表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/33

第4話 おもしれえ女…… ですわ!

※ 後半の部分が三人称の別視点に変わります。ご注意ください。

「ちょっと! わたくしたちの神聖なプロレ…… いえ、決闘の邪魔をしないでくださる?」


 突然の乱入者の登場に、私は声を荒げて警告する。


 だが、足元はフラフラとおぼつかない。それを見た生徒会長のキース・エヴィンが口を開く。


「大丈夫か? 君ッ!? 足がフラフラしているし、殴られて血も出ているじゃないか!? ひどい…… 女の子がこんな……」


 キースから向けられる憐れみの視線。


 そう、たった2発のパンチを受けた私の方が、フローラよりもダメージが大きかったのだ。プロレスラーとして情けないことこの上ない。


「よし! すぐに保健室に行こう! よいしょ…… と」


「ちょ、ちょっと!? 何をなさるの!? 離しなさい! 降ろしなさい!」


 生徒会長のキースは、突然私の体を抱き抱えた。いわゆる『お姫様抱っこ』の体勢になる。それを見て周りの女子生徒たちは羨ましそうに「キャーッ!」と声を上げた。


「降ろしなさいってば! この!」


「はははは! 怪我をしているのに元気なお姫様だ。さあ、行くよ!」


 そして、キースは私を抱えて強引に保健室へと連れ去ったのだった。



 30分後――――


「大丈夫ですか? ジェシカお姉さま……」


 保健室のベッドに横たわる私の元に、心配そうな目を向けるキャシーとロッテ。


「見てのとおりでしてよ。ピンピンしていますわ!」


 私は、強がって見せたが。まだ痛みは残っていた。思わぬ邪魔が入って勝負は中断されたが。あのまま続いていたら、今ごろどうなっていたか。


「あ、あの……」


 その時、保健室に誰かが入って来た。キャシーとロッテが驚きと蔑みの声を上げる。


「あ、あなた! 何をしに来たの?」


「よくも! ジェシカお姉さまをこんな目にあわせて!」


 保健室に入って来たのはフローラだ。申し訳なさそうにうつむいている。私は、ベッドから上半身を起こして言った。


「おやめなさい! キャシー! ロッテ! ……ちょっと2人にしてくださる? この子と話があるわ」


「でも…… ジェシカお姉さま……」


 キャシーとロッテは、心配そうな目を私に向けるが、私が強い視線を向けると「分かりましたわ……」と言いながら渋々部屋を出て行った。


 保健室には、私とフローラの2人きりとなり静かな沈黙が訪れた。


「あ、あの…… ごめんなさい……」


 沈黙を破ったのはフローラの方だった。申し訳なさそうにうつむいて言う。私は、いつもの口調で答えた。


「あら? 何を謝る必要があるのかしら?」


「その…… お顔を殴ってしまって……」


「そんなこと謝る必要はなくてよ。そういう勝負だったのですから。しかも挑んだのは、わたくしの方から。あなたには、これっぽっちも非はなくてよ」


 そう、先に決闘を挑んだのは私の方からである。私は、フローラの目を見ながら言った。


「フローラさん…… 今回の勝負。あなたの勝ちでよろしくてよ」


「えッ!? そんな……」


 驚いて顔を上げるフローラ。その時、ようやく目と目が合った。


「あの時、生徒会長が止めに入らなければ…… わたくしが負けていました。だから、この勝負はあなたの勝ちなのよ……」


 フローラに、たった2発殴られただけで私の体はフラフラだった。あのまま3発目を殴られていたら、もはや立っていることもできなかっただろう。


 しかし、勝利を言い渡されたにも関わらずフローラは喜ぶ様子はない。また、うつむいて下を見ている。私は、その様子に少し苛立ちを覚えた。


「フローラさん! あなたは、このわたくしに勝ったのです! 胸を張りなさい! そして、勝利を喜びなさい! それが、勝者の権利でしてよ」


「そんな…… 喜ぶだなんて。私は、ジェシカ様を殴りたくなんてなかった……」


 今にも泣き出しそうなフローラ。私は、彼女の腕をつかんだ。そして、彼女の目を真っすぐに見る。


 目と目が合って、しばしの沈黙。そして、私は「フッ……」と鼻で笑う。


「フローラさん…… あなたのパンチ。効きましたわ。また、勝負いたしましょう! 次は、負けなくてよ!」


「ジェシカ様……」


「同じリングで戦った仲ですもの。リングを降りれば、わたくしたちはもう…… 友達だちですわ! よろしくって?」


 私は、そう言ってフローラにウィンクして見せた。


「わ、私と…… ジェシカ様が…… 友達…… ほ、本当ですか?」


「本当ですわ! プロレスラーは嘘をつきませんのよ!」


 私の言葉を聞いて、フローラは目からポロポロと涙をこぼし始めた。でも、それは悲しみの涙ではない。別の感情から流れる涙であった。



 ☆  ☆  ☆



「こんな所にいらしたのですか? 会長!」


「ああ、エミリア君か…… すまない。ちょっと野暮用でね」


 魔法学園の生徒会長キース・エヴィンは、同じく生徒会の副会長エミリア・エミュレットに声をかえられて立ち止まり振り返った。


「それで、どうなったのですか? その、決闘場を無許可で使用してた生徒たちの件は……?」


 副会長のエミリアが尋ねると、キースは微笑んで答えた。


「ああ。それなら大丈夫…… 無事解決だ。もう終わったよ」


「そうですか。それなら早く生徒会室に戻ってください! 仕事が山積みなんですからね!」


 エミリアは、そう言うと先に歩き出した。キースは、まだ立ち止まったまま。自分が来た保健室の方をチラリと振り向いた。そして、鼻で「フッ……」と笑う。


「ジェシカ・ジェルロードと言ったな…… 面白い女だ……」


 そう言うと、エミリアを追いかけるように歩き始めたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ