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第九十七話 どうやら変態ばかりのようです。

 あからさまに嫌な予感を抱えながら、俺たちは旅路へと戻った。


 先ほどの盗賊団は、街道を巡回中のユグドウェル衛兵隊に引き渡し、余罪を追及したあとは本国に移送してしかるべき罰を受けるだろう。


 懸賞金の件については、アエカからアイリーン、アイリーンから運営へと伝えられ、早急に調査が行われるとのこと。

 事が外部の掲示板で行われているため、調査に時間がかかり難航する可能性はあるけど、やめさせる措置は考えてくれるそうだ。


 中の人的にははた迷惑この上ないので、本当にやめてほしい。



「大変なことになってしまいましたね」


「ああ……。懸賞金をかけてでも手に入れたいものかね……」


「私的には絶対にありえません」


「アエカなら賛同しかねないと思うたが、良識は残っておるのだな?」


「おじ……ニオさまは私をどんな目で見ているのですか!? たしかに美少女は大好物ですが、お金なんぞで代替していいものでないことはしかとご理解ください! 美少女の尊きはそのすべてがプライスレスですっ!」


「あっはい、ごめんなさい」



 た、たしかに、アエカに対して同類と見るのはよくなかった。

 彼女なら、もっと直接的に誠実(?)に接してくるのは間違いないから。


 いまもぐいぐいと詰め寄られ、しっかりと手を握られてしまっている。



「しかし、御身が狙われるとなると人混みは危険ですな。いついかなるとき、昨日の商人やいまの盗賊のような輩が襲い来るともしれず、ニオ姫さまの心休まる時が侵害されましょうぞ。至急なんとかせねば」



 先頭を歩くベルクが肩越しにこちらを見て心配してくれるけど、ユグドウェルを離れたいま、常に位置を把握されでもしない限りは大丈夫とは思う。



「私は、まず予定のルートを逸れるべきだと思うのね」


「ボクも同意、エスタにはプレイヤーがたくさんいたからぁ」


「そうですね、ニオさまの動向はすでに把握されていると考えるべきでしょう」


「う……。な、ならば仮に追手、この場合は賞金稼ぎか……その者らの追跡から逃れられるルートはあるか?」


「この見晴らしのいい草原では無理ね。痕跡を消すとしたら、二日ほど北上した場所にある森が最適かしら」


「ふむ……。それまでは警戒をしつつ、このまま行くしかないのだな」


「特に警戒をすべきは野営の時ですが……ニオさまをさらわれた愚を、再び犯すわけにはいきません……」


「あれは相手が悪かった。あのような手練れ(ディー)は早々におらぬだろう」


「では今晩のところは、臨戦態勢の者がふたりと火の番がひとり、計三人でテントを取り囲み夜を明かすというのはいかがであろう」


「それが最適解ですね。ニオさま以外の四人で回しましょう」


「い、いや待て、それではそなたら四人が充分に休めぬのでは……」


「ニオさま、まずはなによりもニオさまの御身が大切なのと、森に入るまでのひと晩だけですから、大丈夫ですよ」


「このパーティで夜目が利くのは私だけ、役に立つわ」


「う、うむむ……わかった……」



 とはいえ、俺以外は延々とログインしていられない。


 現実が土日祝日に入るタイミングで旅へと出たものの、一ヵ月もの長旅となれば、それなりの時間をオートに頼ることとなる。


 そう、≪World Reincarnation≫での長旅は、パーティのうちログインしている者が先導し、ログアウトしている者は自動化して進むのが定石だ。

 要するに、ある程度の指示を受けて自動で移動&戦闘を行うBOTだけど、当然熟練度は稼げないのでパワーレベリングなんかはできない。


 これはあくまでも長旅をする際の措置で、開拓組も交互にログインして休息を最小限にすることで、いまもマップを広げているという。



「とにもかくにも、引き続きルート選別はライゼに任せる。アエカの≪生命探知≫とツキウミの嗅覚にも頼り、接近する者を速やかに発見してくれ」


「はい。ニオさまに不逞の輩は近づけさせません」


「あ、ボクはいま鼻がバカになってるのでぇ、当てにしないでくださいぃ」


「先ほどの盗賊団の臭いか……。ひどかったものな……」


「はいぃ……。大迷惑でしたよぉ……」


「では、ニオさまのいい匂いを嗅いでお鼻直しをしてみては?」



 唐突にそんなことを言い出したのは、もちろんアエカさんです。



「おまえは何を言うておるのだ」


「いえ、お口直しがあるのなら鼻でもと思いまして。スンスン……」


「とか言いながら嗅ぐな!? やーめーーろーーーーっ!」


「クンクン……。ふへぇ、ニオさまってやっぱり甘い蜜の匂いぃ……」


「ツキウミまで!? これでは懸賞金を懸けた者と一緒ではないか!?」


「一緒にしないでください! 私に邪な気持ちはいっさいありません!」


「ボクも鼻を早く直して役に立つためですからぁっ!」


「そうかなーーーーっ!?」



 なんにしても、変態はどこにでもいる。


 そいつらが、ニオのユニークスキル≪皇姫への敬愛≫に当てられ、常識では考えられない行動に出ることはあらかじめ想定をするべきだ。

 最悪、ひとりでもサイコバスな思考の奴がいれば、ニ、ニオの、お、俺の四肢をバラバラにしてでもコレクションにしたいとか、十分にありうるから。


 う、うぐ……ううぅぅぅぅ……。


 いーやーーーーっ! 考えただけでもいーーやーーーーーーっ!!


 と、とりあえずログアウトできない以上は、この世界で逃げ回るしかない。



「ニオ姫さまは大変でありますな……」


「愛されているともいえるのね。表現方法が歪でも」


「よ、よいから行くぞ! いつまでも草原にいては自らの首を絞める!」


「あ、ニオさま、なんなら私が抱っこをしてお守りします!」


「だが断る!」


「そんなぁっ! もっとも安全だと思いますのにっ!」


「もっとも危険だと思うのだが!?」


「見知らぬ輩に触れられるよりいいではないですかっ!」


「余の肌に気安く触れるなぞ、もとより何人たりとて許しはせぬ!」


「むぅぅぅ……。不逞の輩には決して負けませんからぁっ!!」



 そうして、アエカは頬を膨らませて何者かに対抗意識を燃やした。


 なぜ、俺の周りは内にも外にも変態ばかりなんだろうか……。

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