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第百十三話 第三陣、到達

 “堕ちた星痕”ダンジョン三階、主に出没するのは“マンイーター”。


 こいつは冥化エレメンタルの派生ではない、食虫植物のハエトリグサをモチーフにしたモンスターだ。

 もちろんサイズは人大で、そのまさにモンスターの大あごのような補虫葉は、人であろうと捕縛して消化してしまうという。


 そんな奴らがスタンピードの第三陣。自らの根を器用に動かし、いままさに俺たちの備える防御陣地へと迫っていた。



「どこを見ておる、それがしが相手だ! ≪騎士道精神スピリットオブシヴァルリィ≫!!」



 ベルクの裂帛の気合とともに放たれた大声(シャウト)に、再起しまだ堰を越えてやって来る冥化エレメンタルドッグが反応する。



『待ってました、範囲挑発!』

『メイン盾きた! これで勝つる!』

『やっぱ騎士系上位か、さすがベルク氏』

『普通の挑発と何が違うんですか?』

『簡単に言うと、ターゲット式と無ターゲット式の違い』

『それも騎士系だから広範囲、効率がだんち』

『へえ~、すごお~い』



 レリックスキル≪騎士道精神スピリットオブシヴァルリィ≫――挑発系の中でも、特に誰かを守ることに秀でた者が会得する上位スキル。

 単純な≪挑発≫がより広域へと作用するようになり、さらには自らの防御力も上がって、モンスターの敵対値(ヘイト)を一身に受ける盾役(タンカー)としての最適解。


 今回、ベルクのレリックに組み込まれた≪挑発≫がすでにレベル三を超えていたため、ドロップした大量のシードクリスタルを強化に使用すれば、上位スキルの解放となるレベル五を超えると考えたわけだ。


 効果は見てのとおり。冥化エレメンタルドッグは堰を跳び越えてくるやいなや、一匹残らずまずはベルクへと向かっていく。



「よし! 白兵第一、第二隊、ベルクが引きつけたモンスターを討て!」


「任せておくんなっ!」

「第一は右、第二は左側面へ!」

「ヘイトに気をつけろ! 仕留めるなら一撃でだ!」


「第三、第四隊は馬防柵を丸太の前に再設置、長柄を備え! 斧、斬撃、火属性スキル持ちは左右で待機! 次の相手はマンイーターぞ!」


「全員急げ! ここが正念場だ!」



 俺の指示に、各パーティのリーダーたちも仲間を先導する。



「弓隊、魔法隊の消耗は? 原理の回復はどの程度だ?」


「確認しました。怪我人は二名にとどまっていますが、乱戦でほぼ全員の原理が三割を下回っています。もはや統制している余裕はありません」



 先だって確認して答えたのはアエカ。



反転行進射撃(カウンターマーチ)はもう無理か……。弓隊は弓本隊と合流、魔法隊はA班のみ各自射撃、ほかは休んで原理の回復に務めよ。交代制とする」


「交代制でも厳しそうですね」


「人数が人数だ、仕方あるまい。その分は白兵隊の消耗を押さえたからな」



 とはいえ、乱戦で予定していたよりも消耗してしまったけど……。



「変態ども……いや、我が愛する民よ」


『え、俺たち?』

『変態って俺らだろ?』

『ニオさまに愛されてる!?』

『デレが来た!?』


「余が(まこと)の窮地に陥ったとき、そなたらは助けてくれるか?」


『なに言ってんの、当然じゃん』

『ニオさまを助けずして何がユグ民だよ』

『どうした? さすがにきついか?』

『助けに行きたい、いますぐ』

『でも無理なんだよな。応援しか』


「たびたび情けない姿を見せてしもうても、慕ってくれるか」


『むしろそれがいいんだよなあ』

『体を張っての販促が楽しみだよな』

『情けないというか、ごちそうさまですというか』

『守ってあげたくなるよね~』

『ついていきたくもなる~』


「そなたら、余は嬉しく思うぞ。ははっ」


『ワラッタアアアアッ!!』

『やっべ惚れた。いや惚れ直した』

『笑いかけてくれたのはじめてじゃね』

『やだ、尊すぎて憤死する~』

『もう心残りはない……』


「いや、なに……。これから、そなたらの増援を受けられぬまま、事態はますます苛烈となってゆくであろう。このような状況で弱気になったわけではない。ただ、見守ってくれる者がいるのであれば、心置きなく征けるというもの」


『え、逝くな?』

『ニオさま、何を?』

『ニオさまって死んだらどうなる?』

『NPC扱いだとしたら……』

『メインキャラが死ぬわけ……』


「いや心配せずともよい。これは、そなたらを頼りにするという話ぞ」


『ん?』

『どういうこと?』

『ニオさま、自爆特攻とかしないよね?』

『ニオさまがいなくなるのはいやだ』

『無事に帰ってきて~』


「ニオさま、スタンピード第三陣が到達します!」


「まあしばらくはそこで見ておれ、変態ども!」


『ニオさま!?』

『見てるしかないけどさ!』

『まじ気をつけて!』

『ベルク氏、ニオさまを守って!』

『アエカさまも、目を離さないで!』

『何をしでかすつもりだー!』

『あー、不安がすぎる!』



 ひとときの視聴者たちとのやり取りから顔を上げると、堰の三又通路へと進入したマンイーターが目に入った。


 全長は大きいもので五メートルはあるか。鎌首をもたげているため伸ばせばもっと高くなるだろうけど、それよりも足の役割を果たしている何本もの根が、泥沼の中でも安定性を保ってしまっている。


 すぐさま弓隊から放たれる矢でハチの巣にされるも、そもそもの痛覚がないのか、行動停止に追い込むにはまるでいたらなかった。



「ベルク、火属性を付与し思う存分にやるがよい!」


「おおっ! このベルク、しかと仰せつかった! ≪騎士道精神スピリットオブシヴァルリィ≫!!」



 ベルクの挑発スキル行使により、続々と三又通路を通り抜けてくるマンイーターの補虫葉が一斉に彼の方へと向く。



「白兵第一、第二隊、斬撃と火属性の弱点を突け! 容赦はいらぬ!」


「こいつらは闇犬より与しやすいぞ! 全員かかれぇっ!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」



 三又通路を通り抜けた三体に、探索者たちが一斉に襲いかかった。


 進路を塞ぐのは、盾を構える重戦士隊と中央のベルク。


 彼らのうしろには、現状の最終防衛ラインとなっている道を塞ぐ丸太と馬防柵、後詰めの白兵第三、第四隊、弓隊、魔法隊が待ち構える。


 冥化エレメンタルドッグのように、機動力で内に入られなければ万全の態勢ではあるけど……問題はやはり、少人数で大群を相手にする消耗だ。


 タイムカウントは……残り二時間十四分……。

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