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第百二十九話 ニオさま、あやされる

「ばっ!? なに持ち上げっ、下ろせっ!?」


「はっはっはっ! 遠路はるばるウォルダーナまで来たんだ、ここにいるぞともっとアピールしなければな。ただでさえそんなに小さいんだ」


「余計なお世話っ、やめぇっ!」



 エスティリア女王との晩餐会は、ほどなくしてアエカとグレン統括議長、ヒワやライゼとも合流して、和気あいあいとつつがなく終了した。


 そうして、今日のところは王城に宿泊することとなり、その前に早速ワープポータルを設置してしまおうと城門を出たところで、グレンもといケンゴにいきなり抱え上げられてしまったんだ。

 もう長いこと視線が低かったから、急に二メートル以上の高さに担ぎあげられるのはちょっと漏ら……いや、少し血の気が引く。


 プレイヤーが行き交う人混みのなかで、一国の君主がそんな目立つ行為をすれば、当然のように注目を集めてしまう。


 アピールという意味ではたしかに成功しているけど……。



「た、たっか……。落とすなよ!? 絶対に落とすなよ!?」



 俺はグレン統括議長の肩に乗せられ、彼の頭に掴まっている状態。


 周囲では、共に来たアエカとベルクが慌てているけど、体裁上は他国の君主となるため迂闊に制止することもできずにいる。



「おまえさんが暴れなければ落とさずに済むんだがな。それにしてもやわっこくなっちまって、そんなに押し付けずとも安定してるだろ?」


「ふぇっ!?」



 必死になりすぎて、いろいろと押し付けてしまっていたようだ……。


 俺は慌てて体を離すも、体勢を崩して今度は本当に落ちそうになる。

 だけど、視界がぐるりと回転したところで、今度はグレン統括議長の太い両腕で腋の下を支えられるような体勢となってしまった。


 俺は宙ぶらりんの視線のまま地に足も着かず、ただ彼の視線を受ける。



「なるほどな……」


「な、何がなるほどだ……?」


「いやな、娘がいたらこんな感じなんだろうなと」


「中身がおっさんの娘とかまずいないが?」


「中身のことはこの際だ記憶から消去して、おまえかわいいな?」


「ふえぇっ!? 血迷ったか!? 少女趣味があったとは!?」


「いやいや、あくまで娘としてだ。ほら、高い高ーい」


「ふにゃああああっ!? やっ、やめろっ、回すなぁっ!? 人が見てるっ! パンツッ! パンツが見えてしまうからぁっ!」



 もう最悪だ。


 我が子をあやすかのように高く持ち上げられ、しまいにはぐるんぐるんと大回転まではじまり、俺は遠心力にまるで逆らえずにいる。

 その勢いは羽織っていた軍装が吹き飛ぶほどで、アエカがキャッチしてくれたものの、余計にスカートの中が周囲からはまる見えとなってしまう。


 グレン統括議長というかケンゴは、強面にもかかわらず割と子煩悩なところがあって、ニオがよほど父性を刺激してしまったんだろう。



「見え……いや、ここでそれを言うのは無粋か……」

「やぁぁ、親子水入らずって感じで尊いの……」

「グレン閣下のパパみにニオたんの娘みまで、至福~」

「美しきは親子の情というものですな、心が洗われますぞ」

「でもニオさま泣きそうだな。まあかわいいんだけど」

「グレン閣下のあの満面の笑みよ……」

「もっと怖い人かと思ってたが、印象変わったわ」



 ほらぁっ!? 一瞬「見え」って聞こえた、絶対にパンツ見られてる!

 配信アイコンが表示されている人もい……人? どう見てもゴリラだけど?


 いやっ、いまはそんなことを気にしている場合ではないっ!



「グ、グレッンッ……もう下ろ……うぇ、吐く……」


「うおっ!?」



 俺がえずいたことで、グレン統括議長もさすがに大回転をやめた。


 食事を食べたばかりで、あんなアクロバティックに勢いよく振り回されたら、そりゃ胃の中身も逆流するというものだ。



「悪い、思わず我を失っていた」


「はぁはぁ……うぇ、んぐぐ……。た、食べたばかりなんだから……」



 危なかった……。これだけの人を前にゲロインになるところだった……。

 ニオはただでさえ変な属性を盛られているから、これ以上はいやだよ……。



「ニオさま、大丈夫ですか? お水をお飲みください」


「ありがと……。んく、んく、んく……ふはぁ……」



 アエカが差し出してくれた水筒から水を飲み、吐き気はなんとか収まる。



「ロスヴァニア統括議長閣下、ニオさまがいくらかわいかろうと、場と立場をわきまえるよう進言いたしますことをお許しください」


「ああ、以降気をつけるとしよう」


「ニオさまのためにも、そのようにお願いいたします」



 アエカが釘を刺してくれたから、とりあえずもう大丈夫だろう……。


 続いてグレン統括議長は無精髭を撫でながら、困ったような表情を見せる。



「話には聞いていたが、これがニオ殿下を直接目の当たりにしたときの、なんとも言えない吸引力とやらなんだな」


「……?」


「一種の魅了といえばいいか。中身のことを知っていてもなお、“ニオ ニム キルルシュテン”という少女に対して心惹かれる。不可思議な現象だ」


「ユニークスキルのせいだという話だが……」


「それでもなあ……」



 グレン統括議長はアエカを見たものの、彼女は表情を変えない。



「まあいい。人が集まってきたから、さっさと用事を済ませて戻るか」


「誰のせいだ……誰の……」


「はははっ! すまん!」


「はぁ……」



 周囲を見ると、円状に空間ができて大勢に取り囲まれている状況だ。

 遠巻きにしているのは、生のニオをはじめて見るプレイヤーばかりだろう。


 グレン統括議長の言う“魅了”、ユニークスキル“皇姫への敬愛”を安易に振りまくつもりはないとはいえ、パッシブ効果なんだからどうしようもない。


 できることといえば、騒動が起こってしまう前に引きこもるのみ。



「ええと……それで、ウォルダーナのリスポーンポイントは……」


「中央広場ですね。建国記念に若木が埋められた場所です」


「ああ、一本だけ小さな木が植えられていた……」


「迷うことはない、俺も一緒にいってやるから」


「それがもっとも不安なのだが……」



 ちょっとしたトラブルはあったものの、こうしてユグドウェル、ウォルダーナ間のワープポータルは繋がり、両国は友好関係を結んだ。

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