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修羅の舞う夜に  作者: Lyrical Sherry
第四章 氾濫編
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第八十八話 ―緊急事態―

第八十八話です。

前話読んでない方はそちらからどうぞ。

 スモーカーのおじさんが言ったのは、ハンターには知らされていない事実。

 それを聞いたあたしは直ぐに行動に移した。


「ライラ、通信用の魔道具だして、絢華様につないで」

「っ分かりました」


 ライラはあたしの意図が分かったのか、あたしの首元にかかっている通信用の魔道具を取り出して円盤を回してチアーラさんへの記号に合わせた。

 それを確認したあたしは、魔道具に魔力を込めてチアーラさんに通信をつなげた。


《般若どうかしたの?》

「忙しいのにごめん、ちょっと緊急の要件が合って――」


 チアーラさんがまだ魔物の対処中なのは分かってるけど、今は気にしていられる余裕はない――まぁ、チアーラさんなら別に通信つないだままでも問題ないだろうし。

 あたしはスモーカーのおじさんとカリナさん――昨日助けた二人のハンターが来たことと、おじさんから言われたことを伝えた。


《他のハンターに話していないのがせめてもの救いね。でもそうね……流石に説明をしないわけにはいかないわね――その二人への説明を任せても良いかしら……?》

「うん、大丈夫だよ」


 最後の言葉の前に少し間があったけど……多分あたしのことを心配してくれてるのかな。

 今は、チアーラさんやモルガナ姉ちゃんのおかげで考え込まずに済んでるけど……昨日のあの人が、母さんの件以来、初めてあたしが殺した人だって言うことは、チアーラさんも分かってるし……。

 チアーラさんが心配してくれるのはありがたいけど、今はそっちを優先するわけにはいかないからね。


《一応ネス君に例の依頼のこと確認してもらえるかしら》

「あぁ、アレも関係してるもんね……もし承認を貰えてるようだったら、それも併せて説明するね」

《ええ……》

「心配しなくても大丈夫だよ――あ、でも、家に帰ったらちょっとだけ甘えさせて……」


 ライラや二人のハンターに聞こえないように、最後にチアーラさんにお願いする。

 身体の方は大丈夫だけど、今回は色々ありすぎて少し心が疲れてしまった……あたしだってもう大人ではあるけど、たまにはチアーラさんに甘えたいときはある。


《そうね、お説教が終わったらね》

「げっ……まぁ、そうだよね」

《それじゃあ……それは解いていいから、よろしくね》


 そうして説明について決まったので、通信を終える。

 まずは砦に移動してネスさんに例の依頼について確認して、その後にこの二人に昨日のアイツのことを説明する――依頼の承認がもらえて無ければ薬のことを伏せて、貰えてるなら薬のこともあわせて。


「ここで話すわけにはいかないから、まずは砦に行こう――ライラ許可貰ったからこれ切ってくれる?」

「分かりました――ふっ!」


 あたしがライラにお願いすると同時に、あたしを簀巻きにしていた縄が切られ、自由に動けるようになった。

 二人はすぐにでも話したいという様子だったけど、いつ誰に聞かれるか分からないからここで話すわけにはいかない。それを話すと、二人とも大人しくあたしについてきてくれた。

 ライラも既に聞いているため、一緒に来てもらうことにした。



 ライラと共に、スモーカーのおじさんとライラさんを連れて砦内の応接室に通してもらったあたし達の前には、ネスさんが座っている。

 昨日の件が無くても氾濫の時期は忙しいだろうに、時間を取ってくれるのはありがたい。


「忙しいのにごめんねネスさん」

「いえいえ、確か絢華殿から話のあった例の依頼の進捗でしたか?」


 砦に来た時に騎士の一人に彼への伝言を頼んでいたけど、ちゃんと伝わってたみたいで良かった。

 流石にまだ二日しか経ってないし、エミリア神聖法国からの返答はまだだと思うけど、チアーラさんから聞いておいてって言われたからね。


「それでしたらつい先程届きましたよ」

「もう?」


 許可の有無に関わらずハンター協会の管理をしている以上、そんなに時間があるとも思えないんだけど……既に返答までもらえているのは驚いた。

 とはいえ、その答えはどっちだろうか……あっち側から許可が出なければ話すことも調べてもらうこともできないからね。


「先方からは承認をいただきました――もちろん、そのハンターへの説明も必要ですし、拒否されればこちらからハンターに強制も出来ませんが」

「説明とか強制できないとかは他の依頼と同じだから仕方無いけど……早いね?」

「ええ、それだけ今回の件は先方としても重要だということです」


 ヒトを魔物のような理性無くヒトを襲う存在する薬物――ハンターは一般人には伏せられているけど、各国の上層はその存在を知っている。

 遺体からは何も分からず、今まで確保ができなかったその薬物を初めて確保できたことは、同様に調査に力を入れているエミリア神聖法国からしても優先度が高い、ということだった。


「しかしなぜ今、その依頼のことを確認に?ただ進捗を確かめに来たわけでは無いでしょう?」


 ネスさんが把握しているのはその依頼の承認に関する進捗を確認しに来たってことだけだから、彼からしたらそう思うのも仕方ない。

 チアーラさんからはネスさんに話して良いか確認忘れてたから言わない方が良いかも……いや、ガレリア騎士団長に話しても、結局は頭脳労働はネスさんの仕事になるから彼に初めから話を聞いてもらった方が良いかな。


「ちょっとその依頼と昨日のアレのことで緊急の要件でね――おじさんこの人は信頼できるよ。カリナさんの魔法のことも知ってる。悪いけど、もう一度話してくれる?」

「あ、ああ……」


 ネスさんに答えた後、その様子を見ていたスモーカーのおじさんにもう一度、カリナさんが見たものについて話してもらった。

 あたしもそうだけど、ネスさんも【解析魔法】で視られてしまう可能性を完全に忘れていたため、彼の話を聞き進めていくうちに、表情が強張っていったのが分かった。


「――なるほど……確かに例の物についても説明は必要ですね――しかし例の依頼と昨日の件のハンターが同じで助かりまし……いえ、失言でした。失礼しました」


 ネスさんもあたしやチアーラさんと同じような考えみたいだけど……最後の言葉に少しムッとしてしまった。依頼の件はあたしとチアーラさんが提案したものだけど、怖い思いをしたカリナさんを前に「助かった」とは言わないで欲しかったから。

 ネスさんもそれを察してカリナさんに謝罪をしていた――まぁ、この人は人の機微に疎いわけでは無いから、立場上そう考えなきゃいけないことが多いだけだ。


「さて、では本題へと移りましょう――貴女はカリナ殿でしたね……昨日のヤツは貴女が【解析魔法】で視た通り人間……いえ元人間というべきでしょうね」

「まさか、アンタらアイツの事を知ってたのか……!?」


 ネスさんの言葉にスモーカーのおじさんが聞き返した。

 昨日も狐達が”キマイラ“と言っていたって聞いたし、おじさんとしては自分とカリナさんしか知らないと思ってたんだから、ここまで驚いてるんだろう。

 騎士団側としては混乱が起こらないための配慮ではあったけど……実は騎士団はその存在を知っていたのに自分達には隠していたっていうのは……本人たちからしたら、不満しかないはず。襲われたのが自分や自分の大切な人だったのなら猶更。

ヒトを殺してしまったことでちょっとだけチアーラに甘えたくなったアーシスでした。

それなのに、しっかり自分の役目を全うするえらい。


★次回第八十七話は「06/20」を予定しております。

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