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第百四十七話 一件落着……ともいかないようで

「エンシェントクラーケンの討伐はなされた! 皆の者、勝どきを上げよ!」



 “冥白化の仮面”を破壊し、それとともに光の粒子となって消え去っていくエンシェントクラーケンの上で、俺は皆に勝利を知らせた。



「うおおっ、きたこれーっ!」

「やっぱニオさましか勝たん!」

「勝利の栄光を、君に!」

「さすニオ! さすニオッ!」

「勝利のバーベキューだああああっ!」


「「「わああああああああああああああああああああっ!!」」」


「だがしかし、犠牲は小さくなかった……」

「ああ、そうだな……。多くが、この戦で散っていった……」

「特にゴリラ氏の一撃がなければ、俺たちも今頃……」

「みんな、空飛ぶゴリラ壱号氏と勇敢な英雄たちに敬礼!」


「「「ビシィッ!!」」」



 そうして、プレイヤーはひとしきり喜びの声を上げたあと、それはもう見事な敬礼を揃って大海原へと向けた。

 だけど、彼らは完全に死んだわけでなく死に戻り(リスポーン)しただけだから、話題の空飛ぶゴリラ壱号氏も群衆に交じって敬礼しているのはシュールな光景だ。


 本当に失われてしまったのは、グランデストニアのNPC衛兵たち。


 グレンの指揮のもとで犠牲は最小限ではあったけど、現実と同じく、誰かの死に悼む人々がいることを認めなくてはならない。


 やがて人々の視線は、少しばかり感情を曇らせた俺へと集まってくる。



「ふむ、ぎりぎりセーフでしょうか……」

「辛うじてアウトな気がしなくもないですが……」

「大事な所が見えないので、システム的にはたぶんセーフ」


「ん? んん?」


「さすがニオさま、サービスも忘れない」

「傷つきながらも夕陽を背負う姿は美しい」

「まあ気にしてられる状況じゃなかったもんな」


「な、なに……?」


「ニオさま、おへそがかわいいです」

「ニオさま、下乳もエッチです」

「ニオさま、水着がもう耐久限界なのでは」


「――っ!?!!?」


「はっ!? ニオさまっ!!」


「ア、アエカ、何を!?」



 プレイヤーたちの言葉に、背後に控えていたアエカが慌てたように回り込んできて俺を抱きしめた。

 それも、お互いの胸が押し合うほどに強く抱きしめられたから、突然の彼女の抱擁に血が頭へと上って思考が一瞬で沸騰してしまう。


 や、やわらかくて、彼女の甘い匂いと潮の香りが混ざって……なんか、多くの人の目がある状況でいけない気分に……。



「こんな……人前で……」


「ち、違いますっ! 水着がっ! ニオさまの水着が大きく破れてしまっていてっ、お腹が人目に晒されてしまっているのですっ!」


「ふぇっ!?」



 見ると、水着は肩以外もズタボロとなっていて、ワンピースだったはずが完全に上下が分割するほどに引き裂かれてしまっていた。



「え、え、え? い、いつから? はは配信にも映っちゃった???」


『それはもう当然』

『いいものを見せてもらった』

『相変わらずのニオさまで安心』

『絶対に期待を裏切らないニオさま』

『だから俺らは期待して見ていられる』

『今回もごちそうさまでした』


「あ、あ、ああ……録画禁止……設定して……ない……。あ、あぅ……そなたら、何も見なかったことに……録画をした者は、消す……のだ……消し、て……。う、うぅ……記憶からも消せええええええええええええええええっ!!」


『ニオさまご乱心!』

『あわあわしてるのかわいい』

『ガン泣きわろw』

『少し前までの勇ましさはどこにw』

『だからニオさま推せる~』

『うっ、ふぅ……』


「こ、こ、こ、この変態どもがああああああああああああああああっ!!!」


『『『いえああああああああああああああああああああっ!!!!!』』』



 こうして、プレイヤーたちの勝利の雄叫び(?)は、大笑いをしながらやって来たグレンがコートをかけてくれるまで、それはもう長く続いた……。


 運命とやらは、ニオ()を絶対に辱めたいらしい……。





 ***





 ――港湾都市グランエモルデ、宿屋。


 夜になり、砂浜ではまだプレイヤーたちのどんちゃん騒ぎが続いているけど、俺たちはネムを連れてひと足先に宿屋へと戻ってきていた。


 今回の事の次第はこう――


 ネムが奴隷船に乗せられて難破するまでは設定どおりだったけど、問題はそのあと、海に放り出された彼ともうひとり彼の友人を救ったのが、今回の大型レイドボスのエンシェントクラーケン。


 そんなことがありうるのか……話を聞かされた時にそう思ったけど、だから実際に事が起こってしまったわけで、本当にモンスターに救われたんだろう。


 それで、エンシェントクラーケンの助けを借りて友人共々グランエモルデにたどり着いたのはいいけど、ネムと友人はこの大陸に存在しない種族だったためそれはもう散々な目に遭ったらしいんだ。


 グレンの庇護下にあるため表立った奴隷制度こそないものの、裏社会からはやはり希少種と価値(・・)の対象となり身柄を狙われる毎日。

 当然、それではまともな暮らしなんて送れないから、隠れ潜む下水道で苦労して二ヵ月を生き延びたあとで、友人が息を引き取ってしまった。


 ネムを慕う、同じ“皇人種(ペンギー)”の少女だったらしい。


 そりゃ絶望もする。結果として“冥白化現象(ケイオスシフト)”に飲まれ、生きるための漁を手伝ってもらっていたエンシェントクラーケンを使役し、“地ならし”をするという捻じ曲げられた目的のためにグランエモルデを襲撃した。



「本当に、すまなかったな」


「なんでニオさまが謝るだっペン?」



 ネムはいま宿のベッドの上。ベッド脇に座る俺と向き合って普通に話をし、もとの彼にも戻って、いまのところは後遺症のようなものもないようだ。



「いや、エンシェントクラーケンを退治してしまったから……」


「それは、オラも悪かったっペン。あいつも、人間の船を沈めたり悪さしてて、その報いをいつかは受けなくちゃいけなかったっペン」



 後遺症がないとは言ったけど、一度“冥白化現象ケイオスシフト”の影響を受けた者は、解放されたあとで物わかりのいい“善人”となる。

 前例はプロトンだけではあるけど、ネムにしてもそのペンギンの顔貌はいたって晴れやかで、なんの憂いもないように見えるんだ。



「とにかく、君はこれより余が保護する。要望はできるだけ聞き入れるがゆえに、思うところがあれば遠慮せずに申すがよい」


「わかったっペン。ニオさまについていくっペン」



 とりあえず、ネムは大丈夫だろう。


 問題は、人を漂白(・・)する“混沌の神々”による干渉……。


 プロトンやネムという前例が出た以上は、世界中で同様の事態が進行していると想定しておくべきだ。


 いまだに得体の知れない奴らが何を目的としているのか……もう待っていられない、タイミングを見計らってアエカに問いただすしかない。


 果たして彼女は語ってくれるのか、すべては俺次第――。

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