第九十一話 ―何かあったんだね―
第九十一話です。
本話で第四章最終回となります。
前話読んでない方はそちらからどうぞ。
あたしや他の三人が答える暇もなく、チアーラさんもガレリア騎士団長もあたし達が集まっているテーブルに食事を置いた。
元々、あたしの左にライラ、あたしの正面にスモーカーのおじさん、ライラの正面にカリナさんと座っていたんだけど、おじさんの隣にガレリア騎士団長が座った。
そしてチアーラさんは――。
「何をしてるの般若――ほら、ちゃんと座りなさい」
「ちょっ、まっ――」
チアーラさんはずっこけた体勢のあたしを見るや否や、あたしを持ち上げてライラの隣に座りながら、膝の上に乗せた――あたしが「まって」という暇もなく。
そしてチアーラさんは片手であたしを抱きしめたまま、あたしの口に食事を運んできたのであたしが大人しくそれを食べると、あたしが食べている間にチアーラさんも自分の口に食事を運んでいく。
ライラやおじさん達は「何で大人しくしてるの?」って顔で見てくるけど、仕方ないじゃん……だってあたしが抜け出そうとするとそれ以上の力で押さえつけてくるんだもん――チアーラさんから逃げるとか無理だからね?
「お二人ともご紹介します――お二人もご存じかと思いますが、そちらは騎士団の団長を務めておられるガレリア騎士団長です。そしてこちらの方が先程少しお話しましたが、般若殿の所属している部隊の隊長を務めていらっしゃる”絢華様“です」
その中で最初に口を開いたのはライラ。
スモーカーのおじさんとカリナさんに、ガレオス騎士団長とチアーラさんのことを紹介してくれた。 本当ならあたしが紹介するか、この二人が自分から自己紹介をしなきゃいけないんだろうけど……あたしとチアーラさんコレだし、ガレリア騎士団長なんかはあたしの事を見て笑ってるし……ごめんねライラ、ありがとう。
「絢華……って氾濫前に会った……」
そう言葉を零したのはスモーカーのおじさんなんだけど……あぁ、そいえば氾濫が始まる前にあたしに絡んできたハンターの二人を運んで来てくれた時にチアーラさんに会ってたっけ。
因みにカリナさんが「簀巻きの……」って言ったのが聞こえたけど……うん、声が小さかったからあたしには聞こえてない。聞こえてないったら聞こえてない。
「騎士団長、絢華様、お二人もお話は伺っているかと思いますが……スモーカー殿とカリナ殿、例のお二人です」
続けてライラは今来た二人におじさんとカリナさんのことを紹介した。ライラも言った通りあたしやネスさんから話を聞いているから知っているだろうけど、こういうのって大事だよね。
ライラからのお互いの紹介が終わった後には一言二言と、四人で挨拶を交わし、それが終わると同時にチアーラさんが話を切り出した。
「まずは、依頼を受けてくれて感謝するわね。アレについては過去に遺体は回収できていたのだけど今のところ何も分かっていないの。けれど今回この子が原因と思われる薬を回収してくれたのだけど……うちの研究者たちにも解析魔法を使える者はいないのよ」
あたしの頭を撫でながらチアーラさんがそう言う。
相変わらずチアーラさんの撫で方は優しくて気持ちい……けど、人目があるところでは控えて欲しいなぁ……騎士の皆の視線が刺さって恥ずかしい。
「それで、貴女に視てもらう日取りだけれど……明日あなた達には王国に戻ってもらうわ。その後三日ほど休ん貰った後、城の研究部で解析魔法を使ってもらうわ――だから五日後のお昼頃になるかしらね」
「それ、陛下や王妃殿下は知ってるの?」
「ええ、さっきお伝えしたわ――あのお二人は来ないから安心して良いわよ」
そしてあたしが「陛下」「王妃殿下」と口にしたところでおじさんとカリナさんがピクリと反応したんだけど、チアーラさんが笑いながら「来ない」というと明らかにホッとした表情を見せた――あぁ、ローベルト様とクラウディア様もその場に来るんじゃないかって心配になったんだね。
因みにあたしは、いつもはお二人が許してくれるから「ローベルト様」「クラウディア様」と呼んでいるけど、流石にハンターの前でそう呼ぶわけにはいかないからちゃんと「陛下」「王妃殿下」と呼ぶようにしている――というかチアーラさんからそうしなさいって言われてる。
「口ぶりからして協会にも日程の話が伝わってるだろうし……俺からは問題ない」
「ボクも問題ないです――あっでもニーナちゃんはどうしましょう?」
二人ともその日程に問題はないとのことだけどカリナさんが、そう言えば、と言葉を漏らした。
えっと、ニーナちゃんって……スモーカーのおじさんの養子の女の子だったっけ……確かおじさんの情報に記載があったはず。
「いや、半日くらいだろうし留守番してもらえば大丈――」
「ダメですっ!ニーナちゃんを一人には出来ません!!」
おじさんの言葉を遮ってカリナさんが声を上げた。
あたし達は詳しい事情は分からないけど、その”ニーナちゃん“にも過去に何かあるんだろう――その子は情報によれば十歳だから普通なら一人でも問題はない。
だけど、その子の過去次第では、年齢なんて関係なく一人が恐ろしく思うことだってある――あたしだって、今でも一人になるのは……皆がいなくなってしまったように感じて、ちょっと怖い。
「それならシンディーは?」
「んおっ、確かにアイツなら歳も近ぇしちょうど良いな――ライラ、念のためお前もいとけ」
「承知しました」
あたしがガレリア騎士団長の娘であるシンディーに一緒にいてもらえば良いんじゃないかと思って提案してみると、騎士団長自身も頷いて答えた。
ライラも一緒にいるように言ったのは、彼の言ったように念のため――あたしはあまり関わることはないけど、この国にも貴族がいて、チアーラさん曰くちょっと困った人もいるらしい。そういうのに絡まれないように、絡まれても対処できるようにするためだ――騎士団の中でも信頼があって、”修羅“の一員であるあたしと仲の良いライラと、騎士団長の娘であり、姫殿下であるエリーゼの護衛見習いであるシンディーがいれば困ったような人でも、対処ができるということだ。
「そういうわけだ、その娘も一緒に城に連れてきて問題ない――オレの娘とライラに任せりゃ大丈夫だ」
「わかった……ありがとう」
「ありがとうございますっ!」
ガレリア騎士団長の言葉に、おじさんは少し申し訳なさそうに、カリナさんは首が取れるんじゃないかってくらいに思いっきり頭を下げて、騎士団長にお礼を言っていた。
何はともあれ、カリナさんに例の薬に解析魔法を使ってもらう日程は決まったので、あたし値はその後は普通にご飯を食べた――あたしはチアーラさんに食べさせられたけど。
「なぁ、ずっと気になっていたんだが……」
そろそろ食べおわりそう、というところでスモーカーのおじさんがあたしを見ながら話しだした。
このパターンってやっぱりあれかな……おじさんは気にした様子が無かったから大丈夫だと思ってたんだけどなぁ……まぁ、仕方無いか。
「それ着けてて見えづらくないのか……?」
何で子供が?っていう、よくあるやつを聞かれると身構えていたのに、全く別の……正直どうでも良いことを聞かれて気が抜けたあたしは「見た目より見えるよ……」としか返せなかった。
考えてみれば、初めて会った時は子供に間違えられたけど、さっきネスさんとの話が終わった後「見た目の問題」って言ってたし、気にする必要なかったね。
それを最後に食事を終え、あたし達はそれぞれの天幕に戻っていった。
流れるようにアーシスを膝にのせてご飯を食べさせるチアーラと、諦めて大人しくご飯を食べるアーシスでした。
本日合わせて「第四章キャラクター紹介」も投稿しているので、気になる方はそちらもどうぞ。
★次話から第四章開始、07/25投稿予定です。
仕事が忙しく作業が滞ってしまっているため、申し訳ございませんが少し感覚を開けさせていただきます。




