第26話 漆黒の堕天使! ですわ!
「あ、あの…… どうでしょうか?」
試着室から出てきたフローラに、私は目を奪われた。黒いドレス姿のフローラは、想像以上だった。
「ま、マーヴェラスッ! ですわ! 黒は女を引き立てると言いますけど。フローラの魅力を完全に引き出していますわ! まるで、そう。地上に舞い降りた堕天使のようですわ! 格好良いですわ! 渋いですわ! 素敵ですわ! ゲロ渋いですわ!」
私は、興奮して語彙力の限りを尽くしてフローラを褒め称える。だが、背後からはキャシーとロッテの冷めた声が聞こえた。
「……パーティーに堕天使というコンセプトは、いかがなものでしょうか?」
「……格好良いとか渋いより、可愛らしさを追求した方が良いのでは?」
私は、振り返ると彼女たちを一喝した。
「お黙りなさいッ! あなたたちには、このドレスの良さが分からなくて? 黒は女を強く見せますわ! そう! まるで昆虫の王者カブトムシのように! それに、この羽根飾り。美しさも兼ね備えていてよ! まさに、ファッキン・クール! ですわ!」
「……カブトムシ」
キャシーとロッテは、まだ納得いかない様子だったが。ドレスを着たフローラは、目を輝かせて言った。
「わ、私もこのドレスが気に入りました! このドレスが欲しいです!」
それを聞いて、キャシーとロッテは「えッ!?」と驚いた顔をする。そして、すぐにフローラに詰め寄った。
「フローラさん! 考え直した方がいいわ!」
「そうよ! まだ1軒目のお店ですもの。他に、きっと素敵なドレスが見つかるはずよ!」
しかし、フローラは首を横に振って答える。
「いいえ。私、このドレスがいいんです。……だって、ジェシカさんが私のために選んでくれた服ですもの」
「フローラさん……」
もう止めることはできないとキャシーとロッテは悟ったようだ。私は、胸を張って前に出る。
「決まりですわね! さっそく仕立てていただきましょう! スタッフ―! スタッフゥゥゥー!」
大きな声で店の従業員を呼ぶ。すると、すぐに若い女性の従業員が駆けつけてきた。私は、従業員に指示をする。
「このドレスを彼女のために仕立ててちょうだい!」
「はいッ! かしこまりました。お値段は王国金貨20枚になりますが…… お支払いはいかがされますか?」
従業員から値段を聞いて、フローラはギョッとした顔になる。
「金貨20枚!? ご、ごめなさい! 私…… そんなお金持っていません!」
王国金貨1枚の価値は、現代の日本に換算するとおよそ1万円くらいだ。つまり、このドレスは20万円くらいの値段である。
私は、オロオロするフローラに優しく声をかけた。
「心配ご無用ですわ。代金は、わたくしが支払いますわ。このドレスは、フローラにプレゼントいたしますわ」
「で、でも…… こんな高価な物。いただく訳には……」
「遠慮しなくていいですわ。だって、わたくしたちは親友でしょう? 違って?」
「ジェシカさん……」
私は、従業員の方を向いて指示を出した。
「代金は、ジェルロード家につけておいてくださる? 後日、一括で支払いますわ!」
「かしこまりました。では、詳しく採寸させていただきます」
そう言うと、従業員はフローラの採寸に取り掛かった。手際よくテキパキと採寸していく。私は、満足そうな顔でそれを眺めた。
正直、お金は惜しくない。金貨20枚程度の出費は、ジェルロード家にとって痛くも痒くもない。それどころか、私の選んだドレスをフローラが着てくれる。それだけで、もう満足だった。
それから、数日後――――
学園主催のパーティーまで、あと数週間に迫っていた。クラスの女子生徒たちは、みんなパーティーの話で持ち切りだ。貴族の令嬢ばかりなのでパーティーは大好物なのだ。
どんなドレスを着ていくとか、誰と一緒に踊るとか。私には興味のない話を飽きもせず話している。
そんな日常の中、授業が終わって自室に戻ってトレーニングをしようと思って歩いていた時だった。
突然、見知らぬ女子生徒に話しかけられた。
「ジェシカ・ジェルロードさんですね。ちょっとお話があるのですが…… よろしいですか?」
黒髪の整った顔の女生徒だ。だが、美少女というより真面目そうな雰囲気が強い。身だしなみもきちんとして清潔感がある。
「どなたかしら?」
私が尋ねると。真面目そうな女生徒は、ペコリとお辞儀をした。
「申し遅れました。私は、エミリア・エミュレット。生徒会の副会長をしている者です」
「あら? 生徒会の……」
そういえば、見た事あるかもしれない。超イケメン生徒会長キース・エヴィン。彼は、学園きっての有名人だが。その隣に、真面目そうな副会長がいつもいた気がする。
「それで、生徒会の副会長さんがわたくしにどんなご用かしら?」
正直、生徒会とあまり関わりたいと思わない。面倒ごとはご免なのだ。(トレーニングの時間の方が大事だしね!)
私が尋ねると、副会長のエミリアは真剣な目で私を見た。
「はい! 今度の学園主催のパーティーのことなのですが。ジェシカさんが提案された格闘技の試合をサプライズイベントとして、生徒会で企画したいと思っているのです!」
「何ですって!?」
エミリアの言葉は、思いもよらないものだった。まさか、生徒会が格闘技の試合を認めるなんて思わなかったからだ。




