第72話 大当たり
「おやまぁ……こいつはまた、とんでもない大当たりを引き当てたもんだねぇ」
ゼゼコが精錬した死霊術師の剣を手に取り、その目を細めた。
「どんなのが付いたんだ?」
「喜びな。死霊術師専用のスキルだよ」
「死霊術師専用スキル?」
死霊術師の固有スキルと言えば、死霊術と死との親和、それに入れ替わりの三つだ。
クレアの持つ黒曜石の短剣の様に、クラス固有スキルのどれかが武器に付いたという事だろうか?
「死を弄ぶ秘術。死霊術師だけが扱えるスキルさ」
死を弄ぶ秘術。
聞いた事もないスキルだ。
恐らくアップデートで追加された物だろう。
護衛さんからは聞けていないが、あの人だって、何でも知って訳じゃないだろうからな。
「それで、その精錬にはどんな効果があるんだ?」
俺の問いに、ゼゼコがニヤリと笑って左手を突き出す。
金寄越せってか。
ホント良い性格してやがる。
「お得意様へのサービスはどうなったんだよ?」
「さっきので打ち止めさ」
サービス精神が雀の涙過ぎるだろ。
まあいい。
「ほらよ」
その手に金貨を乗せる。
だが何が気に入らないのか、彼女はその太い首を横に振る。
「それじゃぁ足りないねぇ。この情報は、金貨100枚だよ」
「たっか!?」
情報に関しては、今まで1枚で済んで来た。
いやまあそれでも高いけど。
100枚とか、明らかに異常な価格だ。
「この情報は、出来ればあまり教えたくない物だからねぇ」
「教えたくない?」
「こっちの商売に関わる事だからねぇ。それで?買うのかい?買わないのかい?」
金は余裕を持って用意して来た――ドラゴン周回でドロップした魔剣等を売り払った――ので、ない事はない。
だがいくら何でも、100枚はボッタクリすぎだろう。
とは言え、交渉しても絶対下がらないだろうし。
「……まあしょうがないか」
武器に付いた大当たりの効果を、スルーは出来ないからな。
俺は予備の革袋から金貨を取り出して、突き出されている巨大な掌の上にしぶしぶ置く。
「毎度あり」
「それで?どんなスキルなんだ?」
「百聞は一見にしかずさ。あんた自身が直接確かめな」
「ん?どういう事だ」
「武器に宿る力の見方を教えようってのさ。手に取りな」
どうやら、精錬の確認の仕方自体を教えてくれる様だ。
ゼゼコに死霊術師の剣を手に取る様に言われたので、俺はその言葉に従う。
「武器に魔力を流し込みな。その時一緒に、魂も流し込むんだよ」
「魂を流し込む?そんな真似できねーぞ」
「別に難しい事じゃないさ。武器に自分自身を流し込むイメージでやって見ればいい。それで出来るはずだよ」
「ほんとかよ……」
取り敢えず、試してみる。
手にした剣に魔力と、そして自分自身を送り込むイメージを――
「お!」
剣と自分が繋がる感覚。
その瞬間、武器に秘められた力の情報が俺に流れ込んで来る。
「出来たみたいだねぇ」
「成程……商売に関わるから教えたくない訳だ」
「最悪、商売敵になりかねないからねぇ。100枚でも安いぐらいだよ」
死を弄ぶ秘術とは、死のエネルギーを使ってアイテムや装備を製作するスキルだ。
そのラインナップは、ゼゼコの錬金工房と大幅にかぶっていた。
そりゃ嫌がる筈だ。
自作できる様になってしまったら、大金払ってゼゼコには依頼しないからな。