表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/33

第6話 肉ですわ! 肉を食べるのですわ!

 それから、地道なトレーニングをして休日は終わった。また、いつのもの日常が戻って来る。


 午前中の座学を終えて、昼休みの時間になった。


「ジェシカお姉さま! 食堂に参りましょう。お腹がペコペコですわ」


 いつものように、キャシーとロッテが私の元に寄ってくる。私は、立ち上がって目を開いた。


「肉ですわ! 肉を食べますわよ! 行きますわよ。キャシー! ロッテ!」


 プロレスラーたるもの食事もトレーニングのひとつである。強靭な肉体を作るためには、肉をモリモリ食べなくてはならない。できれば、プロテインも欲しいところだが。この世界には存在しないようだ。


 キャシーとロッテを引き連れて教室を出ようとすると、教室の隅でポツンと1人で佇んでいるフローラの姿が目に入った。


 私は、向きを変えてフローラの方にツカツカと歩み寄った。


「フローラさん。そんなところで何をなさっているの? お昼の時間でしてよ?」


「あ、ジェシカ様…… いいんです。私にかまわずどうぞ…… 行ってください」


 私は「ふぅ」と軽いため息をついた。庶民の娘である彼女は、まだこの学園に馴染めずにいた。お昼も1人でこっそり食事をしているようだ。


 少しうつむいているフローラに、私は言った。


「フローラさん! あなたも一緒にいらっしゃい! 肉を食べますわよ! 肉を!」


「えッ!? でも…… 私なんかが一緒だと、みなさんのご迷惑になります」


 そう言うフローラの腕を私は強引に掴んだ。


「遠慮は無用ですわ! 先日、言いましたわよね? わたくしたちは、もう友達ダチだと。さあ、行きますわよ!」


 彼女にウィンクすると、そのまま強引に連れて行ったのである。



 この魔法学園には、食堂が5つほどある。値段や料理の内容が、それぞれ異なっていた。


 私たちが訪れたのは、学園の中で一番高級な食堂だった。貴族の中でもさらに身分の高い者たちが集まる場所である。


 まあ、我がジェルロード家は名門貴族のなので遠慮する必要はない。


 この食堂は、バイキング形式で好きなものを好きなだけ食べられる上に、一流のシェフが作っているから味も良いのだ。


「さあ、肉ですわ! みなさん。肉を食べますわよ!」


「ジェシカお姉さま…… さっきから肉のことばっかり……」


 肉を食べるために張り切る私を見て、キャシーとロッテは少し呆れている様子だった。


「ジェシカお姉さま。私たちが料理を取ってきますので、フローラさんと先に席にかけてお待ちください」


 キャシーが、私に席で待っているように促す。自分で取りに行きたいところだが、まあ仕方ない。ここは彼女たちに任せるとしよう。


「キャシー! よろしくって? 肉をたくさん取ってくるのですよ! 肉を!」


「分かりましたわ。ジェシカお姉さま。それでは……」


 キャシーとロッテは、料理を取るために去って行った。私とフローラは、空いている席に座り彼女たちを待つことにした。


 フローラは、落ち着かない様子でキョロキョロしている。


「あら? ここは居心地が悪いかしら? フローラさん」


「え? え、ええ。ここは名門の貴族の方々が集まる場所。私みたいな身分の者には…… ちょっと」


 まあ、彼女がそう思うのも無理はない。彼女は、名門どころか貴族ですらない。庶民の中でも貧しい農家の娘である。光属性の魔法の才能が無ければ、この学園にいることすらできないのだ。


「気にすることはありませんわ。どんなに身分が高くても所詮は貴族。あなたは、このわたくしを殴り倒したのです。自信を持ちなさい! フローラさん!」


 悪役プロレスラー『ザ・グレート夜叉』の記憶が覚醒した私にとって、身分の高さなど何の価値も無かった。今の私にとって唯一の価値は『強さ』。それも相手に直接、暴力を振るう腕力の強さのみである。


 貴族よりゴリラの方がよっぽど高貴な存在だ。


「ふッ…… ふふふふ」


 私の話を聞いて、フローラはなぜか突然笑い出した。そして、私の目を見る。


「ジェシカ様は、面白いお方ですわ…… ふふふふ」


「フローラさん。そのジェシカ『様』というのは、そろそろやめてくださる? わたくしたちは友達でしょう? 様をつけられては、何だかこそばゆいわ」


「えッ!? じゃ、じゃあ…… ジェシカさん…… とお呼びしてもよろしいのですか?」


 フローラは、少し困った顔になる。私は、にこやかな顔で言った。


「ジェシカと呼び捨てでもよろしくてよ? わたくしもフローラと呼ばせてもらうわ」


「よ、呼び捨ては無理です! それはダメです! ……ジェシカさん」


 心配そうに私の顔を見るフローラに、私は微笑んで答えた。少しの間だが、彼女と話して距離がだいぶ縮まったような気がする。


「ジェシカお姉さま! お待たせしましたわ!」


 ようやくキャシーとロッテが戻って来た。料理が盛りつけられた皿をテーブルに並べだす。しかし、並べられた料理を見て私は眉間にしわを寄せた。


 ドレッシングのかかったサラダ。パンとバター。色とりどりのフルーツ。そして、肝心の肉は…… ローストビーフが数切れ程度である。


 私は、立ち上がって叫ぶ。


「何ですの!? これは! 肉が…… 肉が全然足りませんわ!」


「も、申し訳ありません! ジェシカお姉さま! ……ローストビーフはお嫌いでしたか?」


 ビクッとなって上目遣いで私を見るキャシーとロッテ。私は、数切れローストビーフを指さして言った。


「好きとか嫌いではなく、量の問題ですわ! これしきの量ではまったく足りませんわ!」


 キャシーとロッテは、顔を見合わせて首をひねる。彼女たちにとっては、充分な量を持って来たつもりなのだろう。これだから、お嬢様は!


「もういいですわ! 自分で取りに行きますわ! あなたたちは先に食べていなさい!」


 これ以上、彼女たちに言っても無駄だ。私は、肉を求めて自ら料理を取りに行くことにした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「これはバランスの取れた素敵な食事のようですね!」と自分で考えていました。 それがタンパク質に到達するまで。 ボディービルの食事療法は実際に普通の人々が食べるものとは異なる獣です。 彼女…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ