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第百五話 久しぶりの生配信。(3)

 そんなわけでやって参りました。


 ダンジョン村北方に位置する――“堕ちた星痕”ダンジョン。


 配信の挨拶もほどほどに、いわく“斬り裂きわめ(クロースブレイカー)”同行の件はなんとかしたかったけど、アエカに撮れ高を煽られ視聴者の期待に応えないわけにもいかず、結局はそのまま連れていくことになってしまったんだ。


 親切丁寧に視聴者が教えてくれた限りでは、彼女、“戦道きわめ”は一度組み込むと取り外せない呪いのシードクリスタルによって、スキルを使うと自傷してしまうという特性を持っているとのこと。

 それも周りまで巻き込む乱舞型のスキルで、幸いなのか不幸なのか、威力が低いため物理抵抗の低い服ばかりを斬り裂いてしまうらしいんだ。


 そのせいでパーティに入ることもできず、呪いを解く方法を探しにユグドウェルから旅立ったというのが、俺たちが出立する少し前。



『でっか』

『これがダンジョンってま?』

『星霊樹のスケールを考えたらまだ小さいな』

『ちっちゃいニオさまが余計にちっちゃく見える』

『ベルク氏と比較してもニオさまちっちゃ』

『ニオさま等身大抱き枕まだー?』

『絶対に抱き心地いい』

『私的にはニオさまの肌感も再現してほしい』

『それだと実質ニオさま本人』



 ちっちゃいちっちゃい言うな……!


 本筋からすぐに話が逸れていくコメント欄はとりあえず放置しておいて、“堕ちた星痕”ダンジョンは落下した星霊樹の()だった。


 外見は大地に突き刺さった枝。とはいえそもそものスケールが桁違いなため、その大きさは一般的な大樹そのもの、歪んだ塔と言ってもいい。

 直径が一番太い最下部で三百メートル。全体は内部の層が上方向に連なった六階構造で、外に出て枝の上を通ることもあるらしい。



「炭化したかのように黒い」


「闇星霊の影響を受け、黒化してしまったのでしょう」


「燃えると思うか?」


「火には気をつけたほうがいいですね」


「ベルク、そういうことだ」


「御意。火属性付与は自重いたす」



 “落ちた星痕”ダンジョンの入口、俺たちはその裂け目のような場所で内部を確認しているけど、一見して真っ黒な壁はやはり樹皮のようだ。

 入口から覗き込んだ内部は暗く、ランタンを持ち込むのも延焼が怖いとはいえ、ニオの“光焔”と相克の関係にある闇属性は与しやすい。



「明かりは余が。隊列は余とベルクが先頭、続いてアエカ、ツキウミ、ライゼ、きわめの順だ。きわめは指示があるまでスキルを使うでないぞ」


「了解でござる。拙者も余計なことをして切腹はいやでござるので」


「そうしょげるでない。活躍の場はどうにか用意しよう」


「殿! ありがたいでござるー!」


「誰が殿だ。まあよい、今回の目的は攻略ではなくシードクリスタルのドロップ調査だ。皆、あまり無理をするでないぞ」


「はい。エレメンタル系は≪生命探知≫に反応しないので、ニオさまもご自重くださいね」


「心得ましたぞ! このような場のために≪挑発≫を鍛錬し申した!」


「無理はしませんけどぉ、真っ暗なのは怖いですねぇ」


「私は暗視があるから、後列から全体の把握に努めるのね」



 通路の幅はベルクがふたり並んで少し足りないほどで、特大剣に光焔を灯した俺が横に並んでダンジョンを先導する形だ。


 光焔は、熱量をコントロールすればランタン替わりにもなると最近わかったから、使いようによっては目くらましにもなるのではないだろうか。

 まあ目立つというのもあるけど、単純なモンスターが相手なら隣に≪挑発≫でヘイトを稼げるベルクがいるし、特に不安はない。


 ちなみに、ライゼが“大鎌”を装備する闇属性を主体としたデバッファー。きわめが“刀”を装備する腕力剣士なんだけど……そもそも刀の取り扱い参照値が敏捷のため、ぽんこつ評価なのはそのせいかもしれない。


 要するに、デメリットと引き換えに高威力を発揮するのが自傷スキルだから、それを扱えていないとなると育成を間違えているということになる。


 配信中ではなんだし、終わったあとで教えてあげよう……。



「早速お出ましですな、≪挑発≫!」



 誰よりも早くモンスターを視認したベルクが、ターゲットを引きつける。


 俺も遅れて認めた相手は“冥化エレメンタル”。本来は人とも共存している星霊が、瘴気を受けて敵対モンスターと化してしまった存在だ。

 個々が自身の帯びた属性攻撃を使用するとはいえ、プレイヤーの攻撃に対しては物理、属性ともに脆弱であるため脅威ではない。



「アエカ!」


「はい!」



 俺が指示を出すのと同時に、三角跳びの要領でベルクの頭上を越えたアエカが、あっという間に接近して闇星霊二体を討伐してしまった。



『アエカさまやば』

『一瞬、天井を走らなかった……?」

『フルダイブでも普通あんな動きできんて……』

『どんな運動神経だよ』

『見えた、黒だった』

『!?』

『!?!!?』

『動体視力どうなってるんw』

『スロー再生でも見えないが!?』

『それよりも、ガーターベルトだった?』

『『『それ気になる』』』



 ……まーたすぐに話が逸れるコメント欄は置いておこう。



「このくらいの相手であれば、私だけでも十分ですね」


「言うではないか、実際に見せられては頷くよりないが」


「うむ。アエカ殿の動きは尋常でなく、感服するよりない」


「ところで、早速シードクリスタルがドロップしましたよ」


「む!?」


『まじ?』

『いきなりとは』

『いいな。闇属性って結構レアだよね』

『ああ、市場価値は常に上位だな』

『とりあえず鑑定してもろて』



 視聴者に急かされ、早速ドロップしたシードクリスタルを鑑定したものの、いきなり出たというだけでは期待するものにはほど遠かった。



「鑑定したら≪鑑定≫種石だったのだが」


『www』

『草』

『そういうこともあるw』

『でも幸先はいいな』

『期待できそう』

『別の意味でも期待してます』

『ニオさまに動いてほしい(変な意味でなく)』

『俺は変な意味でも動いてほしいが』

『変な意味とは』

『言わせんな恥ずかしい』



 こいつら、その恥ずかしいことをニオ()に強いるというのか……!


 まあ、賑やかすにはちょうどよかったとはいえ、配信やシードクリスタルにばかり気を取られるわけにはいかないというのもたしか。


 ダンジョンへと入り、わずか十数メートル先の曲がり角にたどり着いた段階で、アエカの≪生命探知≫が入口に生命反応を捉えた。

 とはいえ、一階はまだNPC探索者の出入りも多く一概に追撃者とは断定もできないけど、確たる証拠があるのであればヒワからも連絡が入る。


 下手をすれば人前で明るみになる以上、“ニオラブ”はどう動くのか……。

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