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第百十七話 僻地に根を張る

 ――ダンジョン村中央広場、最終防衛線。


 村の中心、各ダンジョンへと通じる交差路を取り囲むように土嚢が積み上げられ、四方への行き来は完全に封鎖されている。


 脇には宿や取引所などといった施設が軒を連ねているけど、基本的には探索者が持ち回りで維持し、旅商人が一時的に間借りをする物件のため、いまは避難してひとり残らずいなくなっていた。


 そう誰も(・・)、先ほどまで一緒だった探索者ですらひとり残らず(・・・・・・)だ。



「うぇーいwww ニオたんさっきぶりぶりい、元気してたあ?」



 ニオラブAが相変わらず軽薄そうに声をかけてくる。


 そばにはBとCもいて、彼らの背後にはだいぶ離れて、“樹毒のクミーリア”とマンイーターの大群がいまもこちらへと迫ってきている状況。


 彼らが一時的に逃げ出してから数十分。俺たちも最終防衛線まで後退し、しばらくして再び向かい合っているわけだけど、のんきにもまたやって来るなんてやはりおバカ以外の何者でもないんだろう。


 まあ逃げ出したところで、すでにアイリーンが捕捉しているんだけど。



「おかげさまでな。きさまらにどう罰を与えるかと、意気込んでおるぞ」


「うはこっわwww そんな目で見られたら興奮しちゃうんですけどおwww」


「シュウちゃんMだからwww ご褒美にしかならんのウケるwww」


「まじ助かるうwww どうせなら罵ってえ、みたいなwww」



 ここに来て、ニオラブAの名前が“シュウちゃん”ということはわかったけど、まあそんなことはどうでもいい。



「んじゃま、モンスターにはもうちょい踏みにじってもらいますかねwww 俺らの分以外にもさあ、ニオたんの布を確保しとけば億万長者も夢じゃないってか、すでに注文がメチャメチャ入っててマジ富豪www」


「NPCも逃げちゃったみたいだし、諦めておとなしく脱いでくれたら状態のいい服がゲットできて最高じゃねwww なあニオたんwww」


「うは、配信ストリップショー強要とか、まじ外道でウケるんだけどwww」


「いいっしょ?」


「いいね!」


「「「うぇーいっwww」」」



 はあ……溜め息ばかりが漏れてしまう……。


 まあこいつらの無駄口が多いおかげで、十分に時間稼ぎはできた。


 もはや、アエカが視線だけで人を殺せそうなほどになっていて、いい加減に我慢の限界だろうけど、間もなく予定時刻だ。


 ここは、ダンジョン村交差路最終防衛線――。


 俺たちの背後には、何もない(・・・・)。最終防衛線にもかかわらず、人を退避させ、守るべきものはなく、蹂躙されるとしたら俺たちだけでほかには何もない(・・・・)


 何かがあるとしたら、ただの空間(・・)


 なんでもない空間を守っているとしたらただの間抜けだけど、この空間こそ(・・・・)が事態を収めるために必要な最低条件(・・・・)だと、ここで明かそう。



「シュウちゃん、もっとニオたんの焦る顔が見たいなーなんつってwww」


「おいおい名案かYO! んじゃま、ほかのダンジョンでもスタンピード起こしてえ、ここいら壊滅させちゃう? やっちゃう? やっちゃいまーすwww」


「うっはwww シュウちゃんさっすがwww」


「この外道にも劣る愚物共が……!」


「アエカ、こらえよ……! あと一分だ……!」



 ニオラブAが、スタンピードを引き起こしている“呪木の枝”を空に掲げると、禍々しい瘴気の帯が新たに四方へと散っていった。


 あれは、モンスターをコントロールできるといっても、誘引できるだけで細かい制御はできない代物だ。そもそもが、この地上にはないはずの極希少なアーティファクトで、それがどういった経緯でニオラブの手に渡ったのか。


 まあいい……。


 タイムカウントは、残り三十秒……!



「そういえばニオたんさあ、さっき絶望を教えてやるとかなんとか言ってたよなあ。それってなに、仲間に逃げられてこーんな場所に取り残されたあ、絶望するニオたんを見せてくれるってことお!? まじ最高なんだけどwww」


「え、そういうこと? さすがニオたんwww 俺らのことわかってるうwww」


「やっべ、まじやっべ。俺一生ニオたんのケツ追いかけるわwww」


「俺もwww」


「もち俺も俺もwww」


「「「うぇーいっwww」」」



 ………………3。


 …………2。


 ……1。



「そこまでだ、この痴れ者共。(まこと)の蹂躙がいかなるものかを知れ」



 俺が腕を宵闇の空へ高々と上げると、背後で金色の光が輝いた。

 光は交差路に根を這わせ、幹を生やし、瞬きの間に枝葉まで形成する。



「えっ、ちょっ!? なにそれ!? なにしたん、ニオたん!?」



 いまダンジョン村の中心に生まれ出でたのは、祝福されし小星霊樹。



「何とは、無粋なことを訊く。決まっておろう、“祝福されし小星霊樹(ワープポータル)”ぞ」



 そうして、遠隔地を繋ぐワープポータルの解放とともに転移してきたのは、揃いの黒い軍服を着た数十、いや数百にも及ぶ集団。


 金光の粒子(パーティクル)を身にまとい、一人ひとりが頼もしい英傑に思える。



「全隊、前へ! 隊列を形成し、射撃用意!」


「え、まじ……。ちょま……それってチートじゃね?」


「どこがだ? 設置から二十四時間、たしかに経過したのだが」


「昨日すでに……? ちょっ、ずるくね……!?」


「“ニオ姫さまがための皇国大隊”、展開完了! ニオ姫さま、ご命令を!」


「うむ、ご苦労」



 俺たちの背後にずらりと整列し小銃を構えているのは、クラン“ニオ姫さまがための皇国大隊”。

 ニオに迷惑をかけようと我欲を優先する、“|ニオたんを心ゆくまで愛でまくるニオラブ”とは袂を分かった、あくまで規律正しいプレイヤーの集団だ。


 俺は昨日の段階で、解放に時間のかかるワープポータルを設置し終え、彼ら“皇国大隊”にも緊急時の部隊展開を依頼していた。


 この状況をすべて予測していたわけではないけど、結果として絶望的な戦力差を埋められるのだから、時間稼ぎをしていたというわけだ。



『ポータルが開いた……?』

『って、遠隔地に転移できるんだっけ?』

『そうそう、うちらも参戦できるね』


『皇国大隊のいっちゃん一等兵であります! 移動はユグドウェル噴水広場から、転移先の混雑を避けるため最初だけ指示に従っていただきますが、ニオさまの窮地を救うために勇士を求めるであります!』


『よしきた! 行こうぜ!』

『なんだかわからんけどわかった!』

『ニオさまを辱めた罰を受けてもらうか』

『っていうか女の敵だし~、袋叩きにしよ~』

『よっしゃ、痴れ者退治じゃああああああっ!!』


『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』

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