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第百三十二話 そんなわけで海に来ました(2)

 グランデストニア連邦共和国――海に面した貿易港であり、観光業にも力を入れている商業諸島国家。


 首都となるここ“グランエモルデ”は海と山に挟まれ、内陸側の山頂には城の代わりに政庁舎が存在し、一見すると教会のようにも見える。

 町の様子は、ウォルダーナとは打って変わって石造りとなり、同じ石造りのユグドウェルよりも明るい配色はリゾート地ならではの軽めの印象だ。


 なにより、海に向かって傾斜するように整備された町並はどこからでも海岸線を眺めることができ、風が湿り気と潮の匂いを運んでくれる。


 月並みな感想だけど、マリンブルーのきらめく海が宝石みたいだ。



「ところで、ふたりともやけに近いのだが……」



 俺たちは海岸に出るため大通りを進んでいるところだけど……左右をアエカとコッコたそに挟まれているというか、ぴったりと肌と肌が密着するほどだから、身長差から某連行されるグレイ型宇宙人のようになってしまっている。



「不届き者をニオさまに近づかせないためですから、仕方ありません」


「コケェッ! かわいいを守るのはこの淑女たるコッコたその役目ですぞ!」


「そ、そうか……」



 それはありがとうだけど、どう見ても絵面がやばいんだ。


 アエカも水着……というか、“水中戦用メイド服”なるセパレートタイプの水着を着ていて、彼女はまあ……よく似合っている。


 問題はコッコたそ。もともとがニワトリ頭のマッスルボディという巨漢に、大胆にも真っ赤なビキニという出で立ちは、ニオを狙う不審者避けとしてはたしかに近寄りがたい雰囲気を醸し出してはいるものの、ただ一言――やばい。


 そんなふたりにぴったりと挟まれているわけだから、グレイ型宇宙人の気分になるのも仕方ないじゃないか。



「くふふぅ♪ 小さいニオさまが余計に小さく見えますもんねぇ♪ 目立たなくなるという意味ではいいんじゃないですかぁ♪」


「いや、余計に目立っておるのだが? ヒワは楽しそうだな……」


「それはもうツキちゃんがかわいくてぇ、ご満悦ですよぉ♪」


「ボクはいますぐここから逃げ出したい……」



 ヒワの水着は緑色のボーダー柄紐パンビキニ。上にラッシュガードを羽織って日焼け対策か露出対策か、俺も着たかったけどなぜか許されなかった。


 ツキウミの逃げ出したい気持ちは俺もよくわかる。だけど、しっかりとヒワに腕を組まれているから、あれでは拘束されているも同義だろう。


 ある意味の拘束状態と見ると、俺も同様だ。



「はぁはぁ、アエカさまとコッコたそに挟まれてるニオさまも~、思いのほか最高で撮影の手が止まりません~。はあぁ~、いいですよ~いいですよ~、不貞腐れたような~困ったような~、その表情がそそります~、はぁはぁっ」



 そして、俺たちの周りを忙しなく回って動画だかスクリーンショットを撮っているのが、自ら撮影役を名乗り出たミーちゃんだ。

 彼女の水着は花柄のオフショルダーワンピースと、パッと見はフェミニンな物だけど、そもそもの言動がやばくなってきているので要警戒だ。


 まあ、彼女たちがニオラブでないことはわかっているため、最低限の節度さえ守って楽しんでくれる分には多少の事には目をつぶろう。



「はぁ~ん、やっぱり前々から海水浴イベントを企画しておいて正解でした~」



 おまえの仕業か。



「そなたが企画したのか……」


「はい~。グランデストニアは海に面したリゾート地って聞いた時から~、私の作った水着をニオさまにも着てもらいたくって~、徹夜でがんばりました~」


「う、うしろについて来る連中の水着も……?」


「いえ~。商機だって、裁縫クランのメンバー皆でですよ~」


「それは、なんともたくましいことだ……」



 うしろにぞろぞろとついて来るプレイヤーたち皆が皆、しっかりと水着を用意しているのはおかしいと思っていたんだ……。

 この世界にはまだ海水浴文化がないため、プレイヤーが自ら用意しないと水着なんてまず手に入らないけど、仕掛け人がわかれば納得だ。


 最近では、プレイヤーが自ら企画するイベントもちょこちょこと増えてきているようで、WoRを盛り上げるための貢献なら俺もできるだけ関わろう。



「あー、ヒワとツキウミにお使いを頼む」


「はぁい、なんでも喜んで申しつけられますよぉ」


「ここから逃げられるのなら、喜んでぇっ!」



 ツキウミの食いつきよ……。

 逃げられないとは思うけど……。



「せっかくのミーちゃんが企画した海水浴イベントだ。資金を渡すから、バーベキュー用の食材を集め、グランデストニアの経済発展にも貢献しようぞ」


「うおおっ! ニオさま太っ腹ーっ!」

「ヒャハーッ! ごちになります!」

「そういうことなら俺も貢献するぜー!」

「ヒワちゃーん、私も手伝うから手分けしよー」

「ツキウミ殿の介抱は自分にお任せくだされ!」

「皇国大隊も協力するであります!」



 おっと、協力を要請する前にプレイヤーたちも率先して動きはじめた。



「皆、助かる! ただし、地元の景観をたわむれに損壊し、住まう人々に迷惑をかけることは余が許さぬ! 礼をもって楽しむがよい!」


「それはそう!」

「当然のことだよな!」

「他者の迷惑を省みない連中とは違うのです」

「バーベキューはじめてだけど、守るべきマナーはわかる」

「塵ひとつ残さないよう徹底しよー」



 そんなわけで、プレイヤーたちはパーティ単位クラン単位で役割を決めたようで、それぞれが町中に散らばっていった。



「さすがニオさま~、私は海水浴をすることしか考えてませんでした~」


「この世界を循環させるのは探索者(プレイヤー)の役割なのだから、今回そのきっかけとなったのはほかならぬそなたぞ、誇るがよい。それにこの水着もよくできて着心地がよい、ミーちゃんとコッコたそには感謝をしよう」


「えへへ~、ニオさまに褒められました~♪」


「ミーちゃんやりましたなあ、コケェッ!」



 俺たちは引き続き海へと向かって観光街を行く。


 グランデモルデは北と南で役割がわかれていて、北側が観光街、南側が商業街と、境のあるリゾート地と貿易港の二面性が見られるんだ。


 とはいえ、この世界の住人(NPC)はまだ観光ができるほど裕福ではないため、北側を利用するのはプレイヤーばかりになるけど、こうして土地にお金を落としていけばいずれは近代的な生活水準に達するだろう。


 すべては自らの目指す楽園のため……。


 そういえば、この地にも“推しキャラ”が配置されていたような……。

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