第27話 わたくし! エスコートいたしますわ!
「生徒会が、格闘技の試合を企画するというの? 本気でして?」
私は、驚いた顔で副会長のエミリアを見た。彼女は、頷いて答える。
「もちろん本気です。ただし、ジェシカさんが出場してくださることが前提条件なのですが…… いかがでしょう?」
エミリアは、私の顔色を伺うように覗き込んできた。私にとっては、願ってもいない話だ。胸を張って答える。
「それならOKですわ! このジェシカ・ジェルロード。何時如何なる時もどなたの挑戦でも受けますわ!」
「ありがとうございます! では、さっそく準備に取り掛かりますね」
私の返事を聞いて、エミリアはニコリと笑った。急な話ではあるが、私にとっては良い話だ。毎日、誰かと戦う日のためにトレーニングをしているのだから。しかし、気になることもある。私は、エミリアに尋ねた。
「ひとつ、聞いてもよろしくて?」
「はい。何でしょう?」
「わたくしの試合の相手は、どなたがしていただけるのかしら?」
戦えるなら、別に誰が相手でもかまわないが。誰と戦うのかは、やはり事前に知っておきたい。
エミリアは、ニコニコとした表情で答える。
「ええ。それは、まだ決まっていません。ただ、この学園の女生徒は難しいと思いますので…… 外部の方に依頼しようと思っています」
「そう…… まあ、よろしくてよ。楽しみにしていますわ」
結局、相手が誰かまでは分からないようだ。さすがに、学園の女生徒で私と戦おうという者もいないようだ。まあ、いい。当日の楽しみとしよう。
話が終わるとエミリアは去って行く。
私にとっては、何の興味もない学園主催のパーティーだったが。一気に楽しみができた。
パーティーという観衆が集まる舞台で、格闘技の試合ができるのだ。この世界でのプロレス興行実現に向けて一歩前進したと言っても過言ではない。
私は、ルンルン気分で自室に戻る。
それから、また数日後――――
放課後、運動場でトレーニング前の準備体操をしていた。
数週間後のパーティーで格闘技の試合に出場することもあって、私のモチベーションは高い。いつもより念入りに準備運動をする。
運動場は、私一人が独占していると言ってもいい。他に運動をしている生徒はいないからだ。
この世界では、球技や運動が盛んではないようだ。それより、馬術とか剣技の方が盛んである。この学園でも馬術部は積極的に活動しているようだ。貴族にとって、馬に乗るのはひとつのステータスでもある。
馬術部は、専用の訓練場があるため。この運動場は、ほとんど使われることがなかった。
準備運動を終えて、さっそくトレーニングにとりかかろうと思ったその時だった。
「よお! ジェシカ」
背後から聞き覚えのある声がする。振り向くと、長身でたれ目の男が立っていた。私の婚約者であるクローディス・クロードだ。私は軽くため息をついた。
「はぁ。何の用ですの? クローディス。わたくし、こう見えても忙しいのだけれど」
「そんな邪険にするなよ。ジェシカ。俺は、君の婚約者だぞ?」
クローディスは軽薄そうな笑みを浮かべた。
「話があるんだが…… 今度の学園主催のパーティーのことだ。その…… 当日は、俺にエスコートさせてくれるよな? 婚約者だもんな。当然だろ?」
何の用かと思えば、そんなことをわざわざ聞きに来たようだ。私は、嫌味を込めて返事をする。
「あら? 当日は、他の女の子のエスコートをするのではなくて? 今までそうだったじゃない」
それを聞いて、クローディスは「ぐッ……」と押し黙った。
そう、このクローディスという男は、婚約者である私がいるにも関わらず、他の女の子と平気でデートするような軽薄な男だったのだ。
ただ、私が『ザ・グレート夜叉』としての前世の記憶が覚醒してからは、あまりそういう噂は聞いていない。
クローディスは、軽薄な笑みをやめて真剣な顔つきになった。そして、真っすぐな目で私を見つめて言った。
「確かに、以前の俺は君に対して不誠実な行動を取ってきた。それは、認めるし。謝罪もしよう。すまなかった…… でも信じてくれ。今の俺は、心を入れ替えたんだ。もう他の女性に興味はない。君だけを見るし、大切にする!」
「まあ、口では何とでも言えますわ」
クローディスは本気で言ってようにも聞こえるが。あまり信用はできない。
「このとおりだ! ジェシカ! 今度のパーティーでは、俺に君のエスコートをさせてくれ! 頼むッ!」
クローディスは、頭を深く下げて頼んできた。私は「うーん」と目を閉じて、少し考える。
エスコートか……
この世界でも貴族社会には、レディーファーストという習慣がある。パーティーでは、男性が女性をエスコートをするのが習わしだ。
私は、目を開けるとクローディスに言った。
「残念だけど…… 今回は、その申し出。遠慮させていただきますわ」
「えッ!? どうしてだ? ジェシカ! まさか、他の男にエスコートしてもらうつもりなのか!?」
クローディスは、食い下がるような目で見てくる。こうなると、少し可哀想な気もしてきた。しかし、私には当日しなければならないことがあるのだ。
「違いますわ。当日は、わたくしはある女性をエスコートしなくてはなりませんの。だから、あなたにエスコートしてもらうことはできなくてよ」
「えッ!? 君が…… 女性を…… エスコートするのか……?」
「そうですわ」
クローディスは、ハトが豆鉄砲を喰らったかのようにポカーンとした顔をしている。まあ、驚くのも無理はないだろう。
私は、パーティー当日とある女性をエスコートすることを心に決めていたのだ。彼女にとっては、初めての社交界デビューと言ってもいい。大事な日なのである。




