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第百十一話 防御陣地、早くも……!?

「あうぅんっ! やめっ、舐めないでぇっ!!」


『キターーーーーーーーッ!!』

『絶対に期待を裏切らないニオさま!!』

『この時を待ってました!!』

『いいぞわんころもっとやれ!!』

『この状況でなんでだよw』



 本当になんでなのか、こっちが訊きたい!


 初動は上手くいっていたものの、程なくして俺は冥化エレメンタルドッグ三匹に押し倒されてしまった。

 二匹に顔と首を舐めまわされ、スカートに鼻先を突っ込むもう一匹を押さえるので手一杯で、防衛戦の指揮を執るどころではない。



「ニオさま! 邪魔をっするなぁっ!!」


「ニオ姫さま! ただちにお助けいたす!!」



 アエカとベルクが助けてくれようとするも、ふたりも冥化エレメンタルドッグに絡まれて近づくことさえできないでいる。


 そもそも、なんでこんな状態になってしまったのか――。


 理由は、単純に冥化エレメンタルドッグの数が多すぎたせいだ。


 反転行進射撃(カウンターマーチ)を三巡するまでは迎撃できていて、原理を回復させるために白兵戦へと切り替えたあとが問題だった。

 次々と押し寄せる冥化エレメンタルドッグは、仲間を足場に、時に通路の壁を足蹴に泥沼を越え、留まることなく押し寄せてきたんだ。


 もちろん、こちらも馬防柵を円状に配した包囲陣で迎え撃ったものの、この黒い犬っころのジャンプ力はあらゆる障害物をものともしなかった。

 結果、身長三メートルはあるベルクでさえ頭上を跳び越えられて陣内に侵入され、敵味方が入り乱れる乱戦となってしまったのが少し前。


 乱戦となれば俺は特大剣を振り回せず、ひとり前へ出ようとしたところで三匹に押し倒された、というのが事の顛末だ。



「わうっ、わふっ、ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


「おっ、おまえらっ、なぜ余だけ舐めるっ!? やめっろっ!!」


「わおーーーーんっ! ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」


「んああああぁぁああぁぁぁぁぁぁんっ!!」


『まじなんでだろうな?』

『ほかは噛みつかれてるけども……』

『どう猛な闇犬がニオさまの前ではただの犬』

『あの一匹、スカートの中に潜り込んでどうする気ですかね……』

『そりゃ、決まってるだろ……』


「あぁんっ! そこはダメッ! なんで余ばっかりっ!」


『ニオさまだからとしか……』

『いやでも、さすがに喜んではいられない』

『とはいえ僕らは介入できませんし』

『ここまで乱戦になったら仕切り直すしか……』

『つか、NPCはリスポンできないぞ?』

『あ、そっか。死んだら終わりってやばい状況じゃん』

『だから、ここで喜ぶ奴は正真正銘のサイコパス』

『みんな、応援しよ』

『がんばれー!』

『ニオさま、立ってー!』

『アエカさま、ベルク氏、負けんなー!』

『ドラング、娘のために死ぬなー!』

『『『がんばれーっ!!』』』


「ん、ん……んぅっ……。んふぁっ……こいつ……らっ……!」



 コメント欄が応援一色になっても、状況が好転するわけではない。

 だけど俺だって、ここでやられっぱなしでいいとも思っていない。



「くっ、くっ……くそがっ……! これ以上、やらせは……せぬっ!!」



 押し倒された体勢で特大剣を扱えないのなら、腰に装備していたナイフを抜いてまず眼前の一匹の首元へと突き刺した。

 続いて返す動作でもう一匹の目を斬りつけ、相手がのけ反った隙に、股座の一匹にもスカート越しにナイフを容赦なく突き落とす。


 そうして、スカートが破れるのも構わずに体勢を転じて立ち上がり、拾い上げた特大剣で目を傷つけた最後の一匹にとどめを刺した。



「はぁ、はぁ、はぁ……」



 うぇ……またパンツまでぐっちょぐちょ……。


 俺が抜け出たところで、周囲では多くの探索者が一対多数を強いられたままの乱戦が続いていた。

 少なくとも三匹に取り囲まれ、ベルクなんて八匹を相手取り、それでも一歩も引かずに最前衛を守りとおしているんだ。


 状況を確認しているうちに、俺も再び取り囲まれる。


 ただ今回は、闇犬とは別の背中に触れる感触がすぐにやって来た。



「ニオさま、背後は私が」


「ライゼ、≪誘惑幻霧テンプテーションミスト≫はこの状況で……」


「状態異常抵抗値の低い探索者まで木偶の坊になるけれど、それでも構わないのなら……」


「それは……まずいのだが……」



 この状況を覆す、広域に影響するクラウドコントロール(CC)スキルを使えるのはライゼだけ。とはいえ、≪誘惑幻霧テンプテーションミスト≫は対象を選べないとのことで、いま使ってしまえばNPC探索者の幾人かも巻き込んでしまうだろう。


 効果はスキル使用者に対する魅了だけど、事細かにコントロールできるわけでもないため、「木偶の坊になる」とはつまりそういうことだ。


 いまの状況をなんとかするには“使う”、あとに備えるのなら“使えない”。



「ぐぅ……。どうすれば……」



 覆す一手に悩みながら、跳びかかってくる一匹を斬り伏せ、まだまだ三又通路を越えて押し寄せてくる冥化エレメンタルドッグの姿を視認する。


 ここは堰を放棄してでも後退して、まずは態勢を立て直すことが……。



「お座りっ!!!!!」


「キャインッ!?」

「ギャンッ!?」

「ギャワンッ!?」



 次の展開にどうしようもなく悩む、その時だった。


 大気を揺るがすほどの()による波紋が広がり、まさかの言葉どおりに、普通の犬かのように、すべての闇犬が耳を押さえて伏せってしまったのは。


 影響を受けたのは人も同様だけど、我に返った者から目の前で動けなくなった冥化エレメンタルドッグにとどめを刺していく。



「誰の許しを得てニオさまを舐めまわしたのですか……。いえ、誰の許しを得ようと、ニオさまを舐めまわしていいのは美少女と愛らしいペットだけですから、土足でニオさまの柔肌を踏みにじった犬もどきには死すらも生ぬるい……。地獄へと堕ち、一生を詫びてぶつぶつぶつぶつ……」


『ヒェッ……』

『アエカさま、やべえ……』

『いまのスキルじゃないな……』

『単なる威圧でここまで影響が……』

『アエカさまが最強やん……』



 とりあえず、そのやべーひと声(・・・・・・)でどうにか乱戦は収まり、俺はまず唐突な転機となった本人のもとへと駆け寄る。



「アエカ、助かった。もう大丈夫がゆえ、そう思い詰めるでない」


「ニオ……さま……。ごめんなさい……。いつも、いつも……どんなに守ろうとしても、守れなくて……。ふぅ……うぇ……」


『あ、泣いた』

『ニオさまが泣かせた』



 まあ、制止を振り切って突出する俺が悪いけど……。



「いまも、いつだって、アエカは余を守ってくれておるよ……」



 俺は見上げるアエカの頭を胸元に寄せ、髪をやさしく撫でてあげた。



『てぇてぇ……』

『まじてぇてぇ……』

『邪心が洗い流される……』

『ああ~、寿命が延びます~』

『戦場に花咲く百合……』

『あそこに聖堂を建てよう……』

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