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第百七話 嵐の前の……。

 ダンジョン村にモンスターの侵攻に対する防壁はない。


 あっても低い石垣が所々にあるだけで、守りとしては不十分。


 ただ村に滞在する八割が探索者のため、俺たちが“堕ちた星痕”ダンジョンから出た時には、村の中心部へと続く道に丸太を積み重ねはじめていた。


 まあ、それですらもモンスタースタンピードに対するには心許ない。



「そなた、ここで指揮を執る者は誰だ?」



 俺たちは急造中の防御陣地へと駆け寄り、作業をするNPC探索者の中で若手に指示を出している戦士風の男に尋ねた。


 男は俺を認めると、まず怪訝そうな表情を浮かべる。



「なんだ? む、来訪者か……」


「わかるのか?」



 “来訪者”、時折“外から訪れし者”などはプレイヤーのことを指す。



「上等な装備となによりそのレリック、ひと目でわかる」


「それもそうか。して、指揮官を探しておるのだが」



 いまも作業を続けるNPC探索者の中では、俺が声をかけた男が特に歴戦の気配をまとっていることから、この者が指揮官ではないかと思っている。


 眼光鋭く、刈り上げられた短髪の魔人種(デミヒューマン)。丁寧に切り揃えられたあごひげには拘りが見え、装備もプレイヤーほどではないけど鉄製の上物。しかも、ニオと同等の特大剣を背負っているのはNPCではなかなかいない。



「指揮官? そんなものはここにいない」


「で、では、スタンピードに対しどう対処をするのだ……?」


「よくても、パーティリーダーが自分のパーティに指示を出すくらいだ。そもそもここでのスタンピード自体がはじめてなんでな」


「なんてことだ……」



 いや、探索者ギルドがない時点で、緊急時の対応が最低限でしかないことは事前に気づいてはいた。

 スタンピードに巻き込まれるとはさすがに思っていなかったけど、そうなってくると場に居合わせた者で対処する程度なんだ。



「ならあんたがやったらどうだ?」


「余が? そなたの一存で決めてもよいのか?」


「あんた、どこぞの領主かその嫡子ってとこだろう? 俺たちの中にまともな戦術を学んだ奴がいない以上は、あんたがやったほうがいい」


「だからといって、昨日今日ここを訪れたばかりの新参に務まるとは……」


「俺の名は“ドラング”、見てのとおりの探索者だ。あんたは?」


「え、いきなり何を……」


「聞かせてくれ」


「余は、“ニオ ニム キルルシュテン”……」


「できれば何者かも教えてくれ」


「ここより南、ユグドウェルの地を治める領主だが……」


「ほらな、俺の目はたしかなんだ。一見すると小娘が、ご大層なお供を背後に控えさせているのはただ者でない証左。それにだ……」


「ニオさま!」


「きさま、何をするか!」



 男、“ドラング”が背に担いだ特大剣を引き抜くと、それまで事のなりゆきを見守っていたアエカとベルクが目前に立ち塞がった。

 だけど、彼は空いた手で二人を制し、特大剣の切っ先を地面に突き刺しただけで敵対する意思はないようだ。



「こいつは俺の相棒“巨人殺し”、重量は五キロある。そして、お嬢さんの剣はこれ以上だから、それだけで探索者は一目を置く。なあ?」



 ドラングが声をかけると、作業を続けながらもこちらを気にしていた探索者たちが、皆してそれぞれの肯定を返してきた。



「そういうものか……」


『実際、特大剣って扱いにくいし』

『先を読んで置いていくのが難しいんよ』

『ニオさまの小柄な体格では余計に難しそうだけど』

『簡単にやってるように見えるよな』

『それで自分でやってみて振り回されると』



 少し納得しかけたけど、どこの馬の骨ともわからない輩にいきなり指揮を任せるのは、またあれ……≪皇姫への敬愛≫の効果だ。


 メリットもデメリットも等価にやってくる、面倒なスキルだよこれ……。



「そんなわけで、お嬢さんに頼めるか?」



 指揮官がいるなら共同戦線を張るつもりでいたけど、皇姫という立場上、なにより視聴者の目もある以上は断る選択肢が用意されていない。



「わかった。そなたらも従うてくれるな?」


「そのつもりだ。バラバラに立ち向かうよりなんぼもいい」


「では早速だが、まずは二人組のチームを四つ作り、ほかのダンジョンすべてを警戒してもらえるか」


「――っ!? ほかでもスタンピードが起こると?」


「被害を増やす要因にはできるだけ先手を打つ。それと、モンスターの先陣が来るまであとどの程度の猶予がある?」


「それなら四十分……いや、三十分程度かと……」


「ふむ、いささか時間が足りないが……。ベルク、先に話していた案を実行する! 陣敷設の指揮を執れ!」


「御意! たしかに仰せつかりましたぞ!」



 俺の指示で、ベルクがすぐさま丸太を運んでいる探索者のもとへと向かう。



「ドラング、そなたには探索者のまとめ役を任せる。斥候を出したあとはこのまま丸太を横に並べて道を塞ぎ、その前にベルクが通路を築く(・・・・・)


「通路……!?」


「ああ、間に合えばいいがな……。いかんせん時間が足りぬ……」



 邪魔が入る可能性もあるし、捕らわれたヒワも心配だ。


 正面のダンジョンに関しては、入口にライゼときわめ、ほかにも数人の探索者が警戒に残っているので動きがあればすぐに連絡が入る。


 入口までの距離は、防御陣地から五百メートル強といったところで、道の幅は割と広く三車線分ほど。左右は森だからまずメインストリートを塞ぐ必要があり、その作業を三十分でやらなければならない。



「探索者の総員はわかるか?」


「昨日の段階で村全体で百五十人ほどだが、ここは三十人程度だ」


「少ないな……」


「先ほど村に人を向かわせたから、多少は増えると思うが……」


「斥候に、村の中央広場で防備を固める人員を最低でも三十人は残すように、と追報を送るよう伝えてくれ」


「了解した」



 各ダンジョンから村の中心部までは最長で五キロほど離れていて、一度戦闘がはじまってしまえば互いに行き来はできないだろう。


 現実に目を向けるのなら、ほかのダンジョンで同様のスタンピードが起こって流動的に対処をするのであれば、ダンジョン村は確実に壊滅する。


 ではどうすればいいのか……答えは時間を稼ぐ(・・・・・)


 逆転の一手が芽吹くまで、ただひたすらに時間を稼ぐだけ。

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