第14話 魔力測定の時間! ですわ!
ギュルネス家のメイド、マリアとの戦いから1週間後――――
今日は、月に1度の『魔力測定』の日だ。魔力測定とは、文字通り魔力の強さを計測する。
魔法学園の生徒にとって、魔力の強さは1番重視される。魔力が強ければ強いほど優秀ということになるのだ。
ただ、前世のプロレスラーの記憶が蘇った私にとっては、あまり興味が無かった。プロレスラーに魔力など必要ない。必要なのは筋力。それのみである。
「ジェシカお姉さま! 緊張しますわね」
隣にいたキャシーが話しかけてくる。彼女は、緊張しているのかやや強張った表情だ。
「そうかしら? 別に、いつもどおりでしてよ」
私は、気のない返事を返した。
「さすが、ジェシカお姉さまですわ!」
そんな私をキャシーは尊敬の眼差しで見つめている。
私たちが今いるのは、学園内にある『魔力測定室』である。部屋の中央に大きなテーブルがあって、その上に6つの水晶玉が置かれている。
一番手前に置かれている大きな透明の水晶玉。バスケットボールくらいの大きさだ。これに生徒たちは自分の魔力を注入する。
そして、残りの水晶玉。5色のカラフルな水晶玉。左から光属性を表す黄色の水晶玉。闇属性を表す黒色の水晶玉。火属性を表す赤色の水晶玉。水属性を表す青色の水晶玉。風属性を表す緑色の水晶玉。それぞれ順番に並べられている。
手前の大きな透明の水晶玉に魔力を注入すると、それにリンクして5色の水晶玉のどれかが光る。その光の強さで魔力の強さを測定するのである。
しかし、5色の水晶玉の内、使われるのは実質3色である。光と闇の属性の持ち主はほとんど存在しないからだ。ほとんどの生徒は、火・水・風の3つの属性の内どれかである。
ただ、今年は100年に1人と言われる光属性の魔力の持ち主、特待生のフローラがいる。彼女だけは特別だ。
「あ! 見てください! ジェシカお姉さま! フローラが計測いたしますわ!」
フローラが水晶玉の前に立つと、一気に注目が集まる。生徒だけでなく教師も目を光らせていた。それだけ光属性の魔力は貴重な代物なのだ。
フローラが、透明な水晶玉に両手をかざして魔力を込めた。すると、それに連動して光属性の黄色の水晶玉が光り輝いた。室内が「おおー!」とざわめく。
「フローラ・フローズン! 光属性! 魔力B+!」
パチパチと小さな拍手が起こった。貴族出身の生徒ばかりの魔法学園において、庶民出身のフローラは異色の生徒だ。快く思わない者も大勢いる。
しかし、彼女の希少な魔力の才能は誰もが認めざるを得なかった。
「次! ジェシカ・ジェルロード!」
フローラの計測が終わると私の名前が呼ばれた。キャシーが小さくガッツポーズをする。
「ジェシカお姉さま! 頑張ってください!」
私は、キャシーに小さく手を振って応える。そして、透明な水晶玉の前に立った。
悪役プロレスラー『ザ・グレート夜叉』としての記憶が蘇ってから、体を鍛えるばかりで魔力の鍛錬は全然していない。
ちなみに、入学時の私の魔力は火属性Aである。Aクラスは、学園でもトップレベルだ。まあ、その上にSクラスも存在するが。
この魔法学園では、生徒会長のキース・エヴィンが唯一のSクラス(水属性)。あとは、私を含めてAクラスが数人である。
しかし、魔力の強さはAクラスに届かないものの、フローラの光属性は実質Sクラスに匹敵する。この学園の1位はキースかフローラのどちらかと言っても過言ではない。
このままフローラの魔力が成長すれば、実質学園の1位は彼女のものになるだろう。
「さて、ボチボチやりますわ」
私は、透明な水晶玉に両手をかざすと精神を集中させる。集中するために目を閉じた。体内の魔力を両手に集中するイメージで水晶玉に魔力を注入する。
今のプロレスラーの記憶を持つ私としては、水晶玉に魔力を込めるより、空手チョップで水晶玉を砕いて会場内を湧かせたいところだが。さすがに今の体でそれは無理なので、普通に魔力を注入した。
「おおおおおぉぉぉぉーッ!」
私が水晶玉に魔力を注入すると、生徒たちから大きな歓声が上がった。
計測していた教師が驚きの声を上げる。
「こ、これは……ッ! ジェシカ・ジェルロード! 火属性S……!」
その声を聞いて私は「ほう」と心の中でつぶやいた。魔力の鍛錬はしていないのに、AクラスからSクラスにランクアップしている。生徒たちから歓声が上がったのもそのためか。
しかし、魔力の鍛錬をしていないのに魔力が強くなるとは。プロレスラーの前世の記憶が蘇ったことと何か関係があるのだろうか?
計測を終えようと思った時、教師の声が続いた。
「ジェシカ・ジェルロード! さ、さらに…… 闇属性ッ! Cッ! し、信じられん!」
それを聞いて、私も「ん?」と思って目を開ける。
すると、5色の水晶玉の内、闇属性の黒い水晶玉が光っているのが見えた。
「闇属性の魔力だとッ!? 1,000年に1人の才能だぞ! ていうか歴史上、闇属性の魔力の持ち主は魔王グリゴース以来の再来だッ!!」
計測していた教師とは別の教師が驚きの声を上げる。
「しかも、2つの魔力の属性を持つなど今までに前例が無いッ!」
さらに、別の教師が声を上げる。
何だか大変なことになってしまったようだ……