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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第五章 街の女の子アーシャ編
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第九十三話 ―もしかして、あたし……―

第九十三話です。


前話を読んでない方はそちらからどうぞ。

 あたしはエリーゼを膝の上に乗せながら、今度はクラウディア様の話を聞くことにした。

 あたしがこの場に来たのはチアーラさんと一緒に報告するため、というのもあるけど、どちらかというとクラウディア様から話があるらしいから来たというのが大きい。


「それで、アーシスちゃんへの話なのだけれど……魔力の爆発について何か分かった事はないかしら――原因については今は仮説程度でしょう?……氾濫の時に使ったのならもしかしたらと思ったのよ」


 魔力の爆発について分かった事――そう言えばあとでチアーラさんに話さないといけない、って思ってたことがあったはずなんだけど……あ、思い出した。


「魔力の爆発する原因――というか原理?が、多分ですけど分かりました」

「「えっ!?」」


 あたしがそう答えると、クラウディア様とチアーラさんは驚いたように声を上げた。

 いや、まぁ……あたしが初めて爆発させてから一週間も経ってないもん。そりゃ驚くよね。

 この場にエリーゼがいるのに魔力の爆発の話をしたってことは、この子も話自体は知っているんだろうけど……二人が驚く理由がいまいち分からないのか、可愛らしくこてんっと首をかしげていた。


「氾濫前にチアーラさんと報告した時は仮説は二つでしたよね?」

「ええ……一度に制御できる魔力量の限界、あるいは一定範囲にとどめることができる魔力量の限界――だったわね」


 頬に片手を添えて首をかしげながら思い出すようにそう言ったクラウディア様にあたしとチアーラさんは頷いて答える――首の傾げ方がエリーゼと同じで可愛いなぁ、この人……。

 流石に失礼なことを考えてしまったので、それはともかくと頭を切り替えてあたしはクラウディア様に言葉を続けた。


「爆発の原因は一定範囲に留められる魔力量の限界を超えること――前にやった時は掌大の球に魔力を集めたんですけど、今回はそれよりも大きい……大体二倍くらいの急に魔力を集めました。それで、前よりも多く魔力を注いでいるのにも関わらず爆発する様子はありませんでした」

「原理が分かっていないのにその場で試したのね……?」


 あたしは魔力が爆破する原因と、それが原因だと思った理由を説明したんだけど……ちょっと失敗だったかも――なぜなら、あたしの説明を聞いたクラウディア様から、さっきのお説教の時よりも背筋が冷たくなる空気を感じたから。となりにいるチアーラさんからも圧を感じるし……。

 いや、実際はっきりしてないのにその場で、多分そう、ってだけでやったあたしが悪い……皆が似たようなことやったらあたしだって怒る。


「まっ、前に爆発した時の魔力量は結界を人ひとり分くらいの大きさの結界を創り出す時と同じくらいの魔力消費でした――もし制御可能な魔力量の限界が原因なら、そもそもそれ以上の大きさの結界は作りだせないことになります。あたしは建物をいくつか囲える程度の大きさまでなら作り出すことができるので……大丈夫だと思ったんです……けど……無茶して、ごめんなさい……」


 色々と言い訳を並べたけど、二人の圧が逆に大きくなるのを感じたあたしは、最終的にもう一度あやまった。


「とにかく、貴女が無事で良かったわ……」


 チアーラさんはあたしの反応を見てか、ため息をついて頭を撫でながらそう言ってくる。

 うん?なんかあたしの頭を撫でる手が多い気が……って、チアーラさんだけじゃなくてクラウディア様とあたしの膝に座ってるエリーゼもあたしの頭を撫でてきてる……。

 なんというか、改めで罪悪感が湧いてきたというか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 クラウディア様もエリーゼもあたしのことを思ってくれているのは嬉しい――だけど、こんな事を言えば失礼になるから口には出さないけど……正直この二人があたしのことを思ってくれている理由が分からない。

 言い方は悪いけど、チアーラさんといくら仲が良いからとは言えクラウディア様からしたらあたしは飽く迄手足となる部下なだけのはずで、エリーゼからしたら憧れていたチアーラさんに拾われただけの存在のはず。

 なのにクラウディア様は初めて会った時から優しく魔法を教えてくれたし、エリーゼもあたしはこの子に何もしてないのに慕ってくれている。

 いや、今は考えるのはやめておこう……。


「どうかしたのアーシス?」

「ううん、何でもないよ――まぁ……なのでそれが原因だと考えて良いと思います」

「原理が分かったのは良かったわ――それでもできるのはアーシスちゃんとガーナちゃんくらいでしょうけれど……調査するに越したことはないわ」


 あたしとガーナ以外できない、というよりも発見しても自分から進んで爆発させるような人はいないだろうね。だって爆発したら傷だらけになったり場合によっては身体が欠損するだろうし、最悪自分で起こした爆発で死んでしまう可能性もある。

 あたしの場合は最初の威力が小さかったのと、痛みと衝撃に耐えられるから――だからと言って進んで怪我しようとは思わないけど。流石のあたしも腕は失いたくないし。


「魔力爆発の原理については前の報告とあわせて私から研究部に伝えておくわね」

「彼ら大喜びするでしょうね、彼ら研究が生きがいですもの」


 クラウディア様とチアーラさんは「ふふっ」と顔を合わせて笑っている――本当に仲良いよねこの二人って。やっぱりただの上司と部下って関係ではなさそうなんだよね~、普通に友達みたい。


「――っと、そうだわ話はそれだけではないのよ」

「そうなんですか?」


 てっきり魔力爆発のことを聞くために呼ばれたんだとばかり思ってた。

 いや、それだけだったらチアーラさんを通して後日報告するだけで良いだろうし……となると例の薬の解析依頼の件かな?


「アーシスちゃん、エリーゼの侍女になってくれないかしら?」

「えっ、はいっ!?」


 クラウディア様の言葉にあたしは人生で一番驚いた気がする――エリーゼは嬉しそうに眼を輝かせているけど、あたしはそれどころじゃない。


 あたしは身体は鍛えているし、数学や経済、各国の歴史などといった勉強もチアーラさんやカイナート兄ちゃんに教えてもらった。だけど、それ以外は学んでない。侍女の立ち振る舞いとか、仕事とかも知らないわけでは無いけどやれと言われてやれるような物でもない。

 それ以前にあたしは今は特務部隊である”修羅“の一員なわけで……それなのにクラウディア様がそう言うってことは、もしかして――あたし、クビ……?

発見されたばかりの魔力の爆発についての話だけだと思っていたら、まさかの王妃殿下からの”お願い“でした。

突然のことで”修羅“をクビにされたのかと焦っているアーシスでした。


そして首をかしげる仕草がそっくりで可愛いクラウディアとエリーゼでした。


★次話は08/15投稿予定です。

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