~領主の章~ (男の子視点)
なんて無力なのだろうか。
内政の改革をし、町をより住みやすくした。
領土をより強固にする為の外交も行った。
自分で言うのもなんだが、よくやったと思っている。
それなのに、目の前で起きている事について対処できる気がしない。
人や物の出入りが盛んな、活気の良い町があった。
近くには山があり、町から出てすぐの所で4人の男達がいた。
馬車に3人乗っており、それを見送るように1人馬車の傍で立っていた。
「それでは、本日の夕方までに屋敷へお願いします。」
紳士な装いの男が、馬車に乗っている3人の男達に話している。
「、、、わかっている。」
3人の内の一人が答え、山に向かって馬車を走らせた。
紳士な装いの男は、馬車が山へ向かったことを確認し、町に向かって歩き出した。
町の繁華街を抜け、しばらく歩くと高い塀と立派な門構えのある屋敷に着いた。
ギギギと音を立てながら門を開け、男は屋敷に入って行った。
屋敷の一室に、地面に座り込み本を広げ黙々と読書をしている少年がいた。
色白で、きれいな長髪の少年は、本を読みながら紙をクシャクシャにしている。
「違うなあ、違うなあ」
ぶつぶつと独り言を言っている。
突然「はっ!」と閃いたような表情をし、本を両腕で抱えながら立ち上がった。
部屋の扉を開け、長く続く廊下を小走りで進む。
「はっはっ」とリズムよく息継ぎしながら、ある部屋の前まで行く。
部屋の扉を勢いよく開け、
「ウンス!」
部屋の中に声が響き渡り、椅子に座っている二人が振り向いた。
紳士な装いの男が椅子から立ち上がり、心配そうな表情でヤオと呼ばれた少年に近づいた。
「ヤオ様、そんなに大きな声を出していかがなさいましたか?」
「あ、いや、、その、、、」
ヤオは椅子に座っているもう一人の男に目をやり、口籠もらせる。
「ヤオ。私たちは重要な話をしている。急な用でないならば後にしなさい。」
「、、、はい。お父様。」
相当苛立っているのか、眉間にしわを寄せた顔つきでにらまれ、ヤオは萎縮してしまった。
「ヤオ様、申し訳ありません。旦那様とお話がありますので、
のちほどお部屋にお伺いいたします。」
ウンスと呼ばれた男は、そう言ってヤオを部屋の外に出し、そっと扉を閉じた。
扉の向こうからは微かに二人の話声が聞こえてくる。
部屋の外で一人になったヤオは、とぼとぼと自分の部屋に戻った。
部屋の中に入り、地面に本を広げて座り込む。
本をペラペラとめくり、近くに置いてあった茶色の紙を手に取る。
『折り紙でつくろう:ねこ編』
本に書いてある手順通りに、紙を折っていく。
「うん、よしっ!」と満足げな独り言をつぶやきながら紙を折っている。
本当に手順を見ているのか、折っていくにつれ紙の形が見本から離れていく。
最後の手順を終え、満足そうな顔で自分の手元を見る。
クシャクシャに丸められた紙に、耳の様なとんがりと尻尾の様なとんがりが付けられていた。
満足気に浸っていると、扉を叩く音がした。
ガチャリと扉が開き、ウンスが部屋に入ってきた。
ウンスを見るなり、ヤオは完成した「ねこ」を手にもって駆け寄った。
「みてみて!今ね、ねこ折った!!どう?」
手に持ったそれをウンスに見せる。
「ほぉ、素晴らしいですね。よく形が捉えられていて、今にも動きそうです。」
「でしょう!」
照れながら体をもじもじさせ、
「もうお父様との話は終わったの?だったら一緒に折り紙やろうよ。」
ヤオは、嬉しそうにウンスに言った。
「申し訳ありませんヤオ様。今から屋敷に来る者をお向かいに行かなければなりませんので、
折り紙はまた今度ご一緒させていただきます。」
「あ、そう、、なんだ。」
「それと、今から来る者に一度ご挨拶していただきます。
後で広間まで来ていただけませんか?」
「え、、それって僕の知らない人?」
「そうですね、初めて会う方です。」
普段屋敷から出ないヤオにとって、人と会うのはとても苦手だった。
先程までの陽気な雰囲気から一変、陰気な雰囲気に変わった。
「、、、あんまり人と会いたくない。ウンスだけで行ってきてよ」
「旦那様からヤオ様も来るようにと言われておりますので、何卒お願いします。」
旦那様という言葉に「ビクッ」と反応し、静かにうなずいた。
それでは後ほど、と言葉を残しウンスは部屋から出て行った。
ウンスが部屋を出てからしばらく、部屋の中を意味もなくうろうろし、時折深呼吸をする。
扉に手をかけ、「行きたくないなあ。」ぼそっと呟きながら部屋を出て広間に向かう。
広間に着くと、
「遅い!!待ちくたびれたぞ!」
突然の父親の大声にビクリとした。
「ご主人様。申し訳ありません。」
ウンスが謝りながら、一人の少女を前に出した。
ヤオは、そろりと移動し父親の背中に隠れるようにした。
覗き込むように顔を出すと、少女と目があった。
ぱっちりとした二重で瞳も大きく、長い髪の毛を後ろで結んで上にあげている。
細身でヤオよりも少し身長が低く、明るい黄色の花柄が付いた四つ身を着ている。
「ヤオ!!」
父親の言葉にまたビクリとし、恐る恐る前に出る。
「ヤオです、、、よろしく。」
目線を合わせないように下を向きながら挨拶をする。
「では、後は頼んだぞ。」
そう言い残し、父親は屋敷の奥へと消えていった。
広間に残されたヤオは改めて少女を見る。
下を向いており、微かに体が震えていた。
「ヤオ様、私はまだこの方と話がありますので、後ほど部屋に行きます。」
軽くうなずき、ヤオは自分の部屋へと戻った。
話かけられなくて良かった。と、ヤオは深く息を吐いた。
ウンスが部屋に来た時に完成した折り紙を見せれるよう、座り込んで本をペラペラとめくる。
『折り紙でつくろう:ウサギ編』
近くにあった紙を手に取り、見本を見ながら紙を折っていく。
黙々と紙を折るが、どうしても見本通りにならず折っては丸めを繰り返す。
新しい紙に手を伸ばそうとした時、扉を叩く音がした。
ヤオはウンスに折り紙を教えてもらおうと扉の方を見る。
ガチャリと扉が開き、ウンスに続いて広間にいた少女が入って来るのが見えた。
素早く顔を本へ戻し、いかにも読書に夢中であるという姿勢を作る。
ヤオは折り紙どころではなくなり、本の一点をただ見つめていた。
「失礼します。ヤオ様、これから従者として屋敷に住むことになったチュンと申します。
今後、身の回りで御用がありましたら彼女をお使いください。」
ウンスが何か言っているが、ヤオは緊張で何を言われているのか頭に入ってこなかった。
「それではチュン。後は任せましたよ。」
そう言い残し、ウンスは部屋を後にした。
部屋の中で二人きりにされ、ますます体が強張ってしまった。
「ヤオ様、、、よ、よろしくお願いします。」
話かけられるも、ヤオは緊張のあまり返事が出来ず、無視することにした。
折り紙の続きをしたいが、チュンの事が気になり集中できなかった。
ちらりと扉の方に視線を向ける。
チュンは扉の前で立っており、部屋をきょろきょろと見ていた。
何故ずっとこの部屋にいるのだろうか。何か言わないといけないのだろうか。
「、、君さ」
「はい」
思わず出てしまった言葉に、即答で返事が返ってきた。
「立ってるの、、疲れない?や、、やることが無い、ならその辺、、で座って、ていぃょ。
、、よ、用があっった、らよぶ、、、から。」
顔を見て話せなかったが、うまく伝える事が出来た。
ヤオは、これで折り紙に集中出来る。と満足感し新しい紙を手に取った。
紙を黙々と手順通りに折っていると、
「折り紙すきなの?」
急にすぐ後ろから声がして、ヤオは「ビクッ!」と反応した。
後ろを振り向くと、本を覗き込んでいるチュンの顔があった。
「びっくりしたぁ。勝手にのぞかないでよ。」
驚きと若干の苛立ちが声に出てしまった。
「あ!ごめんなさい。でも、、、私、折り紙できるよ。」
折り紙できるよ?この難しいウサギが折れるのだろうか。
「、、本当?紙はあるから一回折るところ見せて。」
半信半疑だが、折れるのであれば是非とも教えてほしい。
そんな気持ちもありつつ、目は合わせずチュンに新しい紙を渡した。
チュンはヤオの隣に座り、本に書いてある手順を見ながら紙を折っていく。
みるみるウサギになっていく紙を見て、ヤオは感嘆の声を漏らしながらチュンの手元を見つめる。
チュンは最後の手順を終え、見本通りのウサギをヤオに渡した。
「ウサギだ!!すごいね。本当に折り紙が上手なんだね!」
ランランを目を輝かせているヤオを見て、チュンは微笑みながら、
「お母さんとよく折り紙で遊んでたから。」
と答えたが、なぜか顔が段々と悲し表情に変わっていく。
「え、、え?どうしたの?」
突然泣きそうな顔になるチュンに、ヤオは戸惑ってしまった。
とりあえず何とかしないといけないと思い、
今朝ウンスに見せて褒めてもらった、ねこの折り紙をチュンに渡した。
「なあに?これ」
「ねこの折り紙。ねこは見てると落ち着くから、これあげる」
チュンは手渡された折り紙をじっと見つめ、
「これは折り紙って言わないよ。」と笑いながら言った。
自信作を折り紙ではないと言われたが、なぜか悪い気は起きなかった。
「でも悲しくなくなったでしょ?ねこだから。」
チュンは微笑みながら頷いた。
初対面の人と、緊張せずに会話が出来ている事に気がつき、
「これからよろしく」とチュンの顔を見て言った。
チュンは「はい」とヤオの顔を見て答えた。
それから数年が経ち、ヤオは父親から領主の座を引き継いでいた。
長身痩軀で、領民にやさしく評判も良い。
人と話す機会も増え、内向的な性格もなくなり領主としての業務で毎日忙しなく過ごしていた。
ただ、領民から送り物を貰っては、
「チュン、ちょっといいかな。」
部屋の模様替えをする際には、
「ねえチュン。ここなんだけど」
領主としての仕事以外の困りごとについては、基本的にチュンを訪ねるようになっていた。
そんな二人の姿を見かけた使用人達からは、
デキているのではないか?と噂になる程二人はいつも一緒にいた。
領主の仕事がひと段落しそうな頃、
「あー、疲れた。この仕事が終わったらどっか行きたいな。」
ヤオはどこか気分転換のできる場所がないか、チュンに聞きに行こうか悩んでいた。
そういえば、チュンは屋敷に来てから町の外に出たことが無いのでは?と考えがよぎる。
そうだ、チュンと今度どこかに出かけるのはどうだろうか。ずっと屋敷にいるのも退屈かもしれない。
ヤオはチュンを探しに行くことにした。
屋敷の中で歩いていたチュンを発見し、駆け寄りながら声をかけた。
「今の仕事がひと段落したらどこかに出かけないかい?」
「どこかってどこに?」
当然の回答が返ってきた。
特に行きたいところも思いつかなかったので、
「行きたいところはあるかい?」と質問する。
領主が勝手に屋敷から出るのは問題なのでは?と心配されたが、
問題ないと答ると、チュンは考えるように黙り込んだ。
「、、故郷に行ってみたいです。あ、ダメならダメで良いんですけど、昔住んでいた村が今どうなってるのか気になるなあって思って。」
「よし。じゃあこの仕事が落ち着いたらチュンの故郷に行こう。」
「え?いいのですか?」
チュンは驚いた表情をヤオへ向けた。
「君がこの屋敷に来た時の経緯は知ってるよ。とても悲しかったんだと思う。それでも気になると思える程に故郷は大切だったんだとも思う。ならば、領主として使用人の希望は尊重したいと思うんだ。」
ヤオは照れながらチュンへ言った。
「まぁそれに、チュンが行きたいって言ってるのに嫌だなんで言えないし、、」
「ありがとうございます。」
笑顔になるチュンを見て、ヤオは故郷へ行くのが楽しみになった。
その日は透き通る青空だった。
屋敷の庭に、馬にうまく乗れず苦戦しているチュンと、
馬の背からそれを見て笑っているヤオの姿があった。
「ほら、僕の手をつかんで。」
ヤオはチュンの手をつかみ、引っ張り上げて馬に乗せる。
「ほら乗れた。」
自分と馬の間にチュンを乗せるが、馬が足踏みをする度に振動でふらふらしている。
自分の体にもたれるようにとチュンへ伝え、チュンは照れながらヤオに体を預ける。
馬の近くには、心配そうな表情を浮かべるウンスがいた。
「ヤオ様、お二人だけではどうしても心配ですので護衛を何人か同行させます。」
「もう、いらないって言ったのに。」
「そういう訳にはいきません。」
ウンスの強引さに折れ、ついて来る分には構わない。と伝えてヤオは馬を走らせた。
馬の後ろを追うように、数人の護衛が付いて行った。
山道に入り、両脇には木ばかりが見える。
ヤオは、チュンから故郷の村について聞いた。
同い年の友達がおり、いつも朝の早い時間から遊んでいた事。
友達はいろんな場所に連れて行ってくれた事。
毎日がとても楽しかった事を話してもらった。
話に出た友人がまだ村に住んでいたら、友達になれるだろうか。
少し緊張もするが、故郷の話を楽しそうにするチュンを見ると、気分が和んだ。
「ふふっ。是非とも村に着いたらそのご友人と会ってみたいね。」
チュンは興奮気味に話していることに恥ずかしくなり、顔を赤らめながら下を向いた。
チュンの恥ずかしがる仕草を微笑ましく見ていると、
目の前の草むらから、何かが飛び出してきた。
かなりの速度で近づいて来て、反射的に馬の手綱を引っ張り、馬を止めようとした。
馬の体制が崩れたのか、飛び出してきたものが当たったのか、
馬はヒヒンと声を上げながら地面に倒れ、同時にヤオとチュンも地面へ投げ出された。
ヤオは頭をぐらつかせながらも状態を起こし、何が起きたのか確認する。
怒った表情で、両手で構えた剣を自分に振り下ろそうとしている男が目の前にいた。
~3/4~




