第29話 悪役プロレスラー令嬢 VS 女奴隷拳闘士
リングの上でスポットライトを浴びながら歓声に応える。
「ジェシカお姉さまーッ! ファイトーッ!」
キャシーとロッテの応援する声が聞こえた。そして、間を置いて静かになったところで、審判の女生徒が再び大きな声を上げる。
「対戦相手の入場ですッ!」
向こうから両手を拘束された女性が入場してくる。両脇には兵士が一緒に歩いており。まるで、囚人のようだ。そして、リングの上に上がってきた。
大きい。身長は180㎝はあるだろう。ボロボロの粗末な麻の服を着ている。しかし、腕にはしっかりと筋肉がついている。フィジカルだけで言ったら、今まで戦ってきたどの相手より体格が良い。
「青コーナー! 王国一の女性の拳奴。バネッサ・バルバロッサ!」
審判の女生徒が大きな声で名前を呼んだ。拳奴か……
拳奴というのは、奴隷の拳闘士のことだ。市民の娯楽として、奴隷同士を戦わせる見世物が行われている。それに出場する奴隷だ。戦いのプロでもあり、ショービジネスの先駆けでもある。
私の前に、拳奴バネッサ・バルバロッサが立つ。身長差は一目瞭然だ。相手の方が、頭一つ分大きい。
しかし、バネッサは虚ろな目をしている。これから戦うというのに闘志が感じられなかった。
「制限時間は、60分! ルールは武器の使用以外は何でもありのデスマッチです!」
いよいよ、戦いの火蓋が切られようとしていた。その時だった。
「ちょっと待ってくれ! これは、いったいどういうことだ!? 僕は何も聞いてないぞッ!」
突然、1人の男がリングの上に上がってきた。超イケメンの生徒会長キース・エヴィンだ。彼は、私の方へと歩いてくる。なぜか、青ざめた顔をしていた。
「ジェシカさん! これはどういうことだ? こんなイベント、生徒会は聞いてないぞ?」
キースの言葉を聞いて、私は首を傾げた。
「何をおっしゃっているの? このイベントは生徒会が企画してくださったんでしょう?」
「何だって!? 僕は何も聞いてない!」
このイベントは、生徒会副会長のエミリアが企画しているはずだ。それなのに、生徒会長のキースが何も知らされていないとは、どういうことだろう。
「とにかく、すぐに中止にするんだ! こんな危険なイベントは認められない!」
生徒会長のキースが叫んだ。その時だった。
「邪魔だぁーッ! どけぇーッ!」
突然、女拳奴バネッサが吠える。そして、キースを思いっきり突き飛ばした。キースは、リングの外へと転がっていく。
そこで「カァーンッ!」と試合開始のゴングが鳴らされた。
私に向かってバネッサが突っ込んでくる。こうなったら引き下がる訳にはいかない。戦いは始まってしまったのだ。
生徒会長には知らせずにイベントを企画したエミリア。それに、先ほどのフローラを目の前にした時の彼女の態度。何か引っかかるものがある。
だが、今は考えていても仕方ない。目の前の敵に集中しなくては……
突撃してくるバネッサは、あまりにも隙だらけだった。私は、右腕を突き出す。
「ラリアットですわッ!」
右腕をバネッサの胸元に叩きつけた。バチィーンッ!と大きな破裂音がして、相手は大きく後ろへのけぞった。
体格から見て、どんな強敵かと思ったが。思ったより手ごたえが無い。見掛け倒しなのか?
とりあえず、このチャンスを活かさない手はない。私は、大きく空中にジャンプする。そして、高度を保った状態で両足を突き出した。
「ドロップキックですわッ!」
バネッサの顔面に蹴りがヒットする。
「ぐわあああーッ!」
バネッサは、絶叫しながら地面に倒れた。
派手な技が決まったおかげで大きな歓声が上がった。
「キャー! ジェシカ様ーッ! 素敵ーッ!」
「そんなやつ、早くやっつけちゃえーッ!」
会場は、私を応援する声がほとんどだ。相手が奴隷なのもあるだろう。本職が悪役プロレスラーの私にとっては、あまり心地よいとは言えない。
バネッサは、虚ろな目をしたままヨロヨロと立ち上がった。私は、バネッサを指さして言い放った。
「気に入りませんわね。その目…… あなた、本気で戦う気がありまして?」
バネッサは、虚ろな目で私を見ると「ふッ!」と鼻で笑った。
「本気で戦うだと? 何を言うかと思えば…… こっちは、貴族のお嬢様の格闘技ごっこにつき合ってやってるんだ。感謝してもらいたいくらいだね」
「な、何ですってーッ!?」
相手を挑発するつもりが、怒りに火が付いたのはこちらの方だった。助走をつけて駆け寄ると、バネッサの顔面に思いっきり拳を叩きつけた。
バネッサは、避けることもガードすることもせず。顔面で私の拳を受け止めた。ツーッと鼻血が流れ出る。
「どうかしら? これでも格闘技ごっこだとおっしゃるの?」
「そうだな…… じゃあ、ちょっと本気を出してやるよ」
バネッサは、そう言うと同時に素早くボディブローを放つ。そのスピードにガードは間に合わない。私の腹部にバネッサの拳が突き刺さる。
「ご、ごほッ! ですわ!」
たまらずに咳き込んだ。腹部を押さえてうずくまる。熱い痛みがこみ上げてきた。
バネッサは、ゆっくりと歩いて近づいて来る。
「ジェシカ・ジェルロード…… 悪いが、俺はあんたを殺せと命令されている。遊びは終わりだ。ここからは、一方的な殺戮を始めさせてもらうぞ!」
バネッサの方を見上げると、いつの間にか虚ろな目ではなくなっていた。鋭い目つきになっている。その眼光にはっきりと宿っているのは、殺意だった……




