第24話 イベントの提案! ですわ!
※ 後半は、キース視点の三人称に変わります。ご注意ください。
次の日の朝――――
私と生徒会長のキースは、理事長室に呼び出された。目の前には、40代の女性理事長が座っている。やや強張った表情で私たちを見ている。
私は、昨日の経緯を改めて説明した。キースにも言ったとおり、たまたま理事長室の前を通りかかったら、不審な物音が聴こえた。理事長室に入ると泥棒を発見。捕まえようとしたが、窓から逃げられたと。
もちろん、宵闇のマントをこっそり持ち出したことは内緒だ。
しかし、理事長は眉をひそめて私の方を見た。
「ジェシカ・ジェルロード。あなたは、何故理事長室の前を通りかかったのですか? この時間、一般の生徒は寮の自室にいるはずです。生徒会長のキースはともかく。あなたがこの時間、この場所にいたのは何故ですか?」
うッ! 鋭い質問だ。理事長は、私を怪しんでいるのかもしれない。私は、落ち着いた声で答える。
「はい。理事長。わたくしが、理事長室の前を通りかかったのは、生徒会室に用事があったからですわ」
「生徒会室に? 何の用事があったのです?」
「ええ。今度、学園主催のパーティーがあります。そこでの催し物について、提案があったからですわ」
理事長室と生徒会室は近い場所にある。生徒会室に行くために、理事長室を通りかかったということにしておけば理屈は通る。
だが、今度は生徒会長のキースが私に尋ねてきた。
「ほう。催し物の提案とは? 生徒会長として、是非聞いておきたいね」
「はい。わたくしが提案する催し物というのは、プロレスでございますわ!」
「……プロレス?」
私の言葉を聞いて、キースも理事長もポカンとした表情になる。まあ、それはそうだろう。この世界にプロレスという格闘技は存在しない。私は、きちんと説明することにした。
「要するに格闘技のイベントですわ。パーティーの中で、見世物として格闘技の試合を行なえば、盛り上がることは間違いありませんわ!」
それを聞いて、キースは納得したように顎に手を添えた。
「ふむ。面白い。それは確かに、パーティーの余興として盛り上がるかもしれないね」
しかし、理事長は渋い顔をしている。
「生徒が中心となって主催するパーティーですから。私が口を挟むのは本意ではないけど…… パーティーの席で格闘技というのは……」
まあ、理事長の立場としてはあまり好ましくないのだろう。少し間を置いてから理事長は言った。
「まあ、いいでしょう。ジェシカ・ジェルロード。あなたには、まだ話があります。残りなさい。キースは、もういいわよ。下がりなさい」
「はッ! では、失礼いたします」
生徒会長のキースは、丁寧に一礼するとその場を去って行った。広い理事長室は、私と理事長の2人きりになる。
何の話があるのだろう。私が緊張した面持ちで立っていると、理事長は口を開いた。
「あなたが、昨夜追い払った泥棒というのは、普通の賊とは思えません。この校舎の四階の窓から飛び降りて無事に逃げて行ったのです。普通の身体能力ではありません」
確かに、そのとおりだ。昨夜の白い仮面をつけた女暗殺者。普通の身のこなしではない。
現在、理事長室の割れた窓は木の板が打ち付けてある。それを見ながら、理事長は話を続けた。
「もしかしたら、神聖教団の手の者かもしれません」
「神聖教団…… でございますか?」
私は、思わず聞き返した。神聖教団のことは私も知っている。この王国で最も力をもつ宗教団体だ。かなりメジャーな宗教である。
理事長は、深刻な顔で頷いた。
「そうです。神聖教団は、光属性の魔力を至上とする教団です。しかし、反対に闇属性の魔力を最も危険視する教団でもあります」
なるほど。それならば、昨日の女暗殺者が闇属性の魔力を持つ私の命を狙ってきたのは十分に納得できる。
理事長は、深刻な面持ちで話を続けた。
「現在、この理事長室には闇属性の魔道具である宵闇のマントがあります。それを狙って来たのかもしれません」
理事長は、まだ私の存在が神聖教団に知られているとは考えていないようだ。
「ジェシカ・ジェルロード。もし、あなたが闇属性の魔力を持っていることが教団に知られたら。次は、あなたの命が狙われるかもしれません。これから学園の警備は強化しますが…… あなたも身の回りには十分注意するようにしてください。分かりましたね?」
「はい。分かりましたわ。理事長」
そう返事はしたものの。もう既に、命を狙われている立場だ。言われるまでもない。
理事長との話は、それで終わった。
☆ ☆ ☆
「お疲れ様です。会長」
キースが生徒会室に戻ると、副会長のエミリア・エミュレットが声をかけてきた。
学園主催のパーティーの準備などがあり、生徒会はいつも以上に忙しい。彼女も朝から生徒会の仕事をしていたのだ。
「ああ。ご苦労様。エミリア。そういえば、ジェシカさん…… いや、ジェシカ・ジェルロードが面白いことを言っていたよ。今度のパーティーで、格闘技の試合を催し物としてやってみたいと」
「パーティーで格闘技の試合ですか……?」
エミリアは、少し考え込むような素振りを見せる。しかし、すぐに口を開いた。
「……別に、いいんじゃないですか?」
それは、キースにとっては意外な答えだった。エミリアならきっと嫌がるだろうと思っていたのに。
そういえば、今朝の彼女はどことなく様子が違う。
キースは、エミリアをジッと見つめた。左腕に包帯を巻いているのが見えた。昨日まではしてなかった。どこか怪我でもしたのだろうか?
だが、それを問い詰めるようなことはしなかった。キースは、何も言わずに自分の仕事に取り掛かった。




