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第百話 監禁、拘束、緊縛!?

「どうした!?」



 見ると、ツキウミがツタに足を絡めとられて逆さ吊りにされていた。


 彼も、ヒワの方針でローブの下はスカートだから、宙吊りにされながらも必死に裾を押さえている様はなんともそそる。


 むしろ俺よりも女の子らし……いや、そんなことより……!



「ツタが……動いている……!?」



 ツタというか、自由意志でうねうねと動く様はもはや触手だ。



「あ、あれは……“スクーグスロー”です!」


「なっ、何それ!?」


「えと、“森の樹精”、モンスターです!」


「なんだって……!?」



 アエカの視線はツキウミでなく祭壇を向いている。


 その先には祭壇に腰を下ろした全裸の女性。少し前まで像だと思っていた人型が、艶めかしい人そのままの姿で動き出していたんだ。

 種族名が“スクーグスロー”か。長い髪で裸身を隠した女性という以外は、背中から生えた木の枝とツタが唯一の人でないと判別できる部位。


 とにかく目のやり場に困るから、取るものもとりあえず服を着せてやりたい。



「いやぁんっ! 助けてぇっ!」


「くっ、ツキウミ!?」



 俺は十メートルとない距離をひとっ飛びで詰め、特大剣を振るってツキウミを拘束しているツタを斬った。



「あうぅっ! いったぁ……」



 そのまま落下した彼を受け止めたのは、同様に詰めていたベルク。



「ニオ姫さま!」


「ああ、どうやら我らは奴の縄張りに踏み込んでしまったらしい」


「なんとけしからん姿か。ニオ姫さま、それがしの体躯であればツタに絡まれようと微動だにしませぬ。背後にお隠れなされよ」


「助かるが……。堂内のツタがすべて奴の物だとするならば……」


「ぬぅぅっ!?」



 全周を取り囲まれているも同然だ……。



「ア……アゥイ……アイ、愛シテル」


「言葉を話すだと……!?」



 発音は少しぎこちないけど、たおやかな仕草で突然そんなことを告げたのは対峙するモンスター、当のスクーグスローだ。



「アエカ、あいつの特性はなんだ!?」


「あれは、愛を求めて男を誘惑するモンスターです」


「……っ!?」


「彼女は、あのモンスターは必ずしも悪とは言いきれませんが……別名、“男をダメにする森の淑女”……」


「ほぇっ!?」


「おじ……ニオさまを誘惑させるわけにはいきません……!」


「よ、余は女だから、ゆゆ誘惑なんてされないのだっ!?」



 ……うぐぅっ! まさか、自らの口で自分自身を女性だと告げることになるだなんて、唐突に変なメンタルダメージが入ってしまった。



「いえ、あれはなにより“勇ましい気質(男魂)”に反応しますから、たとえ外見が女性であろうとその心根のカタチこそが誘引されてしまうのです」



 待って、それだと真っ先に捕まったツキウミのほうが、俺よりも心根が勇ましいということになるんですが……。


 え、俺って自分で思うよりも女々しいってこと……?

 それとも、ニオの姿に引っ張られて心までも女の子に……?


 どちらにしても最悪だ……!?



「り、理解はした……。なんにせよ、討伐するか退路を無理やり切り開くか、選択の余地はあまりない……」


「ぬぅっ!? 出口を塞がれたとは、いつの間に……!?」



 礼拝堂内の壁から天井までを縦横無尽に這いまわるツタは、俺たちがスクーグスロー本体に注意を向けている間に出口を塞いでしまった。


 ツタそのものの耐久はそれほどでもないけど、物量がある以上はよほど強引に突破しないと、時間だけを無駄に消耗してしまうだろう。

 あとは、ニオの攻撃力で強引に地下を崩す手段もあるとはいえ、奴の背後、抜けた天井から脱出するのが手っ取り早い。


 俺は、人語を介すスクーグスローに悟られないよう、行き先(・・・)を目配せで皆にも伝える。



「わかりました、押し通りましょう」


「我が騎魂、女子(おなご)の誘惑ごときに奮いはせぬ!」


「見る目はあるみたいだけどぉ、結局はモンスターですよねぇ」



 徐々に狭まるツタの壁に囲まれ、俺たちは臨戦態勢を取る。


 ただ、問題は目配せが通じないライゼBOTを上手く誘導できるか。

 彼女が帰ってきたら死に戻っていた、なんて信頼に関わってしまう。



「ライゼ、接近するツタはすべて斬り刻め」


「(こくり)」



 できれば、タイミングよく帰ってきて……。



「よし、突貫うっ!?」



 だけど、タイミングを見計らっていたのは相手のほうか。


 俺たちが動き出そうとした瞬間、床に敷き詰められたタイルを持ち上げて、これまで存在を把握していなかったツタが襲いかかってきたんだ。


 反撃をする猶予もなく全身を絡めとられ、ひとり残らず拘束されてしまう。



「そんな、床下から……!?」


「ぐぅ……。これは、ちぎれぬ……!?」


「いやぁっ! スカート引っ張らないでぇっ!」



 しかもこのツタ、斬る分にはたやすく斬れたけど、引っ張るだけではそう簡単に引きちぎれない強靭さがあるようだ。



「くそっ……」


「愛シテ……ワタシヲ、愛シテ……」



 スクーグスローは祭壇を下り、緩やかな動きで歩み寄ってくる。


 そもそもが迂闊すぎた。事前にアエカに≪生命探知≫を使わせたけど、反応がなかったからとモンスターはいないと断定してしまったのは失敗だ。



「あっ!?」



 そうして、俺はスクーグスローの目の前で逆さ吊りにされた。



「そ、そなた、人の言葉がわかるのであれば、話し合いをせぬか? 我らを無事に地上へと帰せば、そなたの要求を聞こう。どう……ひぅんっ!?」



 平和的な申し出もむなしく、眼前で目のやり場に困る裸身の女性は、まさかの俺のスカートの中にツタを這わせてきた。



「……ナイ。ナイ、ナイ……コレホドノ豊潤ナ魂ナノニ、ナイ……?」


「んっ……あっ……あっ……んぅぅ……。あぅ……くっ……」



 ないないって、俺の股間をツタでまさぐりながら、そりゃいまは女の子の体になってしまっているから、ないに決まっている。



「ニオさまを……離せぇ……!!」


「ぐぅぅ……。ニオ姫さま、ご無体な……!」


「や、やぁ……ボクまでぇっ!? 離してぇっ!」


「んぅぅ……。余は、そなたの求める男では……あっ……」


「ナイ……ナイ……騙シタ……? ワタシヲ……騙シタ……?」


「騙してなぞおらぬ……! そなたが勝手に勘違い……んはっ!」



 スクーグスローの表情が歪むほどに、拘束もよりいっそう強くなる。


 ツタが肌に食い込み、ちぎれてしまうのではと思うほどに痛い。


 どうにか……まずはこの状況から抜け出さないと……。

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