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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第五章 街の女の子アーシャ編
98/103

九十四話 ―楽しんでくれて何より……―

第九十四話です。


前話を読んでない方はそちらからどうぞ。

 あたしは気が付くと、クラウディア様に聞いていた。


「あの……あたし、クビですか……?」


 その言葉を聞いたクラウディア様もチアーラさんも、きょとんっとしていた。

 エリーゼも――いや、エリーゼはあたしが侍女になるかもしれないのが嬉しくて、聞いてなかったみたい。


「――っふ、ふふっ……」

「――ふふっ、アーシスっ……ふふふっ」


 と、直後にはクラウディア様とチアーラさんが肩を震わせていた――というか口に手を当てて笑いを我慢してるみたいなんだけど、全然抑えられなくて笑い声が漏れていた。

 不本意ではあるんだけど……二人とも落ち着いている姿しか見たことが無かったから、可愛くて新鮮――いや、チアーラに対してはまだしも、クラウディア様に対しては失礼だよね。


「――ふふっ……ごめんなさいね、私の言い方が悪かったわね」

「そうですよクラウディア様、アーシスが可哀そうですよ――大丈夫よアーシス、クビなんてことは無いんだから」


 しばらくして落ち着いたのか、二人ともあたしにそう声をかけてくれて、チアーラさんは頭も撫でてくれる。

 どうやらクビってわけじゃないみたいで、ちょっと安心――だけど、エリーゼの侍女になって……ってどういう事だろう?


「ちゃんと説明するわね――まだ少し先なのだけど、エリーゼの一緒にいくつかの領地へ視察に行くのよ」

「視察ですか……」

「そう。そこでアーシスちゃんにもついてきて欲しいのよ」


 クラウディア様の言葉から察するに、視察の時にエリーゼの護衛のために連れて行きたい……ってことだと思う。

 視察に行くなら、馬車で長い期間移動することになるだろうし、そうなれば()()()の時が無いとは言い切れない――各地に騎士を派遣して治安維持も行ってはいるけど……正直、完璧とは言えない。

 だから護衛が必要なんだろうけど……なんで侍女……?


「もちろん護衛騎士も連れていくけれど、王族という立場上……私たちを邪魔に思う者もいるのよ――盗賊程度であれば護衛騎士達で問題ないのだけれど――」

「――お二人を狙う者が、護衛騎士で対処できない程の実力を持つ何者かを雇ったりした場合に……っていう事ですか?」

「そういうことよ」


 確か、過去の視察の際に襲撃を受けたことがあるって話をチアーラさんに聞いたことがあった――確かその時は……チアーラさんがクラウディア様の侍女に紛れてて、そのおかげで大きな被害もなかったって言ってたっけ。

 そうなると、あたしが侍女になる意味って言うのは――。


「――もしもの時、必要以上に相手を警戒させないため、ですか……?」

「流石アーシスちゃんね、正解よ」


 やっぱり思った通りの理由だった――使用人は普通戦えないからね。

 それなら過去と同じようにチアーラさんでも良いとは思うんだけど……多分護衛対象がエリーゼだからあたしの方が良いってところかな――後は……例の薬の件でチアーラさんも皆も忙しくなりそうだからかな。

 まとめると、視察に向かうエリーゼを守るために侍女に扮して護衛をするように――っていう”特務部隊“の一員としての仕事、ということかな。


 話は分かったけど、結局のところの問題は残ってる。


「クビってわけじゃないのと、エリーゼを守るためというのは分かりましたけど……あたしは侍女の仕事とかしたことが無いんですけど……」


 その問題というのが、今言ったように、あたしが侍女の仕事なんてしたことがないということ。

 今回の話はあたしが侍女に見えないと意味がないわけで、侍女らしくない行動をしてしまえば怪しまれてしまう――それに間違って変なことをしたら、クラウディア様やエリーゼに迷惑が掛かっちゃうし。


「だからこそ今話をしたのよ――さっきも言った通り視察はまだ少し先……数か月ほど後になるわ」

「と言うことは、もしかして……」

「ええ、その数か月で侍女の立ち振る舞いを覚えてもらうわ」


 あ、やっぱりそうなりますよね……。

 う~ん、数か月あれば基本的な部分は出来るようになると思うけど……完全には難しいだろうなぁ……。

 チアーラさんは普段から物腰柔らかだから、ある程度仕草とかを気をつければよかったんだろうけど……あたしは普段が()()だからね、言葉遣いとかも気をつけないといけない――いや待って、それ以前にあたしって他人から見たら子供だし、侍女は無理があるんじゃ?


「心配しなくても大丈夫よ、あなたの見た目なら侍女ではなくて”侍女見習い“としておけば問題ないでしょうし」


 色々と考えていると、ぼそっとチアーラさんがそう声をかけてくれる。

 あぁなるほど、見習いなら少しは粗があっても大丈夫……なのかな?


「クラウディア様あまりうちの子をいじめないでくださいね?」

「ふふっ、ごめんなさいね、反応がかわいいものだからつい――でもあなたもアーシスちゃんの反応を楽しんでいたじゃない?」

「私は良いんですよ♪」


 どうやらクラウディア様はわざと少ない言葉で説明して、色々考えるあたしの反応を楽しんでいたらしい。チアーラさんのおかげで助かった……と一瞬思ったんだけど、チアーラさんもあたしの反応を見て楽しんでたんだね――うん、楽しんでくれて何よりだよ……。

 チアーラさんはもういつものことだから諦めるとして……やっぱりクラウディア様もこういうところチアーラさんと似てるよね。


「とりあえず今はエリーゼの護衛のために侍女をやってもらうということと、これから侍女としての勉強をしてもらうということを覚えてもらえれば問題ないわ」


 チアーラさんが何も心配していないところを見るに、チアーラさんはあたしならできると思っててクラウディア様もそう。ならその期待を裏切らないように頑張るしかないか。


「例の解析の件もあることだし……それが終わってからになるかしらね――それまでに諸々の日程を決めさせておくわね」


 そうだ、その件にもあたしは立ち会わなきゃいけないんだった――そうなると一週間後くらいからになるのかな。

 その前までに出来ればロザリアさんに話を聞きたいなぁ――”狐筆頭“であるロザリアさんは、別に侍女っていうわけでは無いんだけど……服装も仕草とかもそれっぽいからね。何か参考になるかなとは思うんだけど、あの人はあの人で忙しいだろうし難しいかも。


「あら、もう日が暮れてきてしまったわね……アーシスちゃん、チアーラ、今日は城に泊まっていきなさい」

「お姉様今日はお泊りですか!?」


 クラウディア様の提案を聞いて一番喜んだのはエリーゼだった――危ないっ、急に立ち上がるからエリーゼの頭が顎に当たるところだった……。

 ただ、はしゃぐように喜んでいたのも一瞬だけで、またあたしの膝に座り直してクラウディア様を見ると――。


「あの、お母さま……」

「アーシスちゃんが良いなら、今日は特別よ?」


 そう言葉を交わした。

 クラウディア様にはエリーゼが何を言いたいのか分かったみたいだけど……生憎とあたしには分からなかった。

 少しだけ考えていると、今度はエリーゼがあたしに顔を向けてきた――なんだかちょっと申し訳なさそうな表情だけど……どうしたんだろう?


「お姉様、その……」

「どうしたの?」

「あのっ、いっしょに寝ても……よろしいですか……?」


 あぁなるほど、それでクラウディア様の許可を取ったんだね――で、あたしに迷惑が掛からないか心配だったから、そんな表情を浮かべてたのか……。

 なんか昔のことを思い出すなぁ……チアーラさんに保護されて少し経った頃チアーラさんも忙しくて家を空けることが多かったんだよね、それで久しぶりに帰ってきてゆっくりできるって聞いた時に、あたしも今のエリーゼと同じようにチアーラさんに一緒に寝ていいか聞いた事があった気がする。


「もちろん、良いよ。普段はそんなことできないし……あたしも一緒に寝てくれると嬉しいな」

「ありがとうございますっ、お姉様!」


 そう答えると、エリーゼは花が咲いたような笑顔で喜んでくれた。

 あたしも今まではチアーラさんとかモルガナ姉ちゃん達に「一緒に寝て良い?」って言う側だったからね……自分が言われると、嬉しくなっちゃう。

 せっかくなんだから、あたしにできることならエリーゼにしてあげたいしね。

というわけで、もしもの時の護衛のために侍女をやってくれない?っていうお話でした。

……この子侍女できんの?結構口調雑だけど?(大体ブラッドのおっちゃんの影響です)


★次話は08/25投稿予定です。

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