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第百五十三話 遠征の前に

 ――ユグドウェルから南へ三十キロ、南方要塞。


 少しの休みを取るという“華麗☆なる”を待って一週間、彼らの現実でのスケジュールも確認してから、俺たちは一緒に南方要塞へと訪れていた。


 遠征に参加するのは、“華麗☆なる”はもちろん全員が、うちはいまのところ俺とアエカとイースラのみ。

 というのも、ツキウミは期末試験、ベルクも仕事で休みが取れず、試験休みに入ってからふたり一緒に追いかけてくる予定だ。


 あとは≪冥き根の領域≫におけるキーキャラクターの、幽霊ちゃん(シルモア)


 クエストデザインには関わらなかったから詳細はわからないけど、やはり彼女がいてはじめて領域への道が開かれるらしい。



「すでに活気づいていますね」


探索者(プレイヤー)であれば、≪冥き根の領域≫を目指す頃合いであろう」


「それでしたら、ちょうどいい頃合いで築かれた拠点というわけですね」


「うむ、もちろんそのつもりではあったが!」


「さすがはニオさまです!」



 まだ名もついていない完成したばかりの南方要塞は、エピソード1の最終目的地である“闇域の古城”を目指すプレイヤーでごった返していた。


 規模としてはそう大きな物でなく、五百メートル四方の稜堡式城郭を平原と山の境に建造した構造物で、いずれは南方防衛の基幹拠点として発展させたいところだけど、いまのところは開拓拠点の役割を果たしている。


 そんななかを、プレイヤーと共に行き交って汗水を垂らすのは衛兵と商人、さらにはまだ拡張工事を続けている労働者たち。


 ここもまた、これから将来の都市の礎となっていくのだろう。



「ニオさま、私たちは素通りしようと思いますが、いいですか?」


「構わぬぞ。落成式も二日前に済ませたからな」



 皆で雑踏を進みながら、問いかけてくる銀華に答えた。


 というのも、ユグドウェルからは馬車で移動し乗っていた時間も三時間程度と、休みを取るにはあまりにも何もしていない。

 それに、要塞に入るやいなやプレイヤーたちもニオ()の存在に気づいたから、まーた厄介ごとに巻き込まれる前に移動したいのが本音だ。


 唯一の懸念はやはり、セラフィーナ。


 彼女はいまもヴァローレンにべったり寄り添っているし、敵対行動を取るような人物ではないけど、聖女にもかかわらず魔眼持ちなんだよな……。

 “魅了”というか、おそらくは“洗脳”に近い効果の魔眼か……先日も抵抗できなければヴァローレン崇拝に傾倒するところだった……。


 恐るべきは誰かを一途に慕う人の念か……

 頼むから、俺まで変な関係性に巻き込まないでほしい……。



「と、ところで、ノフィトリカとイースラは、そのように両脇を強固に警護せずとも大丈夫なのだぞ……?」


「大丈夫です……! ニオさまはぃつもひどぃ目に遭われてぃて……けど、私がおそばにぃる限りは身代わりになる覚悟ですから……!」


「いや、それはそれで余も心苦しいのだが……!?」


「ん、何かあれば撃つから問題ない」


「イースラは銃を撃ちたいだけであろう……!?」



 ノフィトリカとイースラは、人が増えてきた頃から肩と肩が触れ合うほどの距離で両隣に控えていて、少なくともノフィトリカは本当にニオ()の身代わりになる覚悟でこうも近くにいるらしい。

 イースラに関しては、どうもトリガーハッピー(・・・・・・・・)の気質があるらしく、守るためというよりもむしろ事が起こるのを待っている気まである感じだ。


 そんなわけで、要塞の北門から進んで雑踏を抜けて南門まで下り、ここではどうにか何も起こらずに通り過ぎることができた。


 ニオラブの残党だっているだろうから、隙となる行動はしたくない。



「さてさてっ、麗しのニオ姫さまっ! ここよりはっ、さらに馬を道行きのかけがえなきパートナーとして一週間んっ! されどエスコートをさせていただくにっ、荒野を行くのはなんとも心苦しくもありますればっ、我が愛馬“輝閃の灰馬(グラーニ)”に騎乗いただきその可憐なる背をげふぅっ!?」


「もーっ、またうちのリーダーはーっ! ニオさまの背をリーダーに預けさせるわけにはいきませんから、ニオさまはちゃんと馬車を使ってくださいね!」


「う、うん……。最初からそのつもり……だ……」



 たぶん、ヴァローレンは自分の馬にニオ()も乗せて行くつもりだったんだろうけど、いつものように銀華が戦斧の柄で殴って止めた。

 ヴァローレンは腹を押さえてうずくまり、そんな彼をセラフィーナが甲斐甲斐しく支えているけど、俺を羨むように目線だけはこちらを見ている。



「その件なのですが、残念ながら乗合馬車は探索者(プレイヤー)で埋まってしまっているようで、ここからは各自が所有する騎乗動物での移動となります」


「えっ……。ああ、そうか……馬車は数に限りがあるのだったな……」



 いつの間に確認していたのか、予想できたことをアエカが告げた。

 人が増えれば増えた分だけ、当然インフラは足りなくなるから。



「だが、余には騎乗動物がおらぬゆえ、いましがたのヴァローレンに頼むわけではないが、やはり誰かの馬に乗せてもら……」


「それでしたら! やはり直属の従者である私しかいませんね!」



 かなり被せ気味に、鼻息を荒くして手を上げたのはアエカだ。

 ノフィトリカも何か言いたげだけど、アエカの勢いに言い出せないよう。



「うぅむ……。ならば、ノフィトリカに頼めるか?」


「なっ、なぁんでですかぁーっ!?」


「わっ、私っ!?」



 狼狽えるアエカと、指名されたことで目を丸くして驚くノフィトリカ。



「当然であろう。アエカと馬に同乗するなぞ、背後から何をされるか……」


「心外です! ニオさまが振り落とされないように背後からしっかりと抱え込むくらいはしますが、間違っても髪の匂いを堪能したり振動にかこつけていろいろと揉みしだいたりなんてっ、いっさいするわけがありますんっ!!」


「……。微妙に、いやかなり本音が漏れ出ておるな……。というわけだ、道中はノフィトリカの馬に同乗させてもらうこととしよう」


「はっ、はいぃ、私でよければっ、ぃつでもよろこんでっ……!」



 ノフィトリカは視線を泳がせながら頬も赤く染め、それでも力強く返事をした。



「うっ、うっ……。私の癒しの時間がっ……いろいろと仕込みまでしてっ……この仕打ちはあんまりですっ……。人がイチャイチャするのを横目で眺めていないといけないなんてっ……ニオさまの鬼っ、人でなしっ……」


「イチャイチャはしないが……仕込み……?」



 そんなわけで、道中の移動はノフィトリカの騎乗動物に乗せてもらうことになったけど、ガン泣きするアエカがあまりにもかわいそうなので、機会を見計らって交代するくらいは許してもいいだろう。


 なんにしても、≪冥き根の領域≫まで徒歩で半月、馬なら一週間程度と、目的地である“闇域の古城”もルートが定まっているため安易な道行きだ。


 今回の遠征の目的は、古城にポータルを設置することと、星霊樹への道を切り開くために前線拠点の設営場所の確保。

 ついでにワールドボスを確認できたらいいとも思うけど、あまり欲張ってはまたひどい目に遭うのはわかっているから、慎重には行きたいところ。


 あとは、いまは眠っている幽霊ちゃん(シルモア)か。


 本来の“闇域の古城”の主にして、“十二原世竜(ドゥオデキム)”シルモアとしてなら創世からこの世界の歴史を知る彼女が、どう絡んでくるのか。


 最悪は、彼女こそが……。


 いや、まずは何も起こらないことを祈ろう。

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