉皇≫による属性攻撃なら、スライムにダメージを与えられます! 他人のレリックには触れないので、自力でなんとかできますか!?」


「やってみる……!」



 だけど、スライムの特性とはいったいどういったものだろうか。


 特大剣は手に持ったままだけど、侵蝕はすでに両腕まで及んでいて、それもなぜかがっちりと固定されて左右ともに動かせない。


 触れれば液体、他者を固定しようとすれば個体、なんて非常識な生物だ。



「く、くっ……む、無理ぃ……」

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