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第百二十五話 ウォルダーナ領、到着(3)

 メイドに案内され、ウォルダーナ城の廊下を歩いていく。


 ウォルダーナの城下町は基本的に緑と茶色の景観だったけど、女王の住む城だけ真っ白な木材?で組まれているようで、壁や床がうっすらと光を放つ様はなんとも厳かな雰囲気に包まれている。


 それにしても、スムーズに中へ入ることはできたけど、WoRをはじめて自分(ニオ)以上の身分の人に会うというのは、キャラ崩壊しそうでちょっと不安。

 そうなんだ、エスティリア女王は文字通りの“女王”だけど、実はニオはあくまで君主の娘“皇姫”でしかなく、設定上の身分は相手方が上。


 それも中の人となると後輩なわけだから、言動が迷子になりかねない。



「こちらなのです」



 曲がり角で行く先を指し示すメイドの名前は、“クラリッサ”。


 容姿は髪が緑色のアエカで、要するにエスティリア女王にあてがわれた、WoRのマザーオペレーティングシステム“アイリーン”の同一体だ。

 同一存在ではあるけど、目尻が下がって言動も若干幼い印象を受けるため、表層の人格自体は別なのかもしれない。


 俺たちは案内のままに主廊から外れた方向へと誘導されていく。



「謁見の間ではないのか?」


「談話室に案内するようにと、女王陛下の取り計らいなのです」


「気を使ってくれたのか」


「公式な訪問というわけでもないですからね。いずれ大々的な訪問団を派遣するとしても、今回は顔合わせで済ます程度なのでしょう」


「本来はまず使節を送るべきだからな……」



 現実だったら、まだ敵か味方かもわからない相手のもとに、いきなり皇族がほんの数人の護衛と共に出向いたりはしない。


 この辺りは、外部で連絡を取れるプレイヤーならではで、場合によっては不審に思うNPCも出てくるかもしれないから、気をつけないと。


 そうしてしばらく廊下を進むと、クラリッサが両開きの扉をノックした。



「エスティリアさま、お客さまをお連れしたのです」


「お入りなさい」



 部屋の中からは空気を緩ますような穏やかな声が聞こえた。

 扉が開け放たれ、俺たちは若干緊張しながら内部へと入っていく。



「ようこそお越しくださいました、ニオ ニム キルルシュテン殿下でございますね。わたくしは、“エスティリア レ ルメディア アーカナ”、ウォルダーナ森星王国の女王を星霊樹より拝命いたしております。以後、よしなに」



 やはり白一色の室内に、唐突に色とりどりの春が訪れた。


 そう錯覚してしまったのは、立ち姿で会釈をするウォルダーナ森星王国の君主、エスティリア女王の淑やかな微笑みによるもの。


 淡く儚い空色の髪に、瞳は深い水底を映すかのような金青色。森人種(エルフ)の伝統的民族衣装に身を包み、その様を一言で言い現わすのなら“深緑の女神”。

 そしてほかの者よりも耳が長い“高等森人種(ハイエルフ)”と、アエカにも引けを取らない美しさは、プレイヤーが呼ぶ“麗しのエスティリア嬢”をまま体現していた。


 嘘だろ……まるで本人のような……。中身は、高屋じゃ……。



「え、えと、そうだ……そうです? 余が、ユグドウェル輝竜皇国の皇姫、“ニオ ニム キルルシュテン”。こたびは、突然の来訪にこのようにゃ……な、場を設けていただき、誠に感謝でござる……ござ? です? ふぇ……」



 ああーっ!? 言葉遣いが本当に迷子ーーっ!!


 テンパりすぎでしょ自分ーーーーっ!!


 女王陛下にいつもどおり接していいのかどうか、王族に対しての礼儀作法なんて学んだことはありませんでしてよ!? どうすんのこれ!?



「ニオ殿下、そう緊張なさらないでくださいませ。幼き頃よりお互いを知る親しき友のように、くだけた姿勢でお話いただいて構いません」


「だ、だが……ですが……」


「わたくしとしても、そのほうが……ぎゃんっ!?」


「あ」


「「「あ」」」



 エスティリア女王がこちらへ近寄ろうとすると、自らの長いスカートの裾を踏んで、見事に無防備な姿勢でビターンッと床に倒れてしまった。


 そりゃ当然、皆の反応も「あ」と目を点にするよりない。



「エスティリアさま!」


「いたたたたっ、鼻打ったぁっ!! うわーんっ、クラリッサァッ!!」



 呆然とする俺たちの前で、クラリッサだけが迅速に駆け寄り、鼻の頭を押さえてもだえ苦しむエスティリア女王を助け起こす。


 あれ……少し前までの、高貴で麗しいエスティリア女王はどこ……?


 俺はもちろんのこと、アエカもベルクもツキウミもポカーンとするよりなく、室内で待機していた従者たちに関しても、女王に駆け寄りはするもののよくあることと非常に落ち着いて対処をしている。


 なるほど……な? ボロが出ているってこういうことか……。



「エスティリア女王陛下、大丈夫ですか……?」



 このまま傍観しているだけなのもなんなので、俺も鼻を押さえて泣いている彼女のもとに近づき、おそるおそる声をかけた。


 もうこのさいだから、敬語になってしまうのは致し方ない。



「ふぐっ、せんぱ……ニオたん、うちを慰めてよぉっ!! うええーんっ!!」


「ふにゃっ!?」



 心配して近づいた俺に対し、エスティリア女王というか高屋は、大泣きしながらしがみついてきた。

 転倒と同時に立場とか威厳まですっぽ抜けてしまったのか、まだこの場には複数の侍従や衛兵、部外者のベルクやツキウミ(プレイヤー)までいる状況だ。


 ボロというか、ここまでだともうボロボロだよね……。



「じょ、女王陛下、ここは人目もあります。立場をわきまえ女王らしく振る舞っていただけると、私も助かるのですが……」



 自分自身、一人称が“余”でなく“私”になるとかメタモルフォーゼして、もはや俺が誰だよという状況にもなってしまっている。



「はぁぁ、そんなことよりもお胸やわらか~。なんか甘い匂いもするし、このまま抱きついていていいかないいよね。もっとうちを慰めてよ~」


「ちょっ、高……エスティリア女王陛下!? そういうことは人前では!?」


「人前じゃなければいいの? 皆さん、これよりは内々の会合といたしますので、関係なき者は部屋よりご退出いただきます。ニオ殿下とはこのとおりの仲ですので、何も問題はございません。ご心配なきよう」



 エスティリア女王は何もなかったかのように告げると、俺を胸に抱いた。


 いや、それにしても素と演技の切り替えがすんごいな!? 

 従者の皆さんはこんな適当な演技で納得するの!?



「それでは女王陛下、何かあればお申しつけください」



 素直に従うんかーーーーいっ!?


 どうなってるのこの国……。

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