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第百八話 無理を押し通し築くもの。

『おお、この短時間でまじか』

『ベルク氏がブルドーザーじゃん』

『なるほどな。突入を制限するってことか』

『火力を集中できるのはいいね』

『死体が霧散するゲームだからこそ』

『問題は耐久性だが……』



 経過三十分ちょうど、道を塞いで横倒しに積み重ねられた丸太の前方、ベルクの指揮でとある構造物が築き上げられた。


 ダンジョン村には未使用の丸太が大量にあったから、退避するまでの間に考えた案。もちろん時間があればだったけど、間に合ったようだ。


 まさに重機となったベルクと、協力してくれたNPC探索者たちのおかげ。



「ニオ姫さま、基礎は整いましたぞ!」


「よくやった、皆も協力に感謝する。事が終われば酒宴でも開こうぞ」


「どこのどなたかは存じ上げないが、期待しますぜ!」

「カッカッ! お嬢ちゃんはわかっておるのう!」

「タダ酒にありつけるとなりゃあ勇んで体を張るわな!」

「なによりも酒場だけは守らねえとってか!」

「はっはっはっ! ちげーねえっ!」



 俺は皆に労いの言葉をかけ、彼らも冗談交じりで返してくれる。

 これからが正念場だというのに、皆すでに仕事を終えたような表情だ。


 こいつは、俺も最後の仕上げに力を込めないと……。



「皆、下がっておれ」



 全員を丸太のうしろに下がらせ、俺だけが構造物の前に進み出る。


 視聴者の懸念のとおり、問題となるのは構造物の耐久性。どんなによくできているようでも、突貫工事では濁流に押し流されるのがオチだから、最後の仕上げにニオ()が締めなければならないんだ。



『原理充填率100%、≪創世の灰≫アクティベーションレディ』



 よしきた……!


 正直、長期戦になるかもしれない状況で、これだけの構造物を長く支え続けられるかはわからないけど、“1200”という超級原理値を遊ばせておくことこそが無駄なら、やってやれないことはない……!


 イメージは“火器陣地(トーチカ)”。いや、あくまで流量をコントロールするためだから“(せき)”か。コンクリートの堅牢さで土石流でさえも流れを押さえる……そんな……。


 イメージしろ……イメージしろ……イメージこそが形を成す……!


 そうして、辺りはまばゆい黄金色の光に包み込まれた。



「ニオさま……! 想像以上です……!」


「おおおっ、なんたる御業……! さすがはニオ姫さま……!」


「なにこれぇ、ニオさますごいぃっ!」


『まじか。俺さっきからまじかしか言ってない』

『考察班がクリエイションスキルの一種と推察してたやつか』

『この規模って、さすがの俺も開いた口が塞がらん』

『現象としては表面の硬化処理ってとこかな?』

『期待とは違うけど、すげーもん見せてもろた。さすニオ』



 視聴者も、背後の探索者たちも、目の前で起きた出来事に驚いている。


 たしかに俺のしたことは硬化処理で、その構造物というのが、三車線の道幅を文字通りに三つの流れへと分断する一種の分流堰だ。


 構造としては、まず斜め前方へと迫り出した壁を道の左右に設け、これによって集中するモンスターを中央の三又通路に誘い込む。

 構造物自体は丸太を立てて並べただけだから、当然そのままではあっさりと破壊されてしまうだろうけど、そこでニオ()が≪創世の灰≫を使って硬化処理することで、絶対的に足りない耐久性を確保する。


 これによってモンスターは勢いをせき止められ、火線が集中する堰出口に自ら飛び込むこととなり、確実に死ぬ。


 もちろん、これだけで済むとは思っていないけど……。



「これはなんつーもんを……だが、お嬢さんは大丈夫なのかい? この規模のスキル行使は、消耗がバカにならないと思うのだが……」



 全高は二十メートル、通路の全長も二十メートル程度の堰を、ドラングが驚いた表情で見上げながら話しかけてきた。



「余を侮るでない、最低でも二時間はもたせるぞ」



 実際、さすがの原理値でも毎秒減少をはじめているけど、同時に回復も行われているのでそのくらいは保つだろう。



「いや、お嬢さんがいてくれて本当に助かった」


「まだ安心するでないぞ、戦に必ずはないのだから」


「もちろん気を引き締めるが……少し光量を落とせないだろうか?」


「え、眩しい?」


「少しな。射線を定めにくいそうだ」


「それはすまなんだ。できるだけ落とそう」



 ≪創世の灰≫でクリエイトした物体は力を込めるほど強固になるけど、その分は強い金光を放つから仕方ない……。


 俺は少し力を緩め、それとともに堰の光量も収まっていく。



「もう大丈夫だ。お嬢さんはうしろに下がって、あとは俺たちが……」


「いや、ここにおるぞ」


「最前衛だぞ? 領主なんてのは、うしろでふんぞり返って手下を顎で使うもんだろう? 討ち死になんてことになれば……」


「なに、余がここにいたほうが皆も力が入るというものだ」



 ドラングは首を傾げるけど、≪皇姫への敬愛≫の効果でニオ()を見た者にはバフがかかるから、こういう切羽詰まったときこそうしろには下がれない。


 まあ正直な気持ちは、本当に命に関わるので下がりたい。



「俺の娘ともそう変わらないくらいで、大したもんだ……」



 中身はドラングともそう変わらない年齢だけど……。

 娘さんか……なおさらこんな所で死なすわけにはいかない……。



「ドラング、それよりも増援はどうなっておる?」


「それなら、現状で八十人は集まっている。少なからず逃げる者もいるなかで、これだけ集まったのはお嬢さんのカリスマ性の賜物だろう」



 見ると、こちらを見て心なしか緩んだ表情をしている探索者たちが、最初よりも数を増やして丸太のうしろで待機していた。


 こんな己の身ひとつしか頼れない防衛戦に、滞在する半数以上が集まってくれているというのは、たしかに僥倖だ。

 ほかにも村の防衛に当たる者、ここ以外の警戒に当たる者もいるから、逃げる者といってもその数がかなり少ないのはわかる。



「世辞はいらぬよ」


「お嬢さんほどの美人には本音さ」


「そうか、面と向かって言われると少し照れくさいな……」


「ニオさま、お話し中のところ申し訳ありません。いま……」


「ああ、見えておる」



 俺は特大剣を大きく振り上げ、いままさにモンスターがあふれ出した“堕ちた星痕”ダンジョンへと切っ先を向ける。


 これは本来の目的を超えたところにある、なし崩し的な防衛戦だ。


 守らなければならない。


 戯れに起こされた騒乱なら、なおさらプレイヤー(俺たち)の手によって。



「皆の者、奇跡を起こせ! 生きて奮戦の証とし、自ら後世へと語り継ぐのだ!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」

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