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第九十八話 情報は向こうからやって来る。

「はろはろぉ♪ ヒワだよぉ♪」


「キャーーーーーーーーーーーーッ!?!!?」



 草原を北上し、森に入り、人目を忍んで行動しているときだった。


 突然ヒワが目の前に、それも枝に逆さ吊りで現れたんだ。


 思わず女の子みたいな悲鳴を上げてしまったけど、街道からも遠く離れた森の中で、藪をかき分け道なき道を進んでいるところで急に人が現れれば、誰だってそのくらいは驚いてしまうだろう?


 さらにヒワが恐ろしいのは、どこを進むかもわからない深い森の中に潜み、こちらが完全に真下を通るルートを見極めていたこと。


 なに、ヒワは諜報機関にでも務めているエージェントか何かなの?



「ヒワちゃんやっほぉ」


「ツキちゃん元気ぃ? ってさっき会ったばかりだけどぉ」


「あーいっ!」


「幽霊ちゃんまで一緒なんですか!?」



 驚きのあまり尻もちをついてしまった俺のそばで、ヒワはツキウミと、幽霊ちゃんはアエカとたわむれはじめる。



「ニオ姫さま、ささ、お手を」


「あ、ああ……。ありがとう……」



 そうして呆けているうちに助け起こしてくれたのは、ベルクだ。



「そんなに驚きましたぁ? 特に気配を消したりはしてないんですけどぉ」


「まったく姿が見えなかったのだが……」


「あっ、ニオさまちっちゃいですもんねぇ、上方は視界に入らないかぁ」


「うぐっ!? そっ、そんなことよりも、なぜ我らの居場所が……」


「変なことを訊きますねぇ? ツキちゃんのお姉ちゃんとしてぇ、話は聞いてますしモニタリングもしてますよぉ?」


「えへへ、ヒワちゃんって意外と過保護なのでぇ……つい」



 ツキウミィィィィッ!? おまえが間者かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


 だけど、彼の困ったようにはにかむ表情はかわいい……くっ……。



「ぐんぬぬ……。ま、まあよい……そなたがこんな所まで追いかけてきたということは、相当に価値のある情報を持ってきたということであろう……?」


「察しがいいですねぇ。そういうところは感心しますぅ」



 いや、それしか考えられないし。ユグドウェルから離れてまで持ってくる情報なんて、ニオ()に相当な恩を売ることのできるネタだと判断できる。


 ヒワはお金よりも現物を求めるから、今度は爵位とかか……!?



「仕方ない、昼には少し早いが休憩にしよう」


「それならぁ、ここから三十分ほど進んだ場所にちょうどいい空き地があるのでぇ、そこまで移動しませんかぁ?」


「まったく、そなたは用意がよいのだな」


「くふふぅ♪ 情報屋ですからぁ♪」



 情報屋ってそういうもんだっけ……。


 なんにしても、俺たちはヒワの案内でまず空き地を目指した。





 ***





 森の中にありながら木々のない開かれた空間は、ヒワが言う空き地というよりは、どこからどう見ても人為的に造られた建造物だった。


 これは……してやられた気がする……。


 俺たちは、いったいどこから誘導されていたのか……。



「こんな場所に遺構とは、地図には描かれていませんね」


「開拓組はまず街道を進むという。森の奥は手つかずでありましょうな」


「なるほど、ここは我らが目指していた湖に近い南側に位置するのか」


「ヒワが見つけたのは偶然ですけどぉ、いちおう教えておこうと思ってぇ」



 本当かな……? なんか白々しいんだよな……。


 ちなみに、中の人がログアウトしているライゼはいまBOTだ。


 俺たちは、遺構の散在する瓦礫や石柱に腰を下ろして干し肉をかじっているけど、本来ならさらに北の湖まで進んで野営をするつもりでいた。

 あわよくば魚を釣って夕食は塩焼きにしようとも話をしていたのに、こんな所で遺構を見つけてしまっては素通りするわけにもいかない。


 遺構は旧王国時代の寺院だろうか。建物の半分が崩れ天井も落ちてしまっているけど、かなりこじんまりしたアンコールワットといった趣だ。



「して、話を聞こうか」



 時系列から考えて、ヒワの情報がこの寺院でないことはわかる。



「えとぉ、もう周知の話ということはツキちゃんから聞きましたけどぉ、ニオさまに懸けられた懸賞金の話ですねぇ」


「ふむ?」



 “ぜ”と“べ”の盗賊団に遭遇してから、すでに四日が経過している。


 その間、俺たちは事前の打ち合わせどおりに、一般的な街道ルートを大きく迂回した進路を取ったことから、特に変な奴には遭遇していない。

 杞憂だったとも思えるけど、万が一に遭遇するとパンツどころかいろいろと奪われかねないので、皆も納得のうえでの旅路だ。



「本当ならぁ、ニオさまたちが旅立つ前に伝えたかったんですけどぉ、追加調査が必要だったので遅くなりましたぁ」



 なるほど、それで旅立つ時にいなかったのか……。



「その件については、運営にも調査を委ねておるが……」


「それはどうでしょうかぁ? 件のサイトはアンダーウェブにあるのでぇ、一般的な調査だとたどり着けないかもぉ?」


「なん……だと……!?」



 “アンダーウェブ”――要するに検索エンジンなどには登録されない、非常に匿名性の高いサイトに対する総称。

 時に犯罪などにも利用されることから、一般人が知識なくアクセスするとひどい目に遭ってしまうこともあるという、やばい場所だ。



「専用ソフトと暗号キーが必要な会員制で徹底してますからねぇ、ヒワもぉ、知人に専門家がいなければたどり着けなかったくらいですよぉ」


「お、おい……。危ないことには手を出しておらぬよな……?」


「ご心配ありがとうございますぅ。ヒワ自身はノータッチなのでぇ、本当の本当に大丈夫ですよぉ。危ないとしたらNIN……あっと、これは秘密でしたぁ」


「不安しかないのだが……」


「それはともかくとしてぇ、あまり気持ちのいいものではないんですがぁ……サイトの内容について、詳細を伝えてもいいですかぁ?」



 うーん……まあ、だいたいの想像はつく……。

 たぶん、プロトンみたいな連中の巣窟なんだろう……?



「構わぬ、聞かせるがよい……」


「ではではぁ、心して聞いてくださいねぇ……」

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