第百二十三話 ウォルダーナ領、到着(1)
――街道沿いの宿場町“カルミラ”。
なんだかんだあったけど、ダンジョン村で教えてもらった地図情報を頼りに、俺たちは森を抜けて街道まで戻ってきた。
宿場町“カルミラ”は、ウォルダーナ森星王国の領内最南端の町ということで、旅人の入国審査が行われている関所でもある。
まだ国交がないのと、事前通達を行う使者を派遣する余裕もないため、いきなり他国の皇族がやって来るという事態ではあるけど、その辺はズルというか、現実を通して連絡を取ってもらって割とスムーズに入国はできた。
聞くところによると、ウォルダーナ森星王国の女王“エスティリア レ ルメディア アーカナ”はよく知る後輩だというから、正直この姿では会いたくない。
まあでも、国に引きこもってばかりもいられないし……。
「ただいま戻りました」
「お帰り。どうだった?」
領主館でくつろいでいると、部屋の扉を開けてアエカが戻ってきた。
質素な木造の室内には俺だけ。ベルクとツキウミは探索者ギルドに、ヒワとライゼは市場を見て回りたいといまは外出していていない。
「ウォルダーナまでの馬車をお借りすることができました」
「お、それなら残りの旅路は楽になるな」
「はい。それと、いましがた早馬も出されたので、ニオさま到着の報が一週間程度でエスティリア女王に伝わるかと」
「向こうさんは現実を通して知ってるのに、二度手間じゃ?」
「NPCは義務を果たしているだけですから、彼らにとっては決まり事を遵守しているにすぎませんよ」
「たしかに、そうか……。ここの領主は職務に忠実そうだったから、なんとなくエスティリア女王に対する忠誠が目に見える感じだ」
「そうですね。森人種は特に女王に対する信頼が厚いので、統制の面ではユグドウェルにも引けを取りません」
「うちは……煩悩がだだ洩れな奴が多いけど……」
「ふふ、愛されているのはいいことです」
「限度がある……!」
宿場町、ウォルダーナの衛星都市でもある“カルミラ”一帯を治める領主は、NPCとしては割と珍しい“森人種”だった。
彼とはたどり着いてすぐ対面することになり、本人が気のいい御仁だったことと、“隣国の皇姫が来る”とウォルダーナ本国から報も下りていたそうで、いろいろとスムーズに宿泊する部屋まで手配をしてくれたんだ。
そんなわけで、次に旅立つまではこの領主館に滞在する。
「ところで、それは?」
「これ? キラーフィッシュが落とした種石なんだけど……」
「≪吸精≫ですか……。現状のスキルとシナジーはありませんね」
「うん、だからどうしようかと」
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ニオ ニム キルルシュテン
種族:輝竜種
腕力:160 → 178(+30)
体力:38 → 39(+30)
敏捷:45 → 50(+30)
知能:125 → 136(+30)
原理:1200
物理攻撃力:570 → 616
属性攻撃力:350 → 452
物理防御力:246 → 258
属性防御力:483 → 505
レリックスキル
≪生命の杯≫:レベル3 スキル:≪創世の灰≫ 光焔属性:50
≪真理の冠≫:レベル3 スキル:≪創世の灰≫ 光焔属性:50
≪教会の印≫:レベル3 スキル:≪創世の灰≫ 光焔属性:50
思い描くことで任意の現象を創造する。
≪千陣破断≫:レベル4
横薙ぎの範囲攻撃を行い、攻撃対象に≪裂傷≫を付与する。
スキルダメージ:240%物理攻撃力 継続ダメージ:14%属性攻撃力
≪柔軟性向上≫:レベル3
皮膚弾力、体の柔軟性を向上させる。やわらかボディ。
≪装甲武器≫:レベル3
防御、補助系スキルの効果を≪遺物≫に付与する。継続時間3秒。
≪打撃耐性≫:レベル3
打撃に対する耐性を得る。
≪鑑定≫:レベル3
レアランクまでのアイテム、モンスターを鑑定することができる。
ユニークスキル
≪皇姫への敬愛≫:レベル4
スキル所持者を視認したプレイヤーに≪英雄≫効果を付与する。
≪英雄≫効果中のすべてのプレイヤーは1.4倍の攻撃力補正を得る。
スキル所持者を視認することで≪英雄≫効果の更新、再取得が可能。
≪英雄≫ 士気向上:レベル4 クリティカル率向上:レベル4
継続時間:14秒
≪率いる者≫:レベル3
パーティメンバーのすべての基礎ステータスに+30を付与する。
この効果はスキル所持者が対象の認識範囲内に存在する限り永続する。
≪汚破倍化≫:レベル2
体が汚れ、装備が破損すると、状態に応じて最終攻撃力が倍化する。
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ちなみにステータス、スキルはこんな感じに上がっていて、相変わらず体力の伸びが壊滅しているものの、ダンジョン村でドロップしたシードクリスタルのおかげで満遍なく強化ができた感じだ。
それで、若干トラウマになっているキラーフィッシュがドロップした≪吸精≫だけど、ニオには特に必要なかったりする。
「スキルの効果は原理を他者から補給する……か。ニオは自力回復で十分だから、やはり……」
「ツキウミさんに渡すのが最適解ですね」
「ダンジョン村防衛戦でもひぃひぃ言ってたから、それしかないかな」
以前よりましになったとはいえ、いまだ回復役は希少だから、回復以外の役をこなすにはやはり原理自体を回復する手段が有用だ。
当然、うちのパーティではツキウミに装備させることが最適解だけど、なんかニヤけているアエカの表情が気になる……。
「このスキル、何か……あるのか……?」
「いえ何も。何か気になる点でも?」
「いまニヤけてたよな?」
「ニヤけていません」
「いやいや、ニヤニヤしてたよな?」
「していません」
「……」
「……」
「≪吸精≫っていうくらいだから……」
「原理の回復手段は大切ですよ、考えるまでもなく」
「あらゆるストラテジーにおいて、コストの回復手段が重要なのはわかっているけど……どう考えても……」
「考えないでください」
「いや、でも」
「考えないでください」
「……」
「……」
いやもう、幽霊ちゃんが吸精する時の行動で結果は見えている……。
口から口とかだったら、残念だけど売り払うこととしよう……。