第19話 囚われのフローラ
※ 今回のエピソードは、フローラ視点の三人称になります。ご注意ください。
ここは、街の郊外にある空き家。恐らく貴族の別荘と思われるが、長い間使われていないようだ。現在は、不良貴族たちのたまり場となっていた。
フローラは、両手を後ろでロープで縛られていた。背後には、同じようにロッテも縛られて座っている。空き家の1室に2人は監禁されていた。
見下ろすように立っているのは、不良貴族のリーダーと思われる男。酒の入った瓶を片手に、フローラたちにニヤニヤといやらしい視線を送っていた。
「へへへ。1人は庶民の娘か…… けっこう上玉じゃねえか。なあ? ちょっと先に可愛がってやってもいいか?」
不良貴族のリーダーの隣には、金髪縦ロールの女性が腕を組んで立っている。フローラは、この女性のことを知っていた。ニーナ・ニルヴァーナという同じ魔法学園の生徒だ。
「ダメですわ。彼女たちは、ジェシカ・ジェルロードをおびき寄せるための大事な人質よ。もちろん、ジェシカを呼び出した後は、煮るなり焼くなり好きにすればよろしくてよ」
フローラはこの時、自分たちはジェシカを誘い出すために監禁されているのだと気づく。
不良貴族の男の下卑た声を聞いて、背後のロッテが泣きだした。
「うえーん! 恐いよー! ママー!」
ガタガタと肩を震わせて泣いている。自分が、しっかりしなければ。フローラは、決心するとニーナ・ニルヴァーナに向かって言った。
「ニーナさん! 人質なら、私1人で充分でしょう? お願いです! この子は…… ロッテさんは解放してください! お願いします!」
ニーナに向かって強い視線を送る。しかし、ニーナは「ふん!」と鼻を鳴らして答えた。
「お断りしますわ! ジェシカ・ジェルロードが約束どおり1人で来るという保証はなくてよ! なら、人質は1人でも多い方がいいじゃない?」
交渉は成立しなかった。フローラは肩を落とす。
フローラたちが、ここに連れて来られたのは2時間ほど前のこと。
キャシーとロッテと一緒に、街にショッピングに出かけていた。彼女たちが、今度学園で開催されるパーティーのために自分の服を選んでくれるというのだ。
魔法学園に特待生として迎えられたフローラだったが、周りは貴族のお嬢様ばかりで学園に馴染めなかった。しかし、ジェシカのおかげでキャシーやロッテも自分を友人として受け入れてくれるようになったのだ。
そんな、学園に来て初めてできた友達とのショッピング。心から楽しみにしていたのに……
歩いている所を突然、10人くらいの不良貴族の男たちに囲まれた。そして、無理矢理ここに連れて来られたのである。キャシーだけはジェシカを呼び出すために連行されなかった。
「うう…… ひっく! 恐いよぉー」
背後のロッテは、まだ恐怖で涙を流している。自分だって恐い。不良貴族の男たちにどんな目に合わせられるか分からない。しかし、フローラは泣かなかった。
「ロッテさん! 大丈夫です! きっとジェシカさんが助けを呼んで来てくれます!」
フローラは、なんとか泣いているロッテを勇気づけようとした。
部屋には不良貴族のリーダーとニーナだけだが、別に部屋には不良貴族の男が9人くらいいる。相手は10人以上の男たちだ。
さすがのジェシカも1人で来るような馬鹿な真似はしないだろう。助けを連れてやって来るはずだ。
しかし、その事は不良貴族のリーダーも気づいているようだった。
「なあ? ニーナ。ジェシカとか言ったっけ? 本当に1人で来るのか? 上流貴族の令嬢だろう? 家来を大勢連れて助けに来たら、やばいんじゃないのか?」
不良貴族のリーダーは、やや不安を感じているようだ。しかし、ニーナは自信たっぷりに答える。
「大丈夫ですわ! あの女は1人で来ますわ。賢い女ですもの…… 1人で来なかったら、人質がどうなるか分かっているはず。それに、馬鹿な女ですもの。こんな庶民の娘を友達だなんて言って。あの女は必ず1人で来ますわ。そういう女なのよ。ジェシカ・ジェルロードというのは」
ニーナ・ニルヴァーナは、ジェシカのことをよく理解している。確かに、ジェシカなら1人で助けに来かねない。ならば、自分が何とかしなければ……
フローラは、再び決意するとニーナ・ニルヴァーナに向かって言った。
「ニーナさん! あなたは、ジェシカさんを呼び出してどうする気なの!?」
ニーナは、それを聞いてフローラに冷酷な視線を向ける。
「決まっていますわ。ここでひどい目に合ってもらうのよ。心配しないで。別に命まで取ろうとは思っていなくてよ」
ニーナは、数歩歩いて窓の外を眺める。
「あの女のせいで…… ジェシカ・ジェルロードのせいで。わたくしの人生は滅茶苦茶よ。ギュスターヴ様との婚約もあの女のせいで破棄されてしまった。絶対に許さないわ! わたくしが受けた屈辱以上の辱めを受けさせてやるのよ! ほほほほ! おーほっほっほ!」
狂ったように高笑いをするニーナ。ジェシカに対して相当な逆恨みをしているようだ。このままでは、自分たちの身だけでなくジェシカの身も危うい。
何とかしなければとフローラはもがくが、縛られたロープは固く。どうすることもできなかった。