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第21話 暗闇に現れた影! ですわ!

 短剣をこちらに向けて、狂気の笑みを浮かべながら突っ込んでくるニーナ。


 私は、冷静に首元にあるマントのボタンに魔力を注ぎ込んだ。すると、まるで夜の闇にスゥーッと溶けていくかのごとく私の体は透明になって消えていく。これが闇属性の魔道具『宵闇よいやみのマント』の能力ちからなのだ。


「ッ!? 姿が消え……ッ!?」


 ニーナは立ち止まり動揺の声を上げた。その瞬間を私は見逃さない。短剣を持ったニーナの右手をパシンッ!と打ち払った。


「きゃッ!?」


 短剣は床に転がって落ちる。慌ててニーナは拾おうとして私に背を向けた。その背中にピタリと密着する。そして、両手をニーナの腰に回した。腰を少し落として力をためる。


「行きますわよッ! ジャーマンスープレックスですわッ!」


 体を大きく後ろに逸らして、ニーナの体ごと地面に叩きつけた。受け身のとれないニーナは頭から地面に叩きつけられる。


 今、私の体は宵闇のマントの能力で透明になっているので。フローラたちには、ニーナの体が突然宙に浮いて、ひとりでに地面に叩きつけられたように見えただろう。


 床に倒れてピクピクと痙攣けいれんしているニーナ。私は、宵闇のマントの能力を解除して姿を現す。そして、ニーナを見下ろして言った。


「わたくしの勝ちですわ! ニーナ・ニルヴァーナ!」


 ニーナは「うッ…… ううッ……」と泣きながら嗚咽を漏らした。私は、ニーナをビシっと指さした。


「分かっていますわね? 二度とわたくしの友人に手を出すんじゃあなくてよ! 次は、命の保証はしなくてよッ!」


 これだけ釘を刺しておけば、さすがに彼女も悪さはしまい。


 私はニーナの短剣を拾うと、それでフローラとロッテを縛っているロープを切断する。手足が自由になった途端、ロッテは私に抱きついてきた。


「うわーん! ジェシカお姉さまーッ! 恐かったよー!」


「よしよし。もう大丈夫ですわ。ロッテ」


 私は、ロッテを優しく抱きしめて頭を撫でてやった。その後ろには、フローラが控えめに立っている。少し落ち込んでいるようにも見えた。私は、フローラにも声をかける。


「フローラも恐かったでしょう? もう大丈夫ですわ。心配いりませんわ」


「ごめんなさい。ジェシカさん…… 私のせいで…… 庶民の私が、ニーナさんを怒らせたばっかりに、こんなことになって……」


 申し訳なさそうにうつむいているフローラ。私は、優しく声をかけた。


「あなたのせいではなくてよ。今回の原因は、わたくしにもありました。でも、もう済んだことですわ。何も気にする必要はなくてよ」


「ジェシカさん…… うわーん!」


 私の言葉が届いたのか、フローラは泣きながら私に抱きついてきた。私は、2人を優しく抱きしめる。


「よしよしですわ。もう何も恐くなくてよ」


 2人が落ち着くまで、しばらく抱きしめていた。



 それから1時間後――――


 外は、もう日が暮れてすっかり暗くなっている。フローラとロッテを学園の寮の部屋まで送り届けた。これで万事めでたしだが、私にはもう一つやらなければならないことがある。


 理事長室から勝手に持ち出した『宵闇のマント』を元の場所に戻さなくてはならない。勝手に持ち出したことがバレたら、どんな処分を下されるか分からない。


 理事長室に忍び込むのは、持ち出す時より簡単であった。なぜなら、宵闇のマントの能力で姿を消して忍び込めばいいからだ。


「さて、これでOKですわ!」


 理事長室に忍び込んだ私は、宵闇のマントを元の場所に戻した。理事長室の中にある小部屋に宵闇のマントを畳んで置いておく。


 ホッと一息ついたところで、理事長室を出ようとした。広い部屋の中は真っ暗である。


「貴様がジェシカ・ジェルロードだな?」


 誰もいないはずの理事長室で、突然声をかけられた。慌てて声がする方を振り向くと、黒い人影が立っている。


 全身黒づくめのスラっとした細い体型。その体型と長い髪からして女性だと思われる。しかし、顔は白い仮面をつけていて分からない。


「あら? どなたでいらっしゃるの?」


「ふん! 貴様に名乗る名前など無いッ!」


 私の問いかけに、不遜な態度で答える黒づくめの仮面の女。私の方へとゆっくり歩んできた。私は、危険を察知して身がまえる。


「見ていたぞ…… ジェシカ・ジェルロード。貴様、宵闇のマントの能力を使ったな? やはり、闇属性の魔力があるという話は本当だったようだな……」


「それが、どうかいたしまして?」


 仮面の女の問いかけに、今度は私が不遜な態度で答えた。プロレスラーとしての私の本能が察知していた。この女から感じられるのは、異様なまでの殺気だ。


「決まっている…… 闇属性の魔力は、暗黒の力。その力を使う者は、周囲を闇へと引き込んでいく。闇属性の魔力は、存在してはならないのだ。平和な世界を破壊する。危険なのだよ。貴様はッ! ジェシカ・ジェルロード!」


 白い仮面の女は、そう言って私を指さした。間違いない。何者か知らないが、こいつは私を殺す気だ。


「だったら、どういたしますの? このわたくしを!」


「もちろん決まっている! ここで死んでもらうぞ! ジェシカ・ジェルロード!」


 仮面の女は、はっきりと言い放った。まさか、こんな所で刺客に狙われるとは……


 だが、この黒づくめの仮面の女。身のこなしといい。プロの暗殺者そのものだ。ニーナ・ニルヴァーナがつるんでいた不良貴族の男たちとは訳が違う。恐らく今日の事件とは関係ない。私の命だけを最初から狙ってきたのだと思われた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 1人の敵が倒れ、2人の友人が救われ、さらに別の敵が見つかり、その下に陰謀もありました。 これは差別の場合ですか、それとも黒魔術は本当に危険でしたか? それはまるで人のことであるかのように感…
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