第13話 わたくしモテモテですわ!
※ 途中から主人公とは別視点の三人称になります。ご注意ください。
「僕は、強い女性が好きだ。ジェシカ。君は強く、そして美しい。君のような女性こそ、我がギュルネス家の妻に相応しい。どうか、僕と婚約してくれないか?」
ギュスターヴの目は、本気と書いて本気だ。私は「はぁー」と小さなため息をついてから答えた。
「お断りしますわ。あなたが、わたくしのことを好きでも。わたくしは、あなたのことを別に好きではありませんもの。それに……」
言いながら、チラリと観客席を見る。クロード・クローディスが心配そうな顔で座っているのが見えた。あんなのでも一応は私の婚約者である。まあ、家同士が決めた婚約に過ぎないが。
「それに、婚約者ならもう間に合っていますわ」
「ジェシカ。僕は、あきらめないよ! 必ず僕の方を振り向かせて見せる。だが、今日のところは大人しく退散するとしよう」
そう言い残すとギュスターヴはメイドのマリアを引き連れて去って行った。それと入れ違いに、キャシーとロッテ、それにフローラが私の元へと駆け寄ってくる。
「ジェシカお姉さま! おめでとうございます!」
「ジェシカさん! ご無事で何より」
私は、微笑んで彼女たちを迎えた。今は、素直にこの勝利を喜ぶとしよう。
☆ ☆ ☆
「なんて野蛮な戦い…… しかも、女同士で。信じられないわ!」
隣にいた生徒会副会長のエミリア・エミュレットは怒りと半ば呆れた様子で言った。だが、生徒会長のキース・エヴィンは熱い眼差しでジェシカ・ジェルロードを見つめている。
「ジェシカ・ジェルロード。やはり、面白い女だ」
今回の決闘は、生徒会に正式に申請があったものだ。それ故に、決闘場の仕切りは生徒会の役員で行われていた。
話は、3日前にさかのぼる――――
キース・エヴィンは放課後、生徒会室で退屈そうに窓の外を眺めていた。いつもと同じつまらない日常の光景であった。
キースは、元々は庶民の生まれである。しかし、魔法の才能を買われてエヴィン家の養子となった。それから魔法学園に入学し、生徒会長の座まで登り詰めた秀才である。
しかし、キースはいつも退屈していた。
魔法学園の生徒は、貴族の生まればかり。どいつもこいつも面白くない。生まれた家柄と魔法の才能だけで生きているような連中だ。努力や行動で何かを変えたり成し遂げた連中ではない。
だが、ジェシカ・ジェルロード。彼女は違う。
初めて彼女を見たのは、決闘場を無断で使用している生徒がいるとの通報を受けた時だった。
彼女は貴族の令嬢でありながら、庶民の娘であるフローラ・フローズンに殴り合いの決闘を挑んでいたのだ。
フローラ・フローズンのことは知っていた。自分と同じ庶民の出身でありながら、魔法の才能を見出され、この魔法学園に入学した特待生である。しかも、彼女は100人に1人と言われる光属性の魔法の才能の持ち主だ。この学園でもちょっとした有名人であった。
キース自身もフローラのことを気にかけていた。同じ庶民の出身であり、周りの貴族の御曹司や令嬢たちとは明らかに違う。
しかし、それ以上にキースにとって衝撃的だったのはジェシカ・ジェルロードの存在であった。
貴族であり女性でもある彼女が、自分の腕で殴り合いの喧嘩をしていた。今まで見てきた貴族たちとは明らかに違う。
「ジェシカ・ジェルロード…… 面白い女だったな……」
ジェシカのことを考えながら窓の外をボーッと眺めていた。そんな時だった。近くの机で事務作業をしていた生徒会副会長のエミリア・エミュレットが突然大きな声を上げる。
「何ですか!? この申請書は! 受理したのは誰? 信じられないわ!」
エミリアは1枚の紙を持って声を上げたようだ。キースは、エミリアに声をかけた。
「どうした? エミリア。突然、大声を出して。何かあったのかい?」
「会長! この申請書を見てください! ギュルネス家から提出された決闘の申請なんですけど……」
キースは、エミリアからその紙を受け取った。決闘の申請書だ。この時代、決闘はめずらしいことではない。貴族は名誉を重んじる。貴族同士が名誉や誇りを守るためにぶつかり合うことは、しばしばあった。
しかし、それはあくまで貴族の中の男性社会の中での話である。エミリアから渡された申請書には、男性ではなく女性の名前が書かれていた。
決闘を行なうのは、ギュルネス家の使用人マリア・マリーゴールドとジェシカ・ジェルロードであった。決闘の方法は、素手での格闘である。
キースは、驚きのあまり声を上げた。
「ジェシカ・ジェルロード!? 彼女が!?」
「こないだ無断で決闘場を使用していた生徒ですね。女同士で決闘なんて、言語道断です! こんな決闘は認められません! ただちに却下の通告をします!」
エミリアは、他の役員に決闘の却下を通知するよう申しつけようとしていた。キースは、慌ててエミリアを制止する。
「待て! エミリア。面白い…… この決闘、許可しよう!」
「会長!? 本気ですか!? 女同士が決闘するんですよ?」
「女だから決闘してはいけないという決まりはない! 女性の主権も尊重されるべきだよ」
「ですが……」
納得いかない様子のエミリア。だが、キースの方は静かに体を震わせていた。
「ジェシカ・ジェルロード…… やはり、面白い女だ…… ふふふふ」
こうして、ジェシカとマリアの決闘は生徒会に正式に認可されることになったのであった。そして、ジェシカの存在は学園のイケメンたちの運命を狂わせていくことになる。