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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
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第九十話 ―彼女の決意と騎士団の内情?―

第九十話です。


前話読んでない方はそちらからどうぞ。

「やります……!」


 カリナさんは覚悟を決めたような表情で、確かにそう言った。

 正直あんな薬だから、碌なものは視えないと思う――それを分かったうえで解析魔法を使うことを決めたカリナさんは、ただただ凄いと思った。


「よろしいのですね?」

「何でボクが襲われたのかは分からないですけど、襲われた以上ボクにも関係があります。その薬の成分が分かれば元に戻す方法が分かるかもしれないですし、同じようにあんな姿になってしまう人も減らせるかもしれないんです――だから……ボクは視ます」


 再確認、と言った感じにネスさんがカリナさんに聞き返すけれど、カリナさんの意思は変わらないようで力強く答えていた。


「分かりました。ではそのように騎士団長や陛下に伝えておきましょう――先程も言った通り氾濫が終わり王国へ戻ってからとなりますので、それまではごゆっくりお休みください」

「わかりました」


 こうして話が終わる事には、既に日が沈み始めていた。思った以上に長く話していたみたいだ。

 落ち着いたところで――くぅ……――と、可愛い音が聞こえた。多分誰かのお腹の音かな?

 ネスさんではない、カリナさんも違う、おじさんも違うね……もちろんあたしでもない……ってことは――。


「すみません……」


 そのお腹の音の主はライラだった。ライラのお腹の音可愛いなぁ……。

 まぁ、お茶とか軽食は少し口にしたけど、ちゃんとご飯を食べずに話し続けてたからね、あたしもお腹空いたよ。


「私も失念しておりすみません……お二人も空腹でしょうしせっかくですから騎士用の食堂で食事をして行ってください――般若殿はいかがいたしますか?」

「あたしも一緒に行くよ」


 あたしがついて行くのは騎士達がこの二人に何もしないようにするため――いや、ちょっかいを出すとか嫌がらせをするのを心配してるんじゃないよ?

 この国の騎士達ってやたらと人の世話を焼きたがるんだよね……たまに訓練にお城に行って騎士達の食堂に行くことがあるんだけど、その度に構われるんだよ。多いのだと自分のおかずを分けようとしてきたりね。

 あたしはもう十年近いから慣れたけど、この二人は騎士達とは関わりは無いからね……ライラとあたしがいればそうそう構おうとはしないだろうってこと。


「それは、嬢ちゃんの見た目の問題なんじゃ……」

「あたしだけじゃなくて新人の騎士とか見学に来た子供にもやってるから……」

「女性の騎士は皆、般若殿のお世話をしたくてそうしている者ばかりですよ?」

「え˝っ?」


 念のためスモーカーのおじさんとカリナさんに教えると、そんな言葉が返ってきた。

 それに答えると、ライラからまさかの言葉が飛んできて、変な声が出た。

 あれ、今いる女性の騎士ってあたしが成人済みだって分かってるよね……あたしもなんか構いたがる女性の騎士が多いとは思ってたけど、そんな理由だったの……?同性同士だから色々と話したいとかじゃなくて?


「さ、ご案内しますので、参りましょう」

「お、おう……」「はっ、はい……」


 ライラはそんなあたしをおいて、おじさんとカリナさんの案内を始めた。

 二人とも困惑しながらだけどライラについて行く。


「般若殿、どんまいです」


 ネスさんそんな砕けた口調で話せるの!?

 あたしの肩に手を置いて慰めてくれるんだけど……そんな口調初めて聞いたよ。こんなことで聞きたくなかったなぁ……。

 あー、もういいや、聞かなかったことにして早く三人のところに行こう……じゃないとあの二人が騎士達に構い倒されそう……。


 そうしてあたしは、急いで三人に合流した。



 私は先に行ってしまった三人に合流して、砦にある騎士用の食堂に来た。

 もう日暮れともあって、最終日である今日の夜間の魔物の対処をする騎士と交代して戻ってきた騎士達が、ご飯を食べていた。


「食ってるもんは俺達ハンターと同じなんだな?」

「ハンターの皆様には手を貸していただいているのですから、我々だけ贅沢をするようなことはありません」


 食堂内を見回してスモーカーのおじさんが呟いた言葉に、ライラが返した。

 そりゃそうだよ。流石に騎士だってご飯はちゃんと食べないとしっかり働けないし、ハンターを優先するわけにはいかないけどね。


「ほら、早く食べよ」

「般若殿、それでは食べられないのでは……?」

「嬢ちゃんはそれで食えるのか……?」

「それで食べられるんですか……?」


 ライラの説明が終わったところで、あたし達はそれぞれ食事を持って席に着いて、食べ始めようとしたところで、全員からそう聞かれた。

 あ、やっぱり気になる?


「えっと、ここをこうして……」


 実は”修羅“の仮面にはちょっとした機能がある。

 顔で言うところの顎の付け根あたりにつまみがあって、それを回すと仮面の顎の付け根から口までが――ガコッ――とズレる。それによって、ちょうどあたしの口の部分が仮面から外に出た。


「ほら、これで食べられるよ」

「それ、そんな機能があったんですね……」


 流石にこれはライラも知らなかったようで、スモーカーのおじさんとカリナさんと一緒に驚いていた。まぁ、普段はこの仮面をつけてないし、氾濫とかではご飯とかは専用の天幕で仮面を外しちゃうからね。

 あたしもさっきまで忘れてたくらいなんだけど……まぁ、今は役に立ってるしいいか。


「般若様じゃないですか、一品どうぞ!」

「ライラも一緒か、コイツをやろう!」

「こちらの方は般若殿とライラさんのお知合いですか、では貴方にも一品!」

「では貴女には私がこちらの一品を差し上げます!」

「では俺は――」


 気付いた頃には周りに騎士達が集まって来ていて、次々にあたし、ライラ、スモーカーのおじさん、カリナさんのお皿におかずをのせていく――って、あ、周りの初めて氾濫に参加した騎士にも他の騎士達がおかずを分けていってる。

 う~ん、結局こうなっちゃうかぁ……。


「なんだこれ……」

「えっ、何で……増えてく……?」


 いやまぁ、そりゃそんな反応にもなるよね。

 だって毎年氾濫という大量の魔物と戦っている国の騎士達が、ハンター達の知らない場所ではこんなことしてるんだから。


「というわけで、これがさっきも言ったラプラド王国騎士団の内情だよ」

「害はありませんので、適当に流してください」


 あたしとライラで困惑している二人にそう言うと周りから『悪いことみたいに言わないで下さいよ!』『適当ってなんだ適当って!』なんて声が聞こえてくる。

 訓練の時はみんな真面目なんだよ?お仕事の時は皆きっちりしてるんだよ?でも休憩中とかはいっつもこんな感じになるんだよね。まぁ、皆元気で仲が良い証拠だろうし悪いことではないけどさ。


『何やっているのあなた達!』

『お前ら騒ぎすぎだ!』


 と騒いでいると、入り口の方からそんな声が聞こえた――というかチアーラさんとガレリア騎士団長のの声だなぁ……。時間も時間だし、二人もブラッドのおっちゃんや夜間担当の騎士やハンターに交代して戻ってきたんだろう。チアーラさんはあたしがここにいるだろうからって、こっちに来たのかな?

 それにしても、う~ん、この調子だとあたしも含めて騎士達全員お説教になるかも――。


『いっつも程々にしろっつってんだろうが!!』

『一人に対しては三人までと言っているでしょう!!』


 と続けて聞こえてきた言葉にあたしは座ったままずっこけた。

 え、何?これってチアーラさんもガレリア騎士団長も把握してるの?把握したうえで「程々に」とか「一人に対して三人まで」とかって言ってるの?「やめなさい」じゃなくて?なんで?


「ようオレらも一緒に食わせてもらうぜ」

「ご一緒させてもらうわね」


 とさっきまで騒いでいた騎士達を鎮めながら歩いて来たガレリア騎士団長とチアーラさんが、あたし達にそう声をかけてきた。

修羅の仮面の新たな機能が判明!実は口が開く!――マジでナニコレ?いらんだろ……。

でもってオフな騎士団の内情と、それを容認している騎士団長とチアーラ(絢華様)でした。

和気あいあいとしてて良いね!


★次回第八十七話は「07/10」を予定しております。

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