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第百四十一話 強襲、エンシェントクラーケン!(2)

 レイドボスに挑む際は、本来なら指揮系統を事前にしっかりと構築してからでないと、個々が好き勝手に行動して散々な結果になることが往々だ。


 今回に関してはあまりにも急だったため、配信を通して俺が指揮を担うことで思っていた以上に上手く回ってはいるけど、それもこれもやはりスキル≪皇姫への敬愛≫によるニオに対する印象増幅効果が大きい。


 まるでこうなることを見越していたかのような……と感じるのは大袈裟か。



「ありったけの魔法を放て! 弓と銃は属性干渉し硬化した部位を狙い、盾役(タンカー)は奴の腕を三人以上一組で受け止めよ! 前衛はヒット&アウェイを継続、残りの腕を落とすぞ!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」



 ここに来て、エンシェントクラーケンは腕が半減したことで自重を支えられなくなり、腕による攻撃の威力を盾役が受け止められるほどとなった。

 それでも数人がかりではあるけど、受け止めることができるのなら、これまで被害の大きかった前衛アタッカーも無理なく攻撃に参加できる。


 とはいえ油断をすれば、吸盤に絡めとられて握りつぶされるという悲惨な結末が待っているため、「死にたくなければ避けよ」としか言えない状況だ。


 エンシェントクラーケンは、プレイヤーたちの飽和攻撃により絶えず体の周囲で魔法が炸裂していて、もはや満身創痍ではある。



「せぇいっ!!」


「はあっ!!」



 そんななかで、俺とアエカも腕への攻撃に加わる。


 魔法で焼けた部位は柔軟性を失い、ニオ《俺》にとっては紙切れ同然となるため、特大剣とアエカの散弾銃鉾槍ショットガンハルバードでもたやすく傷をつけることができるんだ。


 エンシェントクラーケンも、もう二度と腕を斬られまいと激しく動いて抵抗するも、次々と襲いかかる前衛職によって、また一本の腕が切断された。



「ピギィェエエェェェェェェェェェェェッ!!」


「――っ!! 散開っ、墨を吐くつもりだっ!!」



 エンシェントクラーケンは頭……いや、胴体を収縮させ、墨を吐くための器官、“漏斗”を()へと向けた。

 すでに目も満足に見えていないはずだから、こちらに狙いを定めることもできず、適当にまき散らすしかないんだろう。


 そうして、数瞬のうちに真っ黒なタコ墨が大量に噴き出された。



「うわっぷっ!?」



 だけど、エンシェントクラーケンの墨は予想を裏切り、水中でなく陸上であるにもかかわらず、霧か粉塵かのごとく周辺一帯に拡散する。



「うぇっ! げほっ、うべっ、ぺっ、ぺっ! ごほっ!」



 エンシェントクラーケンを中心とした一帯の砂浜は黒塗りの地獄だ。


 当然、近くにいた者は頭から墨というかコールタールを引っ被ったような姿となり、あまりの生臭さに多くがむせってしまっている。

 体はタコ特有のぬめりに侵され、払っても払ってもぬめぬめと粘つくというよりも滑るほどなので、これでは武器も満足に振るうことができない。



「あっ……あいたっ!?」


「ニオさまっ、だいじょっ、あっ!」


「むぎゅうっ!?」



 それどころか、滑って転んだ俺をアエカが助けようとしてくれたものの、彼女だって墨の中にいるため、やはり滑ってふたりでもつれてしまったんだ。



「アエ……カ……だいじょ……」


「んっ! そんなっ、急に動かれると……ぅん……」


「ひぇっ! そ、そそそんなこと言っても……か、体を起こせる……!?」


「は、はい……。どうにか……あっ」


「ひゃあんっ!? どこ触って……んぅっ!?」


「ご、ごめんなさいっ、滑ってしまってっ!」



 こ、ここここれっ、墨というか、ぶちまけられたローションの上だっ!?


 アエカともつれ合い、滑ることで思わず変な所に触れてしまうせいで、ふたりして悶えることにまでなってしまっている。


 周囲も同様の状況か。最悪は頭を打ったりで昏倒している者もいるようで、どうにか洗い流さないと戦闘どころではなくなってしまう。



『ふむ、紳士の私でもさすがにこれは……』

『汚れた乙女たちが絡み合うのは……なかなかに、うむ……』

『私、何かに目覚めそうになってきてしまいました……』

『ニオさまとアエカさま、見目麗しいおふたりがああまでとは……』

『私は、自身がいたって健全な嗜好だと認識しておりましたのに……』

『致し方ありますまい。あのようなお姿を見せられては……』



 待て待て、コメント欄の様子もなんかおかしくなっています!?



「ええいっ、呆けるでない! (aqua)系スキルを使える者はいますぐに使用せよ、墨を洗い流すのだ! このままでは……!!」


「ギャーーーーッ!!」

「かーちゃんっ!!」

「ひぎぃっ!!」

「潰っ……ぐえぇっ!!」



 くっ……! 指示を出している間にも、墨霧の中で振り下ろされたタコ腕によって、プレイヤーの何人かが叩き潰されてしまったようだ。



「皆の者っ、退避……あいたっ!!」



 立ち上がろうとしてもやはり滑って転ぶ。実際には痛くなく、またアエカの胸元に突っ込んでしまっただけではあるけど、それはそれで惨事だ。



「んっ……。ニオさま、ゆっくりです。ゆっくりと支え合って立ち上がりましょう」


「ああ、呼吸を合わせて、ゆっくりと、なんとかこの場から……」



 俺とアエカは、お互いの体を支えてゆっくりと立ち上がっていくも、じりじりと動いている間にもプレイヤーたちの被害は拡大していっていまっている。


 くっ、ローションレスリングをしたいわけではない……!


 だけどそうしているうちに、大量の水がどこからともなく押し寄せて足元の墨を洗い流しはじめた。

 俺とアエカは立ち上がるのをやめて、押し寄せる水流の中に沈み込んでぬめる体を勢いよくこすりはじめる。



「ん、はんっ!? アエカ!? 自分の体を洗うのだ!?」


「いえ、まずはニオさまだけでも退避させます。おとなしく洗われてください」


「ふあっ!? だからってそこはっ、あぁんっ!?」


「急ぐので、多少の刺激は我慢してください! この水流もいつまで続くかわかりません、ニオさまだけでも戦線に復帰できれば!」


「はぁんっ!? むっ、胸はいいからっ、自分で洗うからっ!!」


「ではおみ足から、潜ります!」


「ちょっ、アエッ!? ひゃあんっ、くすぐったっ!?」



 くぅぅぅ……。仕方ない、少しの間だけ我慢だっ……!!

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