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第百十四話 残り、一時間

「ふっ! ≪千陣破断(ヴァンガードブレイク)≫!!」



 俺の特大剣による範囲攻撃がマンイーターの群れを薙ぎ払う。


 ≪装甲武器(アームドウェポン)≫+≪柔軟性向上≫+≪千陣破断(ヴァンガードブレイク)≫=射程倍化範囲攻撃


 やはり、処理しきれないほどなだれ込まれたときはこれに限る。

 剣筋を立てるのが難しいのと、振り切ったあとですぐに≪装甲武器(アームドウェポン)≫を解除しないと体に巻きつくけど、集団をひと薙ぎにできるのは大きなメリットだ。



「ぬぅん! ≪騎士道精神スピリットオブシヴァルリィ≫!!」



 続いて、後退する俺の代わりに再び進み出るのがベルク。

 続々と三又通路を越えてくる新手を引きつけ、ターゲットを取る。


 さすがのベルクも、十体、ニ十体に囲まれると落ちてしまうだろうけど、堰によって侵入が制限されている状況では文字通り不動の盾。


 機動力に翻弄された冥化エレメンタルドッグとは違い、マンイーターは攻撃こそ苛烈なものの包囲は突破されず、NPC探索者たちで処理しきれない分は、こうして俺が範囲攻撃をすれば状況のリセットができるんだ。


 当然、マンイーターに交じって冥化エレメンタルドッグもいるも……。



「≪鈍足付与≫」


「抜かせません!」


「ちぇいあーっ!」



 第二陣の時ほど数が多くないため、ライゼのデバフを受けて機動力が落ち、アエカときわめによってあっさりと倒されていた。



「よし、第一隊斬り込め!」

「第二隊もだ、続け!」

「うおおおっ!」

「やってやらぁっ!」

「いつまで続きやがる!」



 俺が範囲攻撃をするため一時的に下がらせた白兵隊も、各リーダーの掛け声で再び間合いを詰める。


 率先して前に出ているのは、植物系モンスターの弱点を突ける斧武器や斬撃系、火属性系のスキル持ち。

 マンイーターを相手に、ダンジョン村の探索者はさすがに慣れたもので上手く処理しているけど、どうしたところで長引く戦闘に疲労は蓄積し、捕虫葉に捕らえられる者も出てきてしまっていた。


 いまのところはすぐに助けられ、多少の傷ならツキウミの治癒を受ければ戦線復帰が可能とはいえ、それも彼の原理が尽きるまでが限度。


 こうして一進一退の攻防を続けて、かれこれ一時間。


 マンイーターの進攻速度が早くないため、時間稼ぎはできているけど、機動力が犠牲になった分は蔓による攻撃が厄介だから、消耗は激しい。



「ドラング、こちらの損耗はどの程度だ?」



 一時下がった俺は、後詰めの指揮を任せているドラングに尋ねる。



「矢がもうない。魔法隊もこれ以上は無理だ。戦線に戻れない重傷者は八名、ツキウミさんの限界も近いそうだ」


「そうか……」



 わかっていた……。


 防衛部隊の物量を考えれば、ここまで持ちこたえているのは堰を築いたおかげではあるけど、それももう終わり……。


 タイムカウントはあと一時間と十分……頃合いか……。



「わかった。弓隊から近接戦闘が可能な者を選抜し、白兵第三、第四隊と合流。残った者と魔法隊で重傷者を村まで移送せよ」


「いいのか? 完全に投射攻撃がなくなってしまうが……」


「間もなく後退の指示を出す。防御陣地は放棄する」


「だが、こいつがなければ……」


「引き際が肝心よ。第三隊、第四隊も投入し、ギリギリまで粘るがな」



 白兵第三隊、第四隊といっても、人数が十人程度の予備部隊だ。

 それぞれのリーダー以外は新米(ニュービー)で構成され、スタンピードが左右に流れたときの牽制役だったけど、結局モンスターは直進するだけだった。



『潮時だな』

『村にも警戒部隊がいるよな?』

『合流させるつもりなんじゃ』

『ダンジョンの階層的にまだ半分だろこれ』

『やばいな、最悪は村を放棄するしか』

『久しぶりの配信が撤退戦て』

『そうなったとしても俺たちで奪還しようぜ』

『それしかないか』

『僕たちを頼りにするってのはそういうことかな』

『いまとなってはそう考えるしかないが』



 配信コメント欄は先の見通しになっているけど、俺はまだ諦めていない。


 村としても住人は最低限で、放棄したところで戦力を整えて再度制圧に乗り出せばいいとなるのはわかるし、むしろそのほうが遥かに安全だ。


 だけど、事態を収めるための種をすでに蒔いている状況で、撤退を選択するのは“輝竜種の姫プリンセスオブロードドラゴニア”としては愚行。


 せめて、種が芽吹くまでは持たせてみせる。



「ニオさま! ダンジョンの中ボスが出現しました!」


「なっ!? このタイミングで!?」



 いいのか悪いのかは置いておいて、アエカの報告にダンジョンの方を見ると、マンイーターよりも少し大きなモンスターがこちらへと向かっていた。


 “堕ちた星痕”ダンジョン三階に出現する中ボス、“樹毒のクミーリア”。



「ドラング、急ぎ重傷者を移送せよ!」


「俺もここで……!」


「行け! そなたを探索者のまとめ役に命じたのはなんのためか!」


「移送くらいなら俺でなくとも……!」


「くらいではない! 残してきた部隊に事の次第を報せ、態勢を整えるのだ!」


「――っ!!」


「ここで押し問答をしている場合ではないぞ」


「……わかった。態勢を整え待っている」


「うむ、再び村で会おうぞ」



 そうして、ドラングは後詰めの部隊に声をかけ移送準備をはじめた。



「全部隊、マンイーターの侵攻を押さえながら撤退準備! 防御陣地を放棄し、村に最終防衛線を築く!」



 いまもマンイーターと対峙する探索者の間で動揺が広がる。


 それほどまでに、ここまでスタンピードを制限してきた三又通路の堰が、彼らにとって頼もしい存在だったからだろう。

 防衛陣地を越えられ数と数のぶつかり合いとなれば、たやすく決壊してしまうのは目に見えている以上、ここを放棄するというのはありえない。


 だけど、あとのことを考えたら村まで後退する必要があるから、俺は自信をもって何度となく彼らへと告げる。



「怯むな! この程度は危機にあたわず、余について参れ!」

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