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第十二話 一日目の終わりに……。

 なんだかんだあり、城塞に帰ってきた頃には日が傾いていた。

 いや、傾く太陽はないから、実際には疑似太陽が暗くなっているだけ。


 この世界で明るく照らされるのは北半球のみ。


 星霊樹が根を下ろし、星の陰となる南半球は≪(くら)い根の領域≫と呼ばれ、闇と霧に閉ざされた立ち入り禁止の大地となっている。


 この地こそがモンスターの生まれ出る、“星命の枯れ地”。



「皆、これからよろしく頼む」


「かしこまりました。城塞の管理はわたくしめにお任せください」


「おいしいお料理と館内のお掃除はうちが、ご期待くださいねっ♪」


「カッハッハッ! こいつはやり応えのある大仕事だぜ、大将!」


「きょ、恐縮です。親方についていきますです、はい」


「ふむ、これほどに朽ちているとは……。効率よくいきますか……」



 中庭で一列に並んで挨拶を交わしたのは、数時間前に雇った人々だ。


 最初から順に、


 執事兼侍従長を任せる紳士“ロジェスタ”、

 メイドとして料理や掃除を担当する天真爛漫“ティコ”、

 城塞の修復には親方“オレダー”、と職人がふたり、


 の三者三様の五人がひとまず来てくれている。


 当面は、俺とアエカ、あとはムーシカが加わって城塞の修復や管理も行っていくので、いまいる人がよく顔を合わせることになるメンバーだ。



「そうだな、もう夕方だが……オレダーたちは急ぎ余の眠る部屋を見繕い、今晩を凌げる程度に整えてもらえるか」


「そいつは急ぎだぜ、大将! 全員ですぐに取りかかるぞ!」


「あっはい、親方。気の抜けない仕事です、はい」


「では、私が図面を引きましょう。領主さまに相応しき寝室を……」



 本当に三者三様だな、君たち……。


 NPCは生成された疑似生命だというから、とんでもない。



「ティコはまず厨房を使えるように、ロジェスタは皆を統率しながら、城塞の優先的に修復が必要な個所の確認を。問題があれば余かアエカに」


「かしこまりました」


「おいしいご飯は活力の源だからねっ♪」



 そうして、皆は慌ただしく城塞の各所に散らばっていった。


 タスクはこれでいいとして、取り急ぎ燕尾服とメイド服は欲しい……。

 ロジェスタもティコもいまはまだ町民の服だから、いずれはらしく整えよう。



「ふぅ、こんなもんか」


「そうですね。おじさまは、私がいなくてもとんとんと進めてしまうんですから」


「なんか不服そうだな?」


「不服です! 私のいいところを見せられないではないですか!」


「オレもいちおう開発メンバーだから……。いまも充分に助かってる」


「むぅ……。それならいいのですが……」



 アエカは気絶していた間のことを言っているんだろうけど、そういえばチュートリアルを担当すると息巻いていたから、少しへそを曲げてしまったようだ。



「じゃあ、オレ個人の狩りを手伝ってもらえるか?」


「狩りですか?」


「ああ。ステータスの熟練度稼ぎにシードクリスタル掘り、探索をして周辺地図も作りたいし、システムアシストに慣れるためにも体を動かしたいんだ」



 なんだかんだ、今日一日は運営業務の面が強かった。

 それに、この世界に来てむしろ俺のほうこそいいところがない。


 ゴブリンに舐められてばかりの思い出しかないってのは……。



「わかりました。いずれにしても、今日はもう暗くなるので外出は推奨しませんが、明日はおじさまの予定を優先しましょう。当然、お手伝いをします」


「ありがとう。でも、開発作業を優先していいから」


「お心づかいありがとうございます。ですが、あとの細かい調整に必要なタスクはアイリーンに任せているので、よほどのことがない限りは大丈夫です」


「そうか、それならいいんだ」



 “アイリーン”というのは、≪World Reincarnation≫サーバーを統括管理する、オペレーティングシステムのマザー人工知能(AI)だ。


 俺は話したことがないけど、やけに気さくな人格が設定されているらしく、開発チームの中にファンクラブまであるとかなんとか聞いている。


 俺にとっては、現実の体を保護してくれているシステムという訳。



「おじさま、それはそうとお腹はすいていませんか?」


「すいてる。でも厨房が……」


「こんなこともあろうかと、先ほどサンドイッチを作っていました」


「いつの間に!?」


「おじさまが皆さんを並べている時にですね」


「ほんといつの間にだ……」


「とはいえ、いまの時代背景的に簡素なものなのですが」



 アエカは少し残念そうに言うと、インベントリから現物を取り出した。



「はい、おじさま」


「ありがと……う? 黒いパン?」


「干し肉とヤギのチーズを火で炙って、黒パンで挟んだものです」


「あの伝説の!?」



 どの伝説かは置いておいて、渡されたサンドイッチはまだ温かい。



「ふふっ。どうぞ召し上がってください」


「じゃあ遠慮なく、いただきます……。はむ……」



 素直に驚いた。味は簡素なものかと思いきや……黒パンはたしかに硬いけど歯応えがよく、とろりと流れ出る熱いチーズは濃厚で、干し肉にしても噛みしめるほど芳醇なうま味がじゅんわりと口いっぱいに広がり……。


 どう考えても、いまの文明レベルや入手可能な素材からは、これほど良質で多層的な味わいを出すのは不可能なはず……。



「なんだこれ……」


「≪料理≫スキルはレベル10ですから!」


「まさか、ここまでとは……」



 アエカは至極満足げにドヤ顔で胸を張る。



「すごくうまい……。悪い、期待してなかった……」



 というのも、なぜか現実のアエカは料理ができないんだ。


 本人は“神の呪い”とか言っていたけど、料理以外は完璧になんでもこなすだけに、一度は猛特訓をしてもやはりダメで、呪いとやらに納得したっけ……。


 なるほど、≪料理≫レベル10はこのためか……。



「ずっと、おじさまにおいしい手料理を食べさせたかった念願が叶いました。材料が増えればさらにレパートリーも増えるので、期待してくださいね!」


「ああ、楽しみにしてる」


「はい!」



 アエカの、この日一番の笑顔がまぶしく輝いた。


 ≪World Reincarnation≫での一日目が終わる――。

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