表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/33

第16話 宵闇のマント! ですわ!

「あなたには、関係のないことですわ。クローディス」


 私は、クローディスにも冷たい態度で返した。この軽薄な男は、あまり好きではない。


「関係ないことあるものか! 俺は、君の婚約者だぞ! 他の男が君に話しかけていたら気になるじゃないか?」


 自分は婚約者がいるにも関わらず、他の女性とデートするような男のくせに。クローディスは、しつこく詰め寄ってくる。私はめんどくさそうに答えた。


「あら? そんなに気になりますの? 次の休日に、夕食ディナーのお誘いを受けただけですわ」


「夕食だと!? ギュスターヴの野郎ッ! 他人の婚約者を夕食に誘うなんて、いったい何を考えてやがる! ……それで。どうするんだ? まさか、行くつもりじゃないよな?」


 クローディスは、不安そうな顔で私の顔色を伺ってくる。私は、軽くため息をついた。


「はぁ。丁重にお断りしましたわ。わたくし、その日は大事な用(筋力トレーニング)がありますの」


 それを聞いて、クローディスは安心した表情になる。


「それは、何よりだ。ホッとしたよ」


 自分は他の女性とデートするくせに、婚約者がデートに誘われるのは面白くないらしい。器の小さい男だ。


「もうよろしくて? わたくし、忙しいのよ(トレーニングで)」


 私が去ろうとすると、クローディスは「ちょっと待ってくれ!」と呼び止めてきた。そして、照れているのか視線を泳がせ、自分の髪をいじりながら言ってくる。


「代わりと言っちゃあ何だが…… その。今度の休日。俺と一緒に夕食はどうかな? たまには2人でゆっくり話したいんだ」


 めずらしくクローディスがデートに誘ってきた。この男は、私に興味が無いものだと思っていたが。いったい、どういう風の吹き回しだろう。


「あら、めずらしいですわね。あなたが食事のお誘いをしてくるなんて。でも、大事な用(筋力トレーニング)があると言ったはずですわ。お断りしますわ」


「そうか…… なら、いい。また別の機会に」


 クローディスは、露骨に残念そうな様子を見せる。少し可哀想な気もするが。私にとって筋力トレーニングは何よりも優先されるのだ。


 私は、クローディスをその場に残して去ると。自室に戻ってトレーニングにいそしんだ。



 それから、2日後のことである――――


 私は、学園の理事長室に呼び出された。広々とした豪華な部屋には、綺麗な応接セットが配置されている。


 魔法学園の理事長ともなれば、王宮にもつながりのある上位の身分だ。名門貴族の私ですら、理事長に会う事はめったにない。


 理事長は、40代くらいの女性だ。しかし、年齢よりも若く見える綺麗な顔をしている。それに落ち着いていて品があった。


「来ましたね。ジェシカ・ジェルロード。そこに座ってください」


 品のある口調で、理事長は私をソファーに座るよう促した。私は、一礼してからソファーに座る。程なくして執事の男性が紅茶を運んで来た。


 理事長は、私の向かい側に座ると話し始めた。


「今日、あなたを呼び出しのは他でもありません。先日の魔力測定で、あなたに闇属性の魔力の適性が検出された件です」


 後日、再検査をするとは聞いていたが。まさか、理事長室に呼び出されるとは思わなかった。


「再検査のことでしょうか?」


「ええ。今から、あなたの闇属性の魔力を再検証いたします」


 理事長は、そう言うと近くの執事に目で合図を送った。すると執事は、黒いマントのような物を持って来た。


 かなり古い物のようだ。若干、色褪せた黒色である。だが、繊細な刺繍が施されおり高価な物だと思われる。


「これは、闇属性の魔道具。『宵闇よいやみのマント』です。この国に一点しかない貴重な魔道具よ。まあ、元々闇属性の魔道具自体が少ないのだけど」


 魔道具というのは、魔術を使用するために必要な道具である。


 この世界の魔術というのは、呪文を唱えると手のひらから炎が出せるといった代物ではない。そういう、いかにもな魔法はおとぎ話の世界だけだ。


 現実には、魔道具というアイテムに術者の魔力を注入することで発動するのが魔術である。だから、魔力があっても魔道具が無ければ魔術は使えないのだ。


 ちなみに、先日の魔力測定に使った水晶玉。あれも立派な魔道具である。


 理事長は、落ち着いた様子で話を続ける。


「1000年に1人の才能と言われる闇属性の魔力。他の属性とは比べものにならないくらい強力な魔道具が、闇属性には存在するわ。もっとも、100年前に『魔王』と呼ばれたグリゴース・グレゴリウス以来、誰も闇属性の魔力を持った者は存在しなかったのだけど」


 魔王グリゴース。歴史の授業で誰もが習う偉人である。この国の前身を作った人物でもある。それだけの偉業を成し遂げているが、闇属性の魔力を持っていたために人々から恐れられていた。


 伝承では、魔界から魔物の軍団を召喚したなどと言われている。恐らく人々が恐れて脚色したものだろうが。


「この『宵闇のマント』は、数少ない闇属性の魔道具の中でも魔力をあまり必要としないタイプの魔道具なの。効果は、術者の姿が見えなくなるという強力なものだけど。さっそくだけど、あなたにこの魔道具を使って欲しいのよ。今、この場で」


 理事長は、真っすぐな目で私を見る。


 なるほど。先日の魔力測定の水晶玉ではなく。実際に、闇属性の魔道具を使ってみろということか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この魔法の道具と同じくらい面白くて珍しいです。 彼女はリングの劇的な入り口にのみそれを使用するつもりだと私は思わずにはいられません。 暗闇の中に隠れて、彼女がノーショーのように見える前に、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ